ダイバーシティとは?重視される理由やメリット、企業選びでの見極めポイントを知っておこう

近年、多くの企業がさまざまな形で「ダイバーシティ」を推進していると言われます。ダイバーシティとはどういった意味で、どんなメリットがあり、それによってこれからの働き方はどう変わるのでしょうか。また、就活でダイバーシティを推進する企業を志望する場合、どのような点に注目すればよいかも併せて解説します。

ダイバーシティとは

近年注目されている「ダイバーシティ」と、そこから派生した言葉の意味について説明します。

ダイバーシティという言葉の意味

ダイバーシティは、直訳すると「多様性」。性別・年齢・働き方・国籍・障がいの有無など、さまざまな違いを持つ人たちが同じ場に集った状態を言います。これまでは「画一性」を求めがちだった日本の企業組織を見直し、「多様な人材を登用していこう」という潮流が生まれたことで、注目されるようになりました。

ダイバーシティ&インクルージョンとの違い

今は「ダイバーシティ&インクルージョン」という表現もよく耳にします。インクルージョンとは「包括」「包含」の意。多様な人が集うだけではなく、すべての人が組織に受け入れられ、チームとなり、活躍しながら共に成長していける環境を意味し、「ダイバーシティ」の考え方がより進化したものだと言えるでしょう。

さらに最近は「エクイティ」=「公正性」という言葉も加わり、「ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン」と表現されることも増えてきました。

企業のダイバーシティ取り組み事例

現在、さまざまなアプローチでダイバーシティ推進に力を入れている企業の事例を、3つご紹介しましょう。

① 納得度の高い「実力主義」で全員が大活躍する会社に

【専門商社・A社】
社員のやる気を引き出す公平な「実力主義」と、決してリストラをしない「生涯雇用」により、一人ひとりが力を発揮できる経営に取り組んでいます。

評価は透明性の高い実力主義。また、業務にかかわったメンバー全員が当事者意識を持てるよう、粗利(売り上げから原価を引いた利益)の一定割合を成果賞与として支給する制度があり、その分配は社員同士の話し合いで決められます。
年齢、国籍、役職、雇用形態を問わず、「数字に表れない貢献度」も含めて公正に評価されることで、社員は高いモチベーションを持って仕事に取り組み、業績も数十年にわたり黒字経営を維持しています。

② 管理職の意識改革でポジティブな組織風土づくり

【製造業・B社】
多様な社員が活躍するフィールドの拡大や、男性の育児参画促進やLGBTQに関するセミナーなどを積極的に開催するほか、ダイバーシティマネジメント研修にも力を入れています。

マネジメント層がダイバーシティについて学びながら、自身の職場に持ち帰り実践するアクションラーニングを実施。一人ひとりの部下と面談し、何を実現したいか、どんなキャリアを描きたいかに耳を傾け、それらを役割に落とし込むことで、個人のキャリアビジョンの実現と組織のビジョンや目標との擦り合わせを徹底的に行います。
さらに優秀な取り組みについては成果発表会を実施して全社に共有。社員全員が活躍できる組織づくりを実践しています。

③ 徹底した生産性向上によって「定時退社」を推進

【通販業・C社】
社員の大半が女性、ワーキングマザーも多数。女性が働きやすい環境をつくるため、残業なしの定時退社を積極的に推奨し、徹底した生産性向上に取り組んできました。

代表的な取り組みは、業務の棚卸しを繰り返し行い「ムダな仕事」は徹底してなくしていくこと。例えば社内メールでの時候のあいさつや前置きをなくし、件名で用件が伝わる場合は本文が空でOKといったルールを設けるなど、細やかな時間削減を進めています。さらに社員だれもが新規事業提案できる制度の導入などで、社員が主体性を持って仕事にかかわる風土を醸成。社員の残業がほぼないにもかかわらず、継続して業績を伸ばし続けています。

オフィスで仕事をしている社員たちのイメージ

就活の企業選びの際は、ダイバーシティに注目するべき?

ダイバーシティが注目されるようになった背景には、主に2つの要因があります。

1つは、少子高齢化によって企業の人材不足が深刻となり、以前のような年功序列型で画一的な会社組織が維持できなくなったことがあります。当初は「女性活躍」が推進されましたが、それでも人材不足は解消されず、シニア層や外国人などを含めた、さらに多様な人材を活用しようという潮流が生まれました。

もう1つは、ダイバーシティ推進によるイノベーションの創出です。ここ30年ほど日本企業は、時代の変化やグローバリゼーションについていけず、世界に後れを取ってしまいました。そこで、変化に対応して成長発展していくため、さまざまな感性や価値観を持つ人を取り込んで、変革の起爆剤になってもらおうと考えたのです。
ダイバーシティ推進は「組織が変わらなければ成長はない」という企業の危機感と意思の表明でもあります。したがって、就活でも各社の取り組みには注目していくべきでしょう。

「働きやすさ」だけでなく「働きがい」の視点を大切に

ただ、近年は国が進める「働き方改革」が先行したこともあり、ダイバーシティというと、どうしても残業や休日出勤がない、出産・育児・介護がしやすいなどの「働きやすい環境」ばかりをイメージしてしまう人が多いようです。確かにそれも重要ですが、ダイバーシティ推進で企業が真に期待するのは、多様な人材の活躍による変革と、成長であることを忘れてはいけません。

