証券会社とは、株式や債券(国債や社債など)の売買、投資信託(投資家から集めた資金を専門家が運用する金融商品)、不動産投資信託(REIT/リート。Real Estate Investment Trustの略で、投資家から集めた資金で不動産に投資し、得られた賃貸料や売買益を投資家に配当する商品)の売買などを手がける企業だ。
リーマン・ショック(2008年)や東日本大震災(2011年)の影響で日本の証券市場は低迷した。株式の売買手数料が落ち込んで証券各社の業績も停滞気味だったが、2013年にアベノミクスが始まって徐々に市場が活性化。さらに、少額投資非課税制度(NISA/ニーサ。「少額投資非課税制度」の略称で、株式や投資信託などの運用益や配当金が5年間に限り、一定の投資額まで非課税になる制度)の導入などによって個人投資家の動きが活発になり、証券各社の業績も好調に転じた。しかし2016年以降はイギリスのEU離脱、アメリカの大統領選挙など、世界経済に大きなインパクトのある出来事が起きた。さまざまな見方があるが、これらが今後の世界経済に大きな影響を及ぼす可能性もあり、景気も変動しそうだ。証券会社の業績は景気の影響を受けやすいため、各社の業績については不透明さが残る。
こうした中、大手証券会社を中心に、店舗を増やすことで個人投資家との接点を増やし、収益増に結びつけようとする取り組みが目立つ。例えば、これまで店舗を設置していなかった郊外に小規模営業所を開設する、同グループ銀行の支店の隣に店舗を増やすなどの取り組みが代表的だ。1990年代にバブルが崩壊して以降、証券各社はコスト削減を目指して店舗数を絞り込んできたが、株高や、個人顧客の資産運用への関心の高まりなどを背景に、積極策に切り替える企業が増えている。また、実店舗を持たず、低コストで運営してきたインターネット系証券会社の中にも、顧客接点の強化を目的に、実際の店舗開設を目指すところが出てきている。
従来の証券会社にとって、収益の柱は株式売買手数料だった。しかし、取引が発生するごとに手数料を受け取る「販売手数料型ビジネス」は、市況に左右されやすい。また、手数料の値下げ競争に巻き込まれることもある。そこで、大手証券会社を中心に、預かり資産の総額に対して報酬を受け取るビジネスモデルへの転換を急いでいる。
例えば、投資信託の管理で得られる「信託報酬」もその一つだ。投資信託の販売額に応じて安定的な収益として期待できるため、顧客が投資信託を長期に保有すればするほど、収益を上げることができる。
一方、公正で透明性の高い事業を行うための仕組みづくりも欠かせない。各社はコンプライアンス(法律や社会的規範、企業倫理を守りつつ企業を運営すること)に対する取り組みを、積極的に進めているところだ。
証券会社は、店舗を設置して法人・個人顧客と取引を行う従来型の証券会社と、個人顧客を対象にしたインターネット系証券会社とに大別できる。従来型の証券会社は、顧客と対面しながら、きめ細やかな提案ができる点が長所だ。一方のインターネット系証券会社は、店舗の維持にコストがかからないことから、売買手数料を安く設定している点が売りだと言える。
従来型証券会社の業務は、大きく分けて4つある。
トレーディング業務とも言う。顧客が希望する売買注文を受けて、市場で売買の仲介・取次を行う。
自社の資金で株式や債券の売買を行って利益を追求する。
企業が株式や社債などを発行する際に、証券会社自らが責任を持って引き受け役となり、それを個人や企業に販売する。
売りさばき業務とも言う。企業が株式や社債などを発行する際に、企業やほかの証券会社などの委託を受けて販売する。アンダーライター業務とは異なり、売れ残った際のリスクは負わなくてよい。
さらに近年では、「投資銀行業務」に力を入れる証券会社が増えている。
これは、新規発行株式などのアンダーライター業務に加え、M&Aの仲介や助言、企業の資金調達に対する支援、財務面での助言、金融技術の開発などを通じ、金融・財務の幅広い局面で顧客企業を支える業務を指し、大手証券会社では大きな収益の柱となっている。
政府は現在、「貯蓄から投資へ」というスローガンを掲げ、NISAなどの制度を導入している。これまで投資に縁のなかった顧客の取り込みが進むことで、証券会社のビジネスチャンスも拡大していると言えそうだ。
株式や投資信託などの運用益や配当金が非課税になるNISAで、当初の非課税枠は年間100万円とされていた。しかし、2016年に年間120万円に拡大され、利用者増がさらに加速するのではと期待されている。
