高齢者や障がい者など日常生活に何らかの支援を必要としている人に対して、さまざまな形でサービスを提供するのが福祉・介護業界だ。広義には児童保育も含まれる。
近年の日本では、いわゆる少子高齢化が進み、介護を必要とする高齢者が増えている。また、核家族化の進行や、介護をする家族の高齢化などによって、家庭内で介護を行うことの限界が指摘されるようになっている。このような社会背景を踏まえ、政府は、高齢者の介護を社会全体で支え合う仕組みの構築を目指し、2000年に介護保険法を施行し、介護保険を創設した。
これにより、40歳以上の国民は介護保険に加入し、保険料を負担する義務が課されるようになり、一方、介護が必要と認められた人は、国が認める介護に関するサービスを1~3割の費用負担(税金・保険料が9~7割分を支払う)で利用できるようになった。
介護保険のサービスを利用するためには、市区町村の窓口で要介護・要支援認定申請を行い、「どのような介護が、どの程度必要か」を判定する要介護・要支援認定を受ける必要がある。その際、要介護認定(1人で生活することが難しい状態)を受けた場合は「介護サービス」、要支援認定(1人で生活することは可能だが、部分的な支援が必要な状態)を受けた場合は「介護予防サービス」を受けることができる。
介護サービスは、介護を受ける人が自宅に住みながら利用できる「居宅介護サービス」と、介護老人福祉施設などに入所して利用する「施設サービス」、生活圏を離れずに自立した生活ができるような支援を受ける「地域密着型介護サービス」に分類される。
居宅介護サービスには、以下のような種類がある。
施設サービスは、4つの施設に分類される。
地域密着型介護サービスは、「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」「夜間対応型訪問介護」などの各種サービスを、利用者が暮らす地域内から受けることができる。
介護予防サービスには、自宅で受けられる「訪問サービス」、通所介護を行う施設を利用する「通所サービス」、短期的に施設に入所する「短期入所サービス」、生活圏を離れずに自立した生活ができるような支援を受ける「地域密着型介護予防サービス」がある。
訪問サービスは、「介護予防訪問入浴介護」「介護予防訪問看護」「介護予防訪問リハビリテーション」「介護予防居宅療養管理指導」などが挙げられる。
通所サービスには、「介護予防通所介護(デイサービス)」「介護予防通所リハビリテーション(デイケア)」がある。短期入所サービスには、「介護予防短期入所生活介護(ショートステイ)」「介護予防短期入所療養介護」がある。
地域密着型介護予防サービスには「介護予防認知症対応型通所介護」「介護予防小規模多機能型居宅介護」「介護予防認知症対応型共同生活介護」があり、認知症を患っている人や介護が必要な高齢者が生活圏の地域内で利用することができる。
ここまで介護保険が適用されるサービスを紹介してきたが、介護を必要とする人の中には、介護保険の適用外となるサービスへのニーズも存在する。例えば、家事や買い物の支援、配食、高齢者の安否確認や見守りといったサービスは介護保険の対象外だ。
こうした「保険外サービス」の料金は、事業者ごとに独自に設定でき、収益増などの経営的にメリットも見込めるため、この領域に力を入れる企業は今後も増えそうだ。
内閣府の「令和4年版 高齢社会白書」によると、2021年時点における日本の65歳以上の人口は3621万人、総人口に占める割合は28.9パーセントとなっている。出生率の低下などで総人口が減少する中、高齢化率は今後も上昇を続け、2036年に33.3%となり、国民の3人に1人が65歳以上となることが見込まれている。2042年以降は65歳以上人口が減少に転じても高齢化率は上昇を続け、2065年には38.4%に達し、国民の約2.6人に1人が65歳以上となる社会が到来すると推計されている。
介護保険の利用対象となる65歳以上の被保険者は、2000年4月末時点では2165万人であったが、2021年3月末には3579万人となり、1.7倍に増加。要介護(要支援)認定者も218万人から682万人と3.1倍に増加し、サービス利用者は149万人から509万人と3.4倍に増加している。福祉・介護市場の需要は大きく、当分拡大を続けていく業界だとみられる。
急速な高齢化を背景に、福祉・介護業界ではすでに慢性的な人手不足が起きている。 厚生労働省は、2025年における介護業界の人材需要が253.0万人に達する一方、人材供給は215.2万人にとどまると予測。37.8万人もの人手不足が発生する見込みとなっている。
2021年に厚生労働省が公表した「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数」によれば、2023年度には約233万人、2025年度には約243万人、2040年度には約280万人の介護職員を確保する必要があると推計されている。
政府は「介護離職ゼロ」を目指して介護職員の待遇改善を進めている。 業界も人材の需給ギャップを埋めるため、従業員の賃金引き上げや昇給制度、キャリアアップ支援など待遇改善を進めて定着率を高めようとする動きが盛んだ。 また、外国人技能実習制度(後述)を活用して介護従事者を確保しようとしたり、ロボットを介護現場に導入したりして、従業員の負担を軽くする取り組みにも注目が集まっている。