働く側にとっても、働きやすい労働環境が整備されれば不満は解消されますが、それだけで満足感は得られません。仕事で満足感を得るためには、目標を達成したり、責任を担ったり、自分の持ち味を評価してもらえるなど、意欲高く働けるための「動機づけ」が不可欠です。そして、すべての人にその機会があることがダイバーシティの本質です。企業の取り組みに注目する際は、「社員の活躍をバックアップする制度があるか」「チャレンジできる環境があるか」などにも目を向けることが大切です。

ダイバーシティが進む企業に就職するメリット

ダイバーシティを推進する企業で働くメリットの例と、働く上で意識しておきたい課題について解説します。

働きやすさを実現する制度が充実している

ダイバーシティ推進で多くの企業が取り組んでいるのが、長時間労働の改善。生産性を上げることによって、残業や休日労働の削減を進めています。働き方の柔軟性を高める取り組みとして、フレックスタイム制や、リモートワークを推進する企業も増えているため、ワークライフバランスを実現しながら働きやすくなります。さらに、男性の育児休業取得の推進や、介護休暇・休業の導入が進めば、育児や介護などの事情で離職することなく、働き続ける選択肢が増えるでしょう。

やりがいを感じながら働くことができる

多様な価値観を持つ人材を活用するために、一人ひとりの仕事に対する志向や目標を大切にし、自社の成長とどうマッチさせていくかに取り組む企業も増えています。例えば、人材が必要な部署や、新たな事業に社員が自分の意思で挑戦できる「社内公募制度」や、個人の考え方を生かすマネジメントが浸透している企業であれば、自分のキャリアに関して主体的に考え、行動し、やりがいを持って働き続けられる可能性が広がるでしょう。

ダイバーシティが進む企業で働く時の注意点・課題について

ダイバーシティ推進企業で働く際に注意したいことや、ダイバーシティの現状と課題点について解説します。

自分の責任でキャリアを築いていく必要がある

企業におけるダイバーシティとは、決して「従業員に優しい」だけの世界ではありません。多様な価値観と意思が尊重される組織では、同時に、自身の責任で自律的なキャリア形成をすることが求められるからです。労働時間や働く場所の選択肢が増えるにつれ、企業は個人に対してさらなる成果を求めます。自由と責任はセットなのです。短い時間でどうすれば成長できるか、生産性が上がるかを、自身で考える必要もあります。個が尊重される社会には厳しい一面もあると理解しておきましょう。

ダイバーシティを推進している企業の探し方

企業が取り組むダイバーシティ推進について知るには、企業のWebサイトで情報をチェックする方法があります。特に2023年3月決算期からは、上場企業を中心に従業員の育成や活躍への投資に関する「人的資本経営」の開示が義務化されるため、ダイバーシティ関連の開示項目も大きく増えることになっています。興味のある企業については、Webサイトで詳しい情報をチェックしましょう。

また経済産業省では、多様な人材の能力を生かし、価値創造につなげている企業を表彰する「新・ダイバーシティ経営企業100選」を平成24年度から令和2年度まで実施しています。こちらのサイトでは、各社の定性的な取り組みについても詳しく知ることができるでしょう。

またリクナビなどの就活ナビサイトでも、企業の平均残業時間や育休取得率、キャリアアップに関する制度など、働く環境の条件から、ダイバーシティ推進の内容について検索することができます。

企業のダイバーシティのリアルを知るには?

ダイバーシティ推進の熱量は、業界や企業によって差があるのが現状です。真剣に変革に取り組んでいるか、法律の範囲内で義務的に進めているのかの違いは大きいものです。
それを確認する方法として、企業ホームページにある経営者のメッセージがあります。本気度の高い企業は、トップ自らがダイバーシティの考え方や、取り組み方針について、きちんと発信しているからです。

もう一つの方法は、現場で働く人の生の声を聞くことです。
OB・OG訪問では、社員を支援する制度が現場でどう運用されているかに加えて、OB・OG自身の「働きがい」エピソードについても、意図を持って質問するとよいでしょう。その際は、「こんな働き方に憧れる」「大変そうだけどやってみたい」という共感や興味を大事にしましょう。就活の企業選びはデータだけではなく、自身の感性やフィット感も含めて判断することをオススメします。

性格検査や適職診断など、自己分析に役立つツールを活用してみましょう!

 

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【監修】前川 孝雄(まえかわ・たかお)さん
株式会社 FeelWorks代表取締役、株式会社働きがい創造研究所 代表取締役会長、青山学院大学 兼任講師。
大阪公立大学、早稲田大学ビジネススクール卒。リクルートで『リクナビ』『ケイコとマナブ』などの編集長を歴任し、2008年にFeelWorks設立。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、研修事業・出版事業を営む。ダイバーシティマネジメント推進、リーダーシップ開発、キャリア支援に定評があり、400社以上を支援。(一社)企業研究会 研究協力委員サポーター、(一社)ウーマンエンパワー協会 理事なども兼職。著書は『部下を活かすマネジメント”新作法”』(労務行政)、『部下全員が活躍する上司力5つのステップ』(FeelWorks)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『ダイバーシティの教科書』(総合法令出版)、『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks)、『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)など約40冊。

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記事作成日:2023年9月29日
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