新卒採用の就活でエントリーシート(ES)や履歴書を書く際、多くの企業で記入することになる「志望動機」。どんなふうに書くと、説得力のある志望動機になるのでしょうか?人事として新卒採用を20年担当し、現在はさまざまな企業の人事・採用コンサルティングを手掛ける採用のプロ・曽和利光さんの解説と例文を紹介します。
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目次
そもそも企業は新卒採用では、志望動機の何を見ているのでしょうか?曽和さんに、企業が志望動機から知ろうとしていることや、志望動機を書く際の注意点などをうかがいました。
志望動機は、大きく「その企業の何に魅力を感じたのか(=what)」と、「それはなぜか(=why)」の2つで構成します。 その際に就活生が陥りがちなのは、「what」に重きを置いてしまうこと。ところが、企業は「what」にはさほど注目していません。企業が志望動機を見る際に注目しているのは、「why」なのです。
企業に対して魅力を感じた理由には、その人のなんらかの価値観や判断基準が必ず存在します。その価値観や判断基準に至った背景や経緯が、本人のライフヒストリー(成育歴)に基づいているような、根っこの確かなものかどうかを企業は確認しています。
新卒採用において、企業が志望動機を通して知りたいのは、「この企業で働くに当たって十分なモチベーションを持っているか」ということです。仕事の成果は、能力とモチベーションの掛け合わせで最大化されるもの。企業は、志望動機を通して、本人の能力を最大限発揮できるくらいにその企業の事業や業務に動機づけされているのかどうかを知ろうとしています。「なぜその企業に魅力を感じたか」のwhyに企業が着目するのは、その価値観や判断基準に至った背景や経緯を基に、仕事で大変なことがあっても踏ん張って頑張ってくれそうかどうかを判断しているからです。「ちょっとした興味で」のようなものだと、踏ん張りが利かないのではないか、という評価になるのです。
企業が注目するのは「なぜ魅力を感じたのか(why)」ですから、志望動機を書く際は、「why」を丁寧に説明するために、「何に魅力を感じたのか」2~3割:「それはなぜか」7〜8割くらいで構成しましょう。 なお、「入社したらどんなことに挑戦したいのか」「どのような強みが仕事で生かせるのか」といった情報は、文字数が許せば最後に入れてもいいと思いますが、必須ではありません。まずは、どれだけ根強い動機を持っているかを伝えることを第一に考えましょう。
わかりやすく相手に伝えるためには、まずは端的に結論を伝えることが大切になります。その企業のどこに魅力を感じたのか、志望した理由を最初の一文で簡潔に伝えましょう。
次に、魅力を感じた理由・根拠を伝えることで説得力のある志望動機になります。その際、「仕事選びの軸」として大切にしている自分の価値観とその企業との接点を、「魅力を感じたポイント・理由」として伝えることができれば、自分ならではの志望動機になるでしょう。
その上で、文字数が許せば「入社したらどんなことに挑戦したいのか、どのような強みが仕事で生かせるのか」を伝え、全体をまとめましょう。そうすることで、あなたの「やる気」が伝わるとともに、企業側があなたと一緒に働くイメージを持ちやすくなるでしょう。
商品に魅力を感じた、社風に魅力を感じたなどと伝えたい場合は、「どんなふうに魅力的だったのか」など、できるだけ具体的に書きましょう。 特に、ESで選考を行う企業に対して具体性に欠けた内容を提出していては、「何も得られる情報がなかった」と判断され、落とされてしまうでしょう。「これってどういうこと?具体的に教えて」と親切に問い合わせてくれる企業はありません。また、ESでの選考がない場合も、具体的に書いておけば、志望動機は書面で十分理解できたとして、面接では別の質問に時間を割いてもらえます。
その企業でないといけない理由を無理やり作る必要はありません。それよりも、自分のこれまでの経験やライフヒストリーに基づいた「それはなぜか(=why)」を伝えることを重視しましょう。
学生の皆さんが陥りがちなのは、「入りたいのは貴社だけです感」を出そうとして、その企業でないといけない唯一無二の理由を無理やり作ること。これは、志望動機に延々と事業説明を書いてしまう一因でもあります。 自分の価値観や判断基準に合う企業は複数あって当然です。仮に、面接で「この動機なら他社でもいいよね?」と質問する企業があったとして、「確かにそうかもしれません」と答えた学生に、「なんだと!」と怒りをあらわにする企業は少ないと思います。
