就活の選考で、自己PRとして部活のエピソードを伝えるとき、どのような点に注意するとよいでしょうか。人事として新卒採用を20年担当し、現在はさまざまな企業の人事・採用コンサルティングを手掛ける採用のプロ・曽和利光さんに聞きました。
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就活の選考において、企業が学生にする質問は、「あなたはどういう人かを知りたい」という意図があります。自己PRは、それを直接的に聞く質問です。また、企業は自己PRを通して、「あなたの能力・性格(何ができるか)」が、「自社で仕事をしていく上で合っているか」という点を見ています。
そのため、自己PRを考える際は、数ある自分の能力や性格のうち、その企業が求めるものは何かを踏まえて検討してみるとよいでしょう。
物事にコツコツ取り組む姿勢を求めている企業に対して、「好奇心旺盛で行動力がある」と伝えては「うちには合わない」と評価されてしまうかもしれません。自分がアピールした能力や性格が、企業が求めている要素と合っているかどうかを見極めることが重要です。
企業が自己PRを聞く意図について、詳しく知りたい人はこちら↓
【例文付き】就活で自己PRを聞く意図は?人事に評価される書き方・話し方のポイントは?
企業が求めるものを考えて自己PRで伝える内容を検討してみようと言いましたが、部活のエピソードを通してアピールできるポイントは、大きく3つの要素が挙げられます。
例えば、試合や大会に出るために熾烈(しれつ)なレギュラー争いをしてきたという方もいるのではないでしょうか?そんな経験がある場合、競争環境下でのストレス耐性や継続力、負けず嫌いな気持ち、達成意欲などをアピールできるでしょう。
自己PRで伝える際には、自分が所属する部活の特徴を人事担当や面接担当者に正確に共有することを意識しましょう。何人ぐらいが所属する部活か、練習が週何日あるのか、1日何時間の練習なのか、朝練や土日の合宿、試合の頻度など、数字を交えて伝えることで、「部活の厳しさ」を企業側も具体的に把握することができます。
「毎朝、片道1時間かけて河川敷のグラウンドに行き、2時間練習してから授業に行った」のように伝えることで、その生活を継続したこと自体に、忍耐力ややり切る力の強さを感じてもらえるでしょう。
運動系、文化系を問わず、部活を通じて鍛えられるのは「チームワーク」。集団の中で自分の役割を認識し、足りないところをフォローする姿勢、場を俯瞰(ふかん)して動く力は社会人になって仕事をする上でも生きるものです。
部活の特性上、どのようなチームワークが必要かを伝え、その上で自分がどう振る舞い、チームに貢献したのか、具体的なエピソードで語れるとよいでしょう。
部活組織の特徴の一つとして、「上下関係」が存在するケースが多いという点も挙げられるでしょう。最近では、目上の人とのかかわりがほとんどないまま社会人になる学生も少なくありません。その中で、上下関係がはっきりした組織での立ち居振る舞いに慣れていることは、社会人になってからの強みの一つだと言えます。
近年では、上下関係が厳しい組織には批判が集まったり、フラットな関係性の企業が好まれたりする傾向があります。ただ、企業に入ると、先輩や上司、お客さまなど、目上の人と接する機会が多くなります。そうした組織の中でのコミュニケーションや合意形成の取り方に慣れていることは、上下関係がある中でリーダーシップを発揮したり、自分の意見を言ったりすることができ、若手のうちから活躍できる力となるでしょう。
なお、「コミュニケーション能力」を自己PRしたい場合はこちらの記事も参考にしましょう。
【例文あり】コミュニケーション能力を自己PRで伝えるときのポイント
自己PRを考える際は、上記3つがアピールポイントになることを押さえながら、自分は何がアピールできるか、アピールするための具体的なエピソードは何かを考えてみましょう。
続いて、エントリーシートと面接で部活経験をアピールする際の例文を紹介します。
限られた文字量で自己PRを伝える場合、「最初にアピールしたいポイントを明記する」「エピソードの中に数字や実績など“事実”を具体的に入れる」ことが大切です。部活経験の場合は、自分が経験したことの難易度も伝えるようにしましょう。
例1 【伝えたいこと:継続力】
体育会系ラクロス部の活動を通じて、自分で決めた目標をやり切る力を身につけました。「大学生からでも始められるスポーツに挑戦したい」と入部しましたが、30人の同期の大半が経験者で、12人のスタメンに選ばれることができませんでした。周りに追いつくには2~3倍の練習量が必要だと、入部直後から先輩に練習メニューを教えてもらい、毎日1時間自主練習することを決めました。週6日練習がある中で時間をつくるのは大変でしたが、一日も休まずに継続することで、3年時にスタメンになることができました。
例2 【伝えたいこと:役割意識】
体育会系陸上部で400mリレーの選手に選ばれ、自分から周りを巻き込む積極性を身につけました。夏の全国大会では、メンバーの一人がけがのため欠場を余儀なくされ、新たなチームで大会に挑むことになりました。急な変更でタイムが伸びずメンバー間に焦りが出たときには、練習後にお互いへの意見や要望を伝える時間をつくろうと提案。信頼関係を築けたことで徐々に成績が伸び、本番では大学のベストタイムを更新することができました。
