地方銀行(地銀とも呼ばれる)とは、特定の地域を中心に営業活動を行う銀行のこと。地域の有望な企業に融資して、その成長を金融面から支える、顧客の企業同士をうまく結びつけて新たな価値を生む、地元の個人顧客に住宅ローン・教育ローンなどのサービスを提供するなど、地域経済の中でとても大きな役割を果たしている。
地方銀行協会加盟64行と、第二地方銀行協会加盟41行の2015年度決算における純利益の合計額は1兆1326億円。前年(1兆276億円)に比べ10.2パーセント増えた。投資信託や株式の配当金、保険商品の販売手数料が増え、さらに不良債権の処理額が減ったことで増益を果たした地方銀行もあった。しかし、1990年代前半のバブル経済崩壊以降、それ以前より金利の低い傾向が続いていることや、銀行同士の競争が激化していることにより、貸し出し時の金利は低下する傾向にある。
また、2016年に日本銀行が「マイナス金利」を導入したことも懸念材料だ。私たちが銀行に預金をすると、預けた金額と期間に比例して金利がつき、預金額が増えるのが一般的だ。従来は、銀行が日本銀行にお金を預けた場合にも、金利がついてお金が増えていた。しかし、日本銀行がとった「マイナス金利」では、日本銀行に預けたお金から金利の分だけ日本銀行が徴収することになる。各銀行は、日本銀行にお金を預けると損になるため、企業などへの貸し出しに積極的になり、金融市場では景気浮揚にひと役買うのではないかと期待されている。しかしその反面、貸し出し時の金利は低いため、利益を出し辛くなっているともいえる。
また、地方の人口減少も課題だ。地方から都市部へ人が移りやすくなってはいるものの、このまま地方の人口減少が進めば、顧客からの預金額が縮小する危険性も大きい。また、地方経済の活力が失われると、貸出先の企業やさらなる個人顧客の減少を招くことも考えられるだろう。
そこで各地方銀行には、収益源の多様化、新たな貸出先の発掘、経営体力の強化などが強く迫られている。その一環として一部の地域で盛んになっているのが、大学などで芽生えつつあるベンチャービジネスに地方銀行が投資し、その地域の有力産業に育てようとする取り組みだ。
地方大学との連携だけではなく、自治体や商工会議所、地域の企業などと、「地方創生」に取り組む動きも活発だ。例えば、地域観光の活性化を支援するためのファンドや、太陽光・地熱発電といった再生可能エネルギー事業へ投資を行うファンドを設立することで、資金面から地域の盛り上げを支えようとしている。
合併・提携によって経営基盤の強化を目指す地方銀行もある。2015年から2016年にかけ、いくつかの地方銀行が経営統合を行った。また、ITシステムや海外融資などの分野で複数の地方銀行が連携するケースも表れている。
地方銀行業界の仕組み都市銀行や信託銀行と同様に、預金という形で集めたお金を企業や個人に貸し出し、利ざや(=預金金利と貸出金利の差)で利益を得るのが基本的なビジネスモデルだ。最大の強みは、地域に密着していること。地元企業や地域住民のニーズに合わせた細かいサービスを提供することで、ほかの金融機関との差別化を図っている。
また、地域経済に大きな影響力を持っている点も特徴だ。地方銀行には、地域の企業などからさまざまな情報が集まってくる。そこで、顧客企業に新たな取引先や提携先を紹介したり、M&A(企業の買収・合併のこと)の仲介役を果たしたりして顧客企業の経営力向上や地域経済の活性化に寄与するケースは少なくない。
日本最大級の地方銀行が、東京を地盤とする地方銀行と2016年4月に大型の経営統合をしたのは記憶に新しい。また、九州にある複数の地方銀行グループは、2017年の経営統合を予定している。今後も地方銀行同士の経営統合や合併の可能性には注目しておきたい。
地方銀行の中には、県外からの移住者や、親世帯が住む地域で住宅を購入する子ども世帯に対して住宅ローンの金利を優遇するところがある。住宅ローンを借りやすい環境を整えることで地域の住人を増やし、「地方創生」につなげるのが狙いだ。
結婚、出産、住宅取得といった「ライフイベント」に合わせ、適切なタイミングで融資を申し出るサービスを提供する地方銀行もある。地域の情報について詳しく、地域の人々との信頼関係も厚い地方銀行ならではのサービスと言えるだろう。
コンビニエンスストアやインターネットでの入出金・決済などの仕組みを支える銀行システムは、IT企業によって支えられている。複数の地方銀行が連携してフィンテック(金融とITを組み合わせたサービス)に取り組むケースもある。
地域経済を活性化するため、地方自治体とタッグを組むケースは増えている。また、地方自治体が過去に国から借り入れた公的資金を返済し、地方銀行から借り換えるケースもある。
地域の特産品を全国的に売り出す際に、地方銀行が培ってきたネットワークを生かして販路を開拓したり、資金面でサポートしたりするケースもある。
▼2026年卒向け詳細情報▼
簡単5分で、あなたの強み・特徴や向いている仕事がわかる、リクナビ診断!企業選びのヒントにしてくださいね。
インターンシップ&キャリアや就活準備に役立つ情報をX(旧Twitter)でも発信中!