人が外見を好まれるよりも内面を好まれた方がうれしいように、企業にも「ここを魅力に感じてほしい」というポイントがあります。それは、企業の理念や文化、社風、事業上の目標など、普遍的で変わらない、コアな部分についてです。したがって、志望動機で「何に魅力を感じたのか(=what)」を挙げる際は、できるだけこれらの企業のコアな部分にフォーカスを当てることをオススメします。
逆に、世の中の注目を浴びているけれどまだ始まったばかりの事業や制度、説明会で会った社員個人など「可変的なもの」は、企業にとっては「一番の魅力として捉えられても困る」ポイントです。これらの内容を志望動機で提示されると、「今後事業戦略が変わるかもしれないし…」「社員は辞めるかもれないし…」「この企業の一部しか見てくれていないのでは?」などと、企業側も不安になりかねません。
もしも、可変的なものに魅力を感じている場合には、それを「きっかけ」として捉えて、それがどんな企業のあり方につながっているのかを深掘りしていくと良いでしょう。例えば、出会った社員から企業の姿勢を感じたならその姿勢を、制度に魅力を感じた場合はその制度から見える企業の文化や社風、例えば「実力主義の社風に魅力を感じた」として伝えると、説得力が高まります。
なお、職種別採用の場合は、特定の事業や仕事にフォーカスを当てて伝えても問題ありません。
自分の考えや、思いを伝える志望動機では、“こそあど言葉”は使わないようにしましょう。
例えば、「世の中に“これだけ”影響を与えている企業は貴社だけです」など、具体性に欠ける形容詞や比喩表現、「これだけ」などの“こそあど言葉”は、何も言っていないのと同じです。具体的な表現に置き換えるようにしましょう。
そのほか、よくある間違いが「貴社」と「御社」の混同です。ESや履歴書で企業について書く時は、「貴社」と書くようにしましょう。
言葉の使い分けについて、詳しく知りたい人はこちら↓
「御社」と「貴社」の違いとは? 面接やエントリーシートではどちらを使う?例文付きで解説
以下に、魅力を感じたポイントごとの志望動機の例文と、人事・面接担当者から見たときの印象を紹介します。自分の志望動機を書く上でのヒントにしてみてください。
貴社の説明会で話をうかがった社員の皆さんが、共通して「お客さまを支援したい」という熱い思いを持っていらっしゃることに魅力を感じました。私は留学生支援サークルで、来日後間もない留学生のサポートに取り組んでいます。外国籍の友人から、日常会話はできても、書類手続きなどで困ることがあるという話を聞き、自分にできることを手伝いたいと思ったのがきっかけです。留学生が感じる不便や疑問を聞き出して必要な支援をしていくのは根気がいりますが、「日本での生活をできるだけ快適に始められるように」という思いで向き合ってきたので、貴社の社員の皆さんのお客さまに対する思いに共感しました。
社員の方々の熱い思いにどうして魅力を感じたのか、留学生サポートに取り組んでいるという、自身の具体的な行動を絡めて語っているのが良い点ですね。加えてなぜ留学生サポートに取り組もうと思ったのか、どのような価値観があったから行動できたのかなども具体的に書いてあるので、社員の人たちのお客さまへの思いに共感した理由の説得力が高まります。
貴社の「年次や年齢に関係なく互いに意見を出し合い、より良いサービスをつくっていく」という社風に魅力を感じました。所属していた学園祭実行委員会で、学年を問わず意見を出し合い、出た意見はまずは否定せずに検討し、さらに意見を出し合ってより良い結論を出すという環境で、1人ではできないことも皆でアイデアを出し合えば来場者に喜んでもらえる企画を実現できることを目の当たりにしました。そこで、働く上でも同様の環境で頑張りたいと考えています。
相手を尊重しつつ、自分の意見を伝えられる「アサーティブコミュニケーション」を、学園祭実行委員会の活動の中で身につけてきたのですね。企業でやる仕事のほとんどにチームワークが必要とされる今、集団の中で生かせる能力・習慣・性格を盛り込むのは一つの手です。自社においても活発に意見を出し合いながら、チームワークの醸成にひと役買ってくれる人物だということが伝わるでしょう。
土地開発やビル・施設造りを通してまちづくりに携わりたく、貴社を志望します。高校時代、私の地元駅の前に、再開発によって多数の店舗や行政機関、保育園などが入った複合施設が建てられたことで、街が活気を取り戻す様子を目の当たりにしました。通勤・通学の人だけでなく、子どもからお年寄り、中高生、家族連れまで人の往来が増えてにぎやかになり、行き帰りが楽しくなったことを覚えています。貴社がこれまで手がけてこられた土地開発は、地元の既存商店とも連携し、地域一帯が活性化する仕掛けに富んでいる点に魅力を感じました。私も、貴社のまちづくりに携わり、人々の暮らしを豊かにすることに貢献したいと思います。