医療との連携を目指す動きにも注目だ。介護保険法に基づく介護サービスには、全26種類あるが、2012年に創設された「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」のように、訪問介護員だけでなく看護師などと連携しているものもあり、医療機関と協力関係を深める介護事業者が増えている。 また、今後も需要増が見込まれているため、大手企業を中心に取り組み強化を図る事業者が増えている。
福祉・介護市場の拡大が続くと見込まれる一方、介護費用の支払いが増大することにより、保険料や税金の支出も増え、財政面で課題が生じることを指摘する声も存在する。そのため、政府や業界はいくつかの方向性を模索している。1つは予防分野の強化だ。前述したように、介護予防に関するさまざまなサービスが用意されている。より介護を必要とする度合いが高まるほど、介護サービスの提供に必要なコストは上昇する傾向があるため、予防に努めることで、高齢者にできるだけ自立した生活が可能な状況を継続してもらうことが模索されている。また、介護が必要な状況になったとしても、地域とのかかわりの中で高齢者が自立した生活を継続することが可能な社会をつくることが目指されている。加えて、ロボット導入による介護現場の負荷軽減の試みや、ICT活用などを通じてより効果的・効率的に福祉・介護サービスを提供する取り組みも模索されている。
団塊の世代が75歳前後になり、高齢化のスピードが加速している。 業界の人手不足の解消、労働環境の改善など、解決しなければならない問題は多い。
団塊の世代とは、第2次世界大戦終了後の1947~49年にかけて生まれた世代を指す。 この時期、日本では毎年の出生数が260万人を超えており、空前のベビーブームだった。2025年には75歳以上となり、後期高齢者に到達する。また、国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、第2次ベビーブーム期(1971年~1974年)に生まれた団塊ジュニア世代が65歳以上となる2040年には、総人口に占める高齢者人口の割合は、35.3%になると見込まれている。今後、介護市場はさらに急拡大していくことが予測されている。
今後の高齢化や現役世代の減少のさらなる進行などに対応し、介護保険の持続可能性を確保するために、国の方針として地域と連携して見守る体制づくりや、自立支援の推進などが進められている。2025年までには医療・介護・予防・住まい・生活支援が包括的に確保される体制として「地域包括ケアシステム」の構築の実現に向かう方針となっている。
また、科学的裏付けに基づく介護(科学的介護)を促進するため、厚生労働省は介護施設・事業所で行っているケアの内容・計画や利用者の状態などを収集・分析するシステム「LIFE」を提供。2021年度の介護報酬改定にて、「LIFE」の活用を要件とする加算が設けられた。 収集・蓄積したデータは、フィードバック情報としての活用に加えて、厚生労働省などにおいて、施策の効果や課題などの把握、見直しのための分析にも活用される方針だ。
今後市場の拡大が見込まれる介護業界は、医療と異なり異業種からの参入も比較的しやすい。 2015年以降は損害保険会社や生命保険会社、大手スーパーマーケット、スポーツ用品メーカー、アパレルメーカーなど、多彩な企業が参入。元気なうちにケアやサービスの整った住まいに移って、安心して暮らしたいシニア層を対象にした有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅の運営や、高齢者向けの商品を手がけている企業が、介護事業者と提携して福祉・介護事業に乗り出すケースも目立つ。
昨今は業務のDX(※)化に役立つツールを開発・提供するIT企業も増加。入所者や利用者の要介護度に合わせ、ケアプランや機能回復のリハビリプランを自動作成できるAIツールや、施設で提供するおやつメニューの自動作成と商品の配達を行うサブスクリプションサービスなどを提供するサービスなども登場している。
※DX…デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)の略語。デジタル技術を活用した変革のこと。企業が業務プロセスや、製品・サービス、ビジネスモデルを変革すること。
重いものを軽々と持ち上げられるなど、身体に装着することで人の動きを支援する装置「ロボットスーツ」(パワードスーツ、パワーアシストスーツなどとも呼ばれる)を用いて、要介護者をベッドや車椅子に移乗する介助や入浴介助などに活用する取り組みも推進され、安全な介護を提供するとともに、職員の健康を守るために活用されている。また、ICT活用により、手書きの介護記録などの情報をシステム入力し、施設のスタッフ間や外部のケア関係者と情報を共有するなどで効率化を図ったり、見守りセンサーとタブレットなどを連携させ、入所者の見回り回数を軽減することで職員の負担を減らしたりすることに取り組んでいる施設もある。
