面接でよく聞かれる質問の一つに「どんな社会人になりたいか」が挙げられます。「社会人になったこともないのに、一体、どう答えればいいのだろうか」と悩んでいる学生もいるでしょう。そこで、就職・転職支援スクール、我究館の館長を務める熊谷智宏さんに、答えを導き出す考え方や伝え方のポイントについて聞きました。
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目次
まずは、企業が面接で「どんな社会人になりたいか」を聞く理由や、学生の何を見ているのかというポイントについて紹介していきましょう。
企業が面接で「どんな社会人になりたいか」を聞く理由は、「その企業で働くイメージがちゃんとできているのか」を知りたいと考えているケースがほとんどといえます。昨今は、ワークライフバランスのみを重視し、残業時間や休日数、福利厚生などの制度が充実しているかどうかという点に注目しがちな学生も少なくはありません。しかし、そうした制度・環境ばかりに注目してしまい、仕事や働き方に対する具体的なイメージを持っていない場合、入社後、「こんなはずではなかった」というギャップが発生する可能性が高いのです。その企業でどのように働くのかをしっかりイメージし、どう成長していきたいのか、将来、どんな活躍をしたいのかまで考えておくことは、学生にとっても、企業にとっても、ミスマッチをなくすことにつながるのです。
また、企業の経営活動を存続させるためには、利益を生むことが必須となります。企業は社員の自己実現のためだけに存在するわけではないので、仕事で力を発揮し、利益を上げていく意識を持っているかどうかも重要なポイントといえるでしょう。
企画やマーケティング、商品開発などのクリエーティブな仕事のみをイメージしている学生は少なからずいます。会社説明会などで先輩社員が活躍している話を聞き、「入社したら自分もすぐにそれができる」と思い込んでしまうケースもあるでしょう。しかし、組織には多様な仕事があり、新入社員は与えられたフィールドの中でさまざまな経験を重ねながら成長していくものなのです。それらの地道な経験を積み重ね、活躍できるだけの力を身につけてから、次のキャリアステップに進むケースがほとんどといえるでしょう。「営業で現場経験を重ね、顧客ニーズをくみ取る経験をし、そこから希望の部署を目指す」など、実際にその企業で働くイメージをしっかりと持つことが大事です。企業研究で、その企業における具体的な仕事内容や働き方を理解した上で、「どんな社会人になりたいか」まで考えることができていれば、「どのフィールドに配属されても、精いっぱいに頑張り、成長してくれる人材」として、入社後の活躍も期待できるのです。
また、面接の段階で、「この部署に、このような人材が欲しい」などの採用計画を基に、配属先を想定するケースも少なからずあります。「企画の仕事しかやりたくない」という場合は、ほかのフィールドに配属しづらいと思われてしまう可能性もあるでしょう。希望の部署がある場合でも、組織で働くことを踏まえ、キャリアステップの先にある目標としてイメージすることがポイントです。
業界研究のみを行い、それぞれの企業文化について理解を深めていない場合も、ミスマッチが起きる可能性は高いといえます。例えば、同じメーカー業界であっても、企業によって、「堅実な事業を展開し、誠実な社風を大事にしている企業」もあれば、「クリエーティブな発想を生かす事業を展開し、自由な社風を持っている企業」もあるものなのです。そのため、企業は「どんな社会人になりたいか」という質問を通じて、学生それぞれの性格特性や大事にしている価値観について知りたいと考えています。それらが、社風や働き方なども含めた企業文化とマッチしているかどうかを判断し、「自社で活躍できそうな人材かどうか」を見ているのです。
「どんな社会人になりたいか」を明確にするためには、自分の価値観を知ることが大事です。漠然としたイメージを具体的に掘り下げていく4つのポイントを紹介します。
まずは、「やってみたい仕事」から考え、自分の中にあるイメージを言葉にして、定義付けしていきましょう。「クリエーティブなことがしたい」「新しいことに挑戦したい」など、漠然としたイメージを持つ学生は少なくありません。しかし、どんな仕事にも自分なりの創意工夫が必要ですし、新しいことに挑戦できる仕事はこの世の中にたくさんあるので、非常に定義が曖昧です。より具体的にするために、「誰のために、何のために、その仕事がしたいのか」を考えてみることがポイントです。自分としての答えを出したら、「どんな業界ならそれができるか」「そこで働く社会人はどんな人なのか」を考え、さらに掘り下げていきましょう。
例えば、「大きな数字を動かしたい」と考えている場合、「発展途上国の人々のために、発電所などのインフラ設備を造る仕事で役立ちたい」「グローバルに活躍できる総合商社ならそれができる」「そこで働く人は、バイタリティーあって、フットワークが軽い」など、どんどん掘り下げていくことができるでしょう。