ただ建物が建てられるだけではなく、そこに暮らす人々や訪れる人の満足をかなえるまちづくりを肌で感じられてきたのですね。まちづくりに興味を持った理由が実体験に基づいていることが伝わります。さらに、どんなまちづくりにかかわれると思ったのか、志望する企業ならではの魅力が書かれているので、その企業への本気度がより伝わるでしょう。
企業の抱えるリスクに応じて、最適な保険商品や、時にはニーズに合わせて新しい保険サービスを検討し、提案するというビジネスに魅力を感じ、貴社を志望します。私は、テニスサークルで練習メニュー作りを担当しています。初心者と経験者両方の意見を聞いてメニューを組み、数カ月後に初心者から「上達した」、経験者から「実戦経験が積めた」などと喜んでもらえたときにやりがいを感じます。この経験を生かして、お客さまと社内をつなぐ役割を果たしたいと思います。
初心者からも経験者からも好評な練習メニューを考えられてきたのですね。何が求められているのか細部までヒアリングし、それをしっかりとかみ砕いた上で最適な答えを出せるという、保険の提案で必要とされるスキルが備わっていることがよく伝わりました。
個人のお客さま一人ひとりのニーズに応えて最適な住まいを提案する提案営業の仕事に魅力を感じて貴社を志望します。私は、テーマパークの案内係のアルバイトを通じて、お客さまのご要望やお困りの状況に的確にお応えすることで、お客さまが笑顔を取り戻されることにやりがいを感じていました。貴社においても、お客さまのニーズを丁寧にヒアリングし、より良い提案ができる営業として、お客さまの笑顔を生み出す仕事をしたいと思います。
あなたの丁寧な対応と笑顔が、テーマパークに行くというお客さまの特別な日の演出にひと役買っていたのですね。具体的なやりがいがを明示しているので、自社においても同様に、お客さまのために頑張ってくれる人物だろうという期待が持てます。
医療機器の開発に携わりたく、貴社を志望します。私は大学院で光に関する研究に取り組んできました。学会などで話を聞く中で、光に関する知識・技術の医療分野への応用の可能性がまだまだ広がっていること知り、医療機器開発という分野でこれまで学んだ知識や、研究を通して培った粘り強さを生かしたいと思いました。最新の知識・技術を追求しながら、より使いやすく、高性能な製品の開発や、新しい製品の開発に貢献したいと思います。
研究を進めていく中でさらに知識・技術を追求したいと思われたというお話から、入社してからも再現可能な学習意欲の高さが伝わりました。人間の価値観は、長い時間の中で繰り返されることで作られるものです。就活生は特別なイベントや期間の短い話を取り上げがちですが、このように継続して長くやってきたことから考えると良いでしょう。
誰もが利用しているインターネットサービスを、裏で支えているSEという仕事に魅力を感じて貴社を志望します。私は、幼い頃からものづくりが好きで、現在は趣味でイラストを描いています。ある時、簡単なプログラミングを覚えて作品の紹介サイトを作成したところ、海外からも多数の賞賛コメントをもらい、距離や言語の壁を超えて人と人とを繋ぐことができるインターネットの仕組みに興味を持ちました。国内だけではなく、海外の顧客に対しても多数のWebサービス提供をしている貴社でSEとして働くことで、より多くの人を笑顔にするようなものづくりに携わりたいと考えています。
業界と職種を志望した理由と、応募企業にひかれた理由が明示されています。プログラミングを覚えてサイトを作成したという具体的なエピソードによって、既にSEとしてのはじめの一歩を踏み出していることが分かり、行動力を印象づけることもできています。
個人の意思を尊重して仕事を進めている環境に魅力を感じたため、貴社を志望しました。私は大学で所属している演劇サークルで、集客のためにSNSの運用を提案しました。公演の告知のみではなく、配役の解説や作品の1シーンを演じた短い動画の配信を続けたところ、興味を持ってくれた方がチケットを購入してくれるようになりました。この経験を通して、顧客の行動を分析しアイデアを形にしていくことに面白みを感じました。貴社は、観た人が楽しめる広告を制作するために、社員一人ひとりが考え行動しているというお話を聞き、私もそんな環境で顧客に届く広告制作に励んでいきたいと考え貴社を志望しました。
「なぜ広告業界を目指しているのか?」を、本人の価値観とともに書かれているため、志望の本気度が伝わります。自分なりに工夫した経験を、具体的なエピソードで伝えているのでイメージしやすい点も良いですね。