発展途上国から外国人実習生を受け入れて技術・知識を学んでもらい、帰国後、自国の発展に役立ててもらうための仕組み。これによって、介護現場での人手不足を緩和できるのではと期待されている。ただし、2022年の夏ごろから、本制度についての見直しが議論され始めており、その動向について注視する必要がある。
福祉・介護系企業は、従業員の残業時間の低減や短時間労働など、柔軟な労働スタイルを用意することで、より働きやすい環境を提供しようと努力している。 また、パラレルキャリア(本業以外でも仕事をしたり、ボランティア活動に参加したりすること)を支援する企業もある。
地域包括ケアシステムの構築が急務となっている現在、介護サービス事業者が医療機関と協力しながら高齢者のケアを担うケースは、今後さらに増えそう。また、医療機関が直接、介護サービスを提供するところもある。
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【監修】吉田賢哉(よしだ・けんや)さん
株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 上席主任研究員/シニアマネジャー
東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。新規事業やマーケティング、組織活性化など企業の成長を幅広く支援。従来の業界の区分が曖昧になり、変化が激しい時代の中で、ビジネスの今と将来を読むために、さまざまな情報の多角的・横断的な分析を実施。
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※記事制作時の業界状況を基にしています
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教育業界には、幼稚園、小学校、中学校、高等学校などの教育機関のほか、就学期の子どもを対象とした学習塾・予備校などの学習支援機関、社会人を対象にした語学・資格スクールやカルチャースクール、企業向けの社員研修を扱う企業など、幅広い企業がある。
高齢者や障がい者など日常生活に何らかの支援を必要としている人に対して、さまざまな形でサービスを提供するのが「福祉・介護」業界だ。広義には児童保育も含まれる。
ここでは、公社とは公益社団法人や公益財団法人など、私的な利益を追求するのではなく、公(おおやけ)、つまり社会のために存在している企業、または団体を指す。かつて中央官庁が担当していた事業のうち、一定の事務・事業を分離し、業務の質の向上や活性化などを狙って設立された独立行政法人も公社の一つと言える。
人材サービス業は、顧客企業のニーズに応じて人材を派遣したり、紹介・斡旋したりする事業だ。ビジネスの変化スピードが高まる中で、「新たな事業部門に適した人材を集めたい」「業務拡大に伴い早急に人員を確保したい」「勤怠管理を丸ごと委託したい」など顧客企業のニーズも多様化し、需要も高まっている。
鉄道会社は、人やモノを運ぶ移動手段としての鉄道を維持・運行している企業だ。また、多くの人々が集まる「駅」を基点とし、不動産、小売業、ホテル、レジャー施設といった事業を運営しているところもある。
目次航空・空港業界とは航空・空港業界の仕組み航空・空港業界にかかわる職種航空・空港業界の現状航空・空
レジャー・アミューズメント・パチンコ業界は、テーマパークや遊園地、動物園や水族館、ゲームセンター、カラオケ、パチンコホールなどの運営を通じて娯楽を提供している。
ホテル業界は利用者に対し、宿泊するための部屋や、ホテル内のレストランや結婚式場での各種サービスを提供している。ホテルや旅館の客室は、下図のように、自社サイトによる直接販売と、旅行会社・旅行代理店や旅行予約サイトなどを通じた委託販売によって消費者に提供される。近年は、インターネットからの予約が主流になりつつある。また、旅行予約サイトなどでは、ホテルの予約だけでなく、鉄道や飛行機の旅行券も併せて「セット予約」できる場合も多く、消費者の利用は増えている。
一般的に旅行業界とは、旅行者のための移動手段や宿泊施設手配、パッケージ旅行のプラン作成や販売などの事業に携わる者を指す。法律上、旅行業に従事する「旅行会社」と旅行業者代理業を行う「旅行代理店」の2つに分類される。
店舗に行って食事をすることを「外食」と呼ぶのに対し、弁当や総菜など、家庭外で調理された食品を持ち帰って自宅で食べることを「中食(なかしょく)」と呼ぶ。フードサービス業界は、レストラン、ファストフード店、喫茶店、居酒屋などの「外食」を手がける企業と、いわゆる「デパ地下」で弁当や総菜などを販売して「中食」に携わる企業とに大きく分かれている。
不動産業界とは、土地や建物などにかかわる業界のこと。商業施設、ビル、マンション、リゾート施設などを開発するデベロッパー(開発業者)、注文住宅や、建売住宅などを手がけるハウスメーカー、物件の売買・賃貸を仲介する不動産仲介業者なども、不動産業の重要な役割を担っている。
※1 2024年3月6日時点のリクナビ2024の掲載情報に基づいた各企業直近集計データを元に算出