日本取引所グループによると、東京証券取引所における2013年のIPO(未上場会社の株式を証券市場において売買可能にすること)件数は57件。ところが、2014年には78件、2015年には95件、2016年には84件と、ここのところ活発化する傾向にある。IPOは証券会社にとっても大きなビジネスチャンスである。
「ラップ口座」とは、顧客が証券会社などに対し、投資から財産管理までのサービスを一任する運用形態のこと。顧客から預かっている資産の残高に応じて手数料を受け取れる仕組みで、証券会社にとっても収益の安定化につながるため、多くの証券会社が力を入れている。従来は一定以上の資産を有する富裕層向けのサービスだったが、最近では入金の最低金額が下がったこともあって裾野が広がり、口座数が増えている。
銀行と証券会社が協力し合う「銀証連携」が進んでいる。都市銀行のグループに属する証券会社も多い。
証券会社の中には、年金保険や終身保険といった商品を手がけるところがある。一方、投資信託を扱う生命保険会社もあり、競合が激化している。
証券会社が扱う不動産投資信託(REIT)は日本や海外の不動産への投資によって得た収益を間接的に投資家に分配するもの。少額からでも始めることができ、通常の投資信託同様、個人投資家にも人気がある。
証券業界でもインターネットを活用したサービスの充実が課題となっており、IT系企業と協力する機会は増えそうだ。
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【監修】吉田賢哉(よしだ・けんや)さん
株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 上席主任研究員/シニアマネジャー
東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。新規事業やマーケティング、組織活性化など企業の成長を幅広く支援。従来の業界の区分が曖昧になり、変化が激しい時代の中で、ビジネスの今と将来を読むために、さまざまな情報の多角的・横断的な分析を実施。
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※記事制作時の業界状況を基にしています
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都市銀行とは、大都市に本店を置き、全国規模でサービスを提供している銀行のこと。このうち、規模が極めて大きい銀行は「メガバンク」とも呼ばれる。一方、信託銀行とは、預金やお金の貸し出しといった通常の銀行業務だけでなく、顧客から託されたお金や有価証券、不動産などの運用や、遺言・相続に関する業務などの「信託業務」を行う銀行のことだ。
地方銀行(地銀とも呼ばれる)とは、特定の地域を中心に営業活動を行う銀行のこと。地域の有望な企業に融資して、その成長を金融面から支える、顧客の企業同士をうまく結びつけて新たな価値を生む、地元の個人顧客に住宅ローン・教育ローンなどのサービスを提供するなど、地域経済の中でとても大きな役割を果たしている。
保険は、人の生存や死亡に関して保険金を支払う「第1分野の保険」(年金保険や死亡保険などが該当)、交通事故、火災、地震、盗難などで生じた損害を保障する「第2分野の保険」(自動車保険や火災保険などが該当)、第1分野と第2分野の中間的な存在である「第3分野の保険」(医療保険、介護保険、がん保険など)に分かれる。このうち、損害保険会社が手がけるのは第2分野の保険だ。また、規制緩和により2001年からは、第3分野の保険も扱えるようになった。
保険は、人の生存や死亡に関して保険金を支払う「第1分野の保険」(年金保険や死亡保険などが該当)、交通事故・火災・地震・盗難などで生じた損害を保障する「第2分野の保険」(自動車保険や火災保険などが該当)、第1分野と第2分野の中間的な存在である「第3分野の保険」(医療保険、介護保険、がん保険など)に分かれる。このうち、生命保険会社が手がけるのは第1分野と第3分野の保険だ。
証券会社とは、株式や債券(国債や社債など)の売買、投資信託(投資家から集めた資金を専門家が運用する金融商品)、不動産投資信託(REIT/リート。Real Estate Investment Trustの略で、投資家から集めた資金で不動産に投資し、得られた賃貸料や売買益を投資家に配当する商品)の売買などを手がける企業だ。
信用金庫とは、地域の事業者や個人が利用者・会員となって互いに地域の繁栄を図る、相互扶助を目的とした金融機関のこと。銀行と同様、預金を集めて個人や事業者に資金を貸し出す機能を持っている。
※1 2024年3月6日時点のリクナビ2024の掲載情報に基づいた各企業直近集計データを元に算出