「既存の商品に追随するのではなく、新しさのある商品を積極的に生み出す」貴社の理念に共感しました。私は、イベント企画サークルで「前例を踏襲するのではなく、何かしらの改善や、新しいことを」という考えで活動しています。例えば、新入生歓迎イベントでは例年バーベキューをしていたのですが、友人同士で固まってしまい、新しい交流が生まれないことを課題に感じていました。そこで私は、参加者全員と必ず1回は話すように仕掛けたゲームを取り入れるようにしてみました。結果、参加者からも好評で、ひと工夫することでより良くできることを実感しました。貴社においても、この姿勢を生かして仕事に臨みたいと思います。
新しいことに取り組んだ背景にある課題や、取り組みの導入までに至ったプロセスも書いてあることで、あなたがどんな価値観を持っている人物かが伝わり、企業理念に共感したことの説得力が増しています。
個人の成果に応じた評価・報酬に重きを置いた評価制度に魅力を感じ、貴社を志望します。私は量販店での携帯電話販売のアルバイトで契約件数に応じて時給が上がり、さらには、より責任のある役割を任せてもらえることにやりがいを感じてきました。結果を出すことで高く評価されるとともに、より高い目標に挑戦する機会を得られることが、私のモチベーションの源泉です。貴社においても、積極的に技術や知識を吸収しながら、評価される新しい技術の開発に貢献していきたいと思います。
アルバイト先での状況やその時の心情を具体的に盛り込むことで、自分がどんな時に頑張れるのかを明示できていていいですね。企業が用意してくれる環境とあなたのモチベーションが高まる環境が一致していることがわかり、自社において十分にパフォーマンスを発揮してくれる人物であると判断できます。
自らの意思で受講選択できるスキルアップ研修や、社員による自主的な勉強会が盛んな点に魅力を感じ、貴社を志望します。私は、幼少期から図鑑を読むのが好きで、知識を得て、誰かの役に立つことに喜びを感じていました。保険業界での働くことを希望してからは、ファイナンシャルプランナーの勉強に励んでおり、昨年3級を取得し、現在は2級のための勉強を行っております。成長支援に力を入れている貴社で、継続的なスキルアップを図ることで、今後も継続して、保険・金融関連の資格を取得し、得た知識をお客さまに還元したいと考えております。
教育制度に魅力を感じたという志望動機は、ともすると「教えてもらうこと待ち」という、受け身な印象を与えかねませんが、すでに自主的に勉強をしている様子とその理由を伝えているので、自己研さん意欲が高いことが伝わります。教育制度を活用して、どうなりたいのか、具体的なイメージを伝えていることも良いですね。
私の出身地である○○県の活性化に資金面から貢献されていることに魅力を感じ、貴行を志望します。私は、高校卒業まで育った○○県に非常に愛着を持っており、振興・活性化の助けになりたいと考えています。また、私自身、奨学金の受給がなければ大学生活を送れなかったことから、お金のありがたみを強く感じています。ぜひ貴行の一員として資金面から地元企業を支え、○○県の活性化に貢献したいと思います。
〇〇県への愛だけでなく、なぜその銀行なのか、さらにどう貢献していきたいのか、自身の経験を顧みて具体的に伝えることができています。その地域の活性化にどう貢献しているのかサービス面にも触れ、その企業ならではのポイントにも注目できていていいですね。
「なかなか志望動機が整理できない…」「志望動機の文章がイメージできない…」という人は、まずは「興味を持った企業のどんなところに魅力を感じたか」という点から考えるのも一つの方法です。今回は、魅力に感じた点から志望動機を整理する方法を紹介します。 例えば、人が企業に魅力を感じるポイントは、次の4つに分けることができます。
あなたが興味を持っている企業に魅力を感じた点は、どれに近いでしょうか?
魅力を感じたポイントについて、なぜそう感じたのか、過去のどんな体験や価値観が影響しているのかを深掘りしていくと、ライフヒストリー(育成歴)に基づいた志望動機を作る参考になります。ぜひ、自分の志望動機を書く上でのヒントにしてみてくださいね。
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【監修】曽和利光さん
株式会社人材研究所・代表取締役社長。1995年、京都大学教育学部教育心理学科卒業後、リクルートで人事コンサルタント、採用グループのゼネラルマネージャーなどを経験。その後、ライフネット生命、オープンハウスで人事部門責任者を務める。2011年に人事・採用コンサルティングや教育研修などを手掛ける人材研究所を設立。『「ネットワーク採用」とは何か』(労務行政)、『人事と採用のセオリー 成長企業に共通する組織運営の原理と原則』(ソシム)など著書多数。最新刊に『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)がある。
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