やってみたい仕事について考えた後は、身につけたいスキルや目指したいキャリアを考えてみましょう。「グローバルな仕事」の場合には英語力が必要となりますし、何らかの専門知識を身につけてプロフェッショナルとして活躍する仕事などもあります。また、「人をまとめていく立場に憧れる」という場合も、将来のキャリアとして、プロジェクトリーダーなどで活躍することをイメージできます。その際、「社内でチームを組んで1つの企画を実現していくプロジェクト」「社内外の多くの人々をまとめていく大きなプロジェクト」など、携わりたい仕事の内容をより具体的にしていくことがポイントです。また、収入や地位などに重きを置く場合は、どんなキャリアを積み重ねていけばそれが実現できるのかを考えたり、付加価値の高いスキルを身につけていくステップを探してみたりするのもいいでしょう。
仕事においては、「何をするのか」だけでなく、「誰と一緒にそれをやるのか」も非常に大事です。学生時代のサークル活動でも、「大会での優勝を目指し、みんなで切磋琢磨(せっさたくま)する」という団体もあれば、「練習を頑張るだけでなく、楽しくワイワイ交流する」という団体もあり、仕事においても、これと同様のことがいえます。業界や企業によって社風も文化も働き方も違ってくるものなので、「どんな雰囲気の中で、どんな人々と一緒に働きたいのか」をしっかり考えましょう。仕事内容や身につけたいスキルも重要ですが、入社後に一緒に働く社員のカラーが将来を大きく左右するケースもあります。また、企業の文化によっては、「飲み会で交流することが多い」「飲み会は一切しない」などの違いもありますが、それを苦痛に感じるか、楽しいと思えるかは、本人の価値観次第で変わるものなのです。
学校の先輩やOB・OG訪問で出会った先輩など、身近にいる社会人の中から、尊敬できる人を探してみましょう。年齢の近い社会人であれば、「自分がどんな社会人になりたいか」をよりイメージしやすくなります。その際には、仕事でさっそうと活躍する側面のみを見るのではなく、どんな考え方で、どう頑張っているのかという、背景の部分まで知ることが重要です。例えば、大きなプロジェクトで活躍している社会人の場合でも、「新入社員のうちは小さな仕事をコツコツと頑張り続け、実力を身につけてきた」などの背景があります。地道に積み重ねていく日々の努力を知り、本人が何を大切にしてきたのか、どんな姿勢で取り組んできたのか、その結果、どんな喜びを感じるようになったのかまで知ることがポイントになるでしょう。華やかな場面や、面白いエピソードのみをクローズアップすれば、ただの憧れに終わってしまうので、地に足の着いた社会人像を理解し、「自分もそんな社会人になりたい」と実感できるかどうかを大事にしましょう。
自分の価値観を掘り下げたら、それらを整理し、「どんな社会人になりたいか」に結び付けていくことが大事です。社会人として働く場合、「Giving(誰のために、何のために)」「Being(人格、能力、スキル、キャリア)」「Having(収入、地位、権力)」「With Who(一緒に働く人、職場環境、企業文化)」という4つの価値観が重要になります。「Giving」は、自分が社会に与えていきたいもので、「Being」は、自分自身がどのような人間になっていきたいのかという価値観です。また、「Having」には、将来のポジションや実現したいライフプランなども関係してきますし、「With Who」は、日々、働く楽しさやストレスなどに大きな影響を与える価値観といえるでしょう。ポイントは、これらのうち、どれか一つの価値観に偏ることなく、トータルで考えることです。
例えば、「社会に貢献したい」とだけ考えた場合、生きていくために必要な収入や、身につけていきたい能力を無視していることになります。逆に、「こんな能力やスキルを身につけたい」とだけ考えている場合も、「結局、仕事で何がしたいのか」が見えなくなりますし、「年収が高いことが大事」「将来が不安なので、安定した仕事がいい」という場合も同様のことがいえます。また、「誰と働くか」を考えていない場合は、職場そのものが自分に合わないケースもあるのです。多くの社会人と出会い、企業研究でさまざまな企業や仕事があることを理解しながら、それぞれの項目について「自分が大事にしたい価値観」を整理し、「どんな社会人になりたいか」を言語化していきましょう。
自分の価値観を基に、「どんな社会人になりたいか」を導き出したら、「それができる企業は、どこなのか」を考えることも重要です。例えば、「英語力をつけてグローバルに活躍したい」という場合、海外事業などを展開していない企業での実現はできません。「専門知識を駆使するプロフェッショナルになりたい」という場合も、そうしたことができる企業や職種でなければ、ミスマッチとなります。また、企業によって社風や文化が違うため、働き方や一緒に働く人に対する自分の価値観とマッチする企業なのかどうかを判断することもポイントといえるでしょう。「どんな社会人になりたいか」を明確に回答することができても、マッチしない企業を志望していた場合、「うちの会社には合わない」と判断される可能性は高いですし、入社後に本人が不幸になる可能性もあります。その企業を志望するかどうかを決める判断ポイントとしても活用しましょう。
ここでは、「どんな社会人になりたいか」を面接で上手に伝えるためのポイントを紹介します。