面接でも、「最初に結論を伝える」「エピソードの中に数字や実績など“事実”を具体的に入れる」ようにしましょう。
集団面接などでは、面接担当者との質問のやりとりがない「プレゼンテーション型の自己PR」も少なくありません。その場合は、エピソードをすべて言い切れるよう、伝えたい内容を整理しておくといいでしょう。
例 【伝えたいこと:リーダーシップ】
吹奏楽部の副部長として、約120名の部員と一曲を仕上げていくリーダーシップを鍛えられました。大学3年時に部長と練習メニュー設計を担当した際、楽器ごとにやりたい練習が異なる中、各楽器のリーダーと時間や練習場所をどう区切るか会話を重ねていきました。週に1回は、楽器リーダーたちと意見交換をする機会を設けることで納得感を持って練習に臨める状態にし、1年間一人も部員が辞めることなく活動を終えることができました。
部活経験を自己PRで伝える際の、よくある就活生の疑問を曽和さんが解説します。
A.役職に就いているかいないかを気にする必要はありません。例えば、体育会系組織の場合は技術面の実力に基づいて役職に就くケースも多くあるでしょう。しかし、就活において企業が知りたいのは、競技特有の能力ではなく、組織の中でどう活動していたか。むしろ「役職」という権限を持たずに組織を動かせるのは、本当の意味でリーダーシップを発揮していると言えます。役職に就いていない中、チームの方針や合意形成に影響を与えたというエピソードは、あなた自身の能力や性格を表す貴重な情報になるでしょう。
A.アピールしてもいいと思います。ただ、企業側が知りたいのは「実績」そのものよりも、その実績を得るまでにどれだけ努力をしたのか、苦労したのかという「プロセス」です。その経験が、自分にどうつながっているかを語るようにしましょう。
例えば、大会で6チーム中5位の成績だったとしても、最下位から抜けたことがその部活にとって重要な意味があり、それがどれだけ大変なことだったのかを語ることができれば、企業が知りたいプロセスのアピールになります。逆に、輝かしい実績があっても、自分の糧につながるエピソードがなければ自己PRとしては弱くなってしまいます。
スポーツに限らず、選考の場は「最終的な結果のすごさ勝負」の場ではありません。部活の分野での能力が高いからといって、社会人として優れているとは限らないからです。
レギュラーになれなくても部活を続けたのであれば、そこに何らか思いや信念があるはずです。補欠というポジションだからできた経験や、見てきた景色、今の自分にどうつながっているのかを伝えることができれば、あなたにしかない自己PRになるでしょう。
A.なぜ辞めたのかを伝えられれば、よいと思います。
例えば、「レギュラーになれなかったので体育会系の部活は辞めたけれど、サークルで頑張って結果を出した」のであれば、継続する力をアピールできます。ほかにも「ケガをして続けられなくなったので辞めてしまったが、自分の悔しい経験を糧にトレーニングについて勉強を始めた」などのエピソードがあれば、経験を次のステップにつなげる力をアピールできるでしょう。
A.自分がどういう人間かを伝える上で、中学・高校時代のエピソードは大切ですが、そのころの話だけで自己PRが終わらないようにしましょう。企業側が知りたいのは、学生の直近についてです。中高時代の話だけで終わってしまうと、その時の経験が今どう生きているのかがわかりません。
例えば、「中高時代は体育会系の部活に全力を注いだけれど、アスリートとして限界を感じた。大学では競技の道ではなく、部活で培った集中力を生かしてゼミの研究に力を注いできた」など、中高の経験が今にどうつながっているかまで話せるとよいでしょう。
A.もちろんなります。ただ、珍しいものであれば「どうして、それを選んだの?」と選考で聞かれることは多いでしょう。これは、メジャーではないからいけないというのではなく、面接担当者も素朴な疑問として聞いているはずです。きっかけは何でもいいと思いますが、聞かれたときに答えられるよう準備しておくといいと思います。
部活経験以外にも自己PRで伝えるアピールポイントがあるかも?気になる人はリクナビ診断を活用して、自分の強みや特徴を調べてみましょう。
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【監修】曽和利光さん
株式会社人材研究所・代表取締役社長。1995年、京都大学教育学部教育心理学科卒業後、リクルートで人事コンサルタント、採用グループのゼネラルマネージャーなどを経験。その後、ライフネット生命、オープンハウスで人事部門責任者を務める。2011年に人事・採用コンサルティングや教育研修などを手掛ける人材研究所を設立。『「ネットワーク採用」とは何か』(労務行政)、『人事と採用のセオリー 成長企業に共通する組織運営の原理と原則』(ソシム)など著書多数。最新刊に『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)がある。
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