——————————————————
【監修】吉田賢哉(よしだ・けんや)さん
株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 上席主任研究員/シニアマネジャー
東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。新規事業やマーケティング、組織活性化など企業の成長を幅広く支援。従来の業界の区分が曖昧になり、変化が激しい時代の中で、ビジネスの今と将来を読むために、さまざまな情報の多角的・横断的な分析を実施。
——————————————————
※記事制作時の業界状況を基にしています
志望業界や志望企業を絞り込んだり、志望動機をまとめたりするうえで、業界や業種への理解を深めるために「
業界ナビでは、各業界の仕組みや現状など、業界研究に役立つ情報をわかりやすく解説しています。業界の平均
都市銀行とは、大都市に本店を置き、全国規模でサービスを提供している銀行のこと。このうち、規模が極めて大きい銀行は「メガバンク」とも呼ばれる。一方、信託銀行とは、預金やお金の貸し出しといった通常の銀行業務だけでなく、顧客から託されたお金や有価証券、不動産などの運用や、遺言・相続に関する業務などの「信託業務」を行う銀行のことだ。
地方銀行(地銀とも呼ばれる)とは、特定の地域を中心に営業活動を行う銀行のこと。地域の有望な企業に融資して、その成長を金融面から支える、顧客の企業同士をうまく結びつけて新たな価値を生む、地元の個人顧客に住宅ローン・教育ローンなどのサービスを提供するなど、地域経済の中でとても大きな役割を果たしている。
保険は、人の生存や死亡に関して保険金を支払う「第1分野の保険」(年金保険や死亡保険などが該当)、交通事故、火災、地震、盗難などで生じた損害を保障する「第2分野の保険」(自動車保険や火災保険などが該当)、第1分野と第2分野の中間的な存在である「第3分野の保険」(医療保険、介護保険、がん保険など)に分かれる。このうち、損害保険会社が手がけるのは第2分野の保険だ。また、規制緩和により2001年からは、第3分野の保険も扱えるようになった。
保険は、人の生存や死亡に関して保険金を支払う「第1分野の保険」(年金保険や死亡保険などが該当)、交通事故・火災・地震・盗難などで生じた損害を保障する「第2分野の保険」(自動車保険や火災保険などが該当)、第1分野と第2分野の中間的な存在である「第3分野の保険」(医療保険、介護保険、がん保険など)に分かれる。このうち、生命保険会社が手がけるのは第1分野と第3分野の保険だ。
証券会社とは、株式や債券(国債や社債など)の売買、投資信託(投資家から集めた資金を専門家が運用する金融商品)、不動産投資信託(REIT/リート。Real Estate Investment Trustの略で、投資家から集めた資金で不動産に投資し、得られた賃貸料や売買益を投資家に配当する商品)の売買などを手がける企業だ。
信用金庫とは、地域の事業者や個人が利用者・会員となって互いに地域の繁栄を図る、相互扶助を目的とした金融機関のこと。銀行と同様、預金を集めて個人や事業者に資金を貸し出す機能を持っている。
※1 2024年3月6日時点のリクナビ2024の掲載情報に基づいた各企業直近集計データを元に算出