面接では、「Giving(誰のために、何のために)」「Being(人格、能力、スキル、キャリア)」をメインに、「どんな社会人になりたいか」を語ることがポイントです。「Having(収入、地位、権力)」は、企業が自分に与えてくれるものであり、自分が企業に貢献した結果、得ることができるものです。自分に与えてほしいものを中心に語っても、「この会社で何ができるのか、どう貢献していけるのか」を伝えることはできません。また、「With Who(一緒に働く人、職場環境、企業文化)」は、人と一緒に働く姿勢には関係しますが、環境は与えられるものでもあるので、「Having」と同様のことがいえます。
逆に、「Giving」と「Being」では、「こんな思いがあるから、それを生かして社会や多くの人々に役立ちたい」「こんな能力を身につけて、力を発揮していきたい」「こんな存在となって、活躍したい」など、顧客や組織のためになることを大事にした価値観を伝えることができます。それにより、将来、利益を上げる姿や、組織に貢献していく姿がイメージできるのです。企業は、「どんな社会人になりたいか」という質問を通じて、入社後にどのように成長・活躍し、貢献してくれるのかを見ていることを忘れないようにしましょう。
自分が生まれ育った環境や背景を分析し、なぜそれがやりたいと思うようになったのか、なぜそうした力を身につけ、発揮していきたいと思うようになったのかを掘り下げておきましょう。「こんな家庭環境で育ったから、こう思うようになった」「その後、こんな経験をして、喜びを感じた」「こんな人の活躍を目の当たりにし、自分もそういう仕事をやりたいと思った」など、いくつものエピソードを発見できるはずです。そして、これらのエピソードをつなげば、一つのストーリーラインができるのです。人の価値観は、一つの場面だけでつくられるものではなく、生まれ育った環境の中で育まれていくものです。それらをつなげ、自分の物語を伝えることで大きな説得力が芽生えます。過去を振り返り、「こういうのって、いいな」「こんなことに感動した!」など、心が動いた瞬間のエピソードを思い出し、点を線でつないでいくことで、自分ならではの物語を発見できるでしょう。
内定者の先輩の回答例を紹介するので、自分のストーリーラインをつくる参考にしてみましょう。
私は、信用と信頼を生み出す金融の専門家になりたいと考えています。私の実家は、地方都市の田舎町にあり、商店街の人々と触れ合いながら育ちました。高校時代、信用金庫に勤務している父が、商店街の経営者たちの資金繰りの相談に乗っている姿を見たことがあり、「商店街の人々は、経営で苦労しているのか。父は金融の力を使って、そういう人々を支えているんだ」と驚き、尊敬するようになりました。「父のように、金融の専門知識を生かして地域の人々に役立ちたい」と考え、地域密着型の信用金庫を志望しました。社会人となったら、信用を積み重ねることを大事にし、多くの人から信頼される専門家となりたいと思っています。
私は、街や場に元気を与えていけるような社会人になりたいと考えています。地方の温泉街で生まれ育つ中、幼いころはにぎわっていた街が、人口減少などで急速に力を失っていく様子を目の当たりにしました。しかし、大学時代に大規模な都市開発が行われたことにより、多くの人々が足を運ぶようになり、さびれていた街に活気が戻りました。「人が集う空間を生み出すことで、街はこんなにも変化するものなのか」と大きく感動したのです。また、高校時代には、テーマパークのショップで販売のアルバイトをし、自らディスプレーを考え、お客さまに喜んでもらう達成感を味わいました。社会人になった際は、自分の能力を発揮し、街や場を元気にしていくことに貢献していきたいと思います。
就活をスタートした当初、「世界を飛び回るグローバルな活躍がしたい」「プロフェッショナルとしてバリバリ活躍したい」など、漠然としたビッグな夢を描く学生は多くいます。夢があるのは素晴らしいことなので、「そんなことは無理だろう」とあきらめることはありません。ただし、憧れだけで終わらせないためには、地に足を着けて考えることが非常に大事です。理想の姿に向かうために、現実ではどのようなステップを踏んでいくことが必要なのかをしっかり考えていきましょう。多くの場合、20代は下積みで力をつけ、30代で大きく活躍するものなので、将来かなえたいと思う夢を大事にしつつ、足元を固めていくことです。理想と現実を行き来しながら、過去の自分のストーリーラインを見つめ直し、未来の姿につながるストーリーを描いていくといいでしょう。
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我究館館長。株式会社リクルートに勤務した後、2009年、株式会社ジャパンビジネスラボに参画。現在までに3000人を超える大学生や社会人のキャリアデザイン、就職・転職、キャリアチェンジのサポートを行ってきた。難関企業への就・転職の成功だけなく、MBA留学、医学部編入、起業、資格取得のサポートなど、幅広い領域の支援で圧倒的な実績を出している。また、国内外の大学での講演や、執筆活動も積極的に行っている。著書に、就活全般の考え方や面接対策などを指南する『絶対内定2021』(ダイヤモンド社刊行)シリーズがある。
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