医薬品メーカーは、医薬品の研究開発から効果の確認、販売までを手掛けている。医薬品は、医師の処方箋が必要で、薬局や病院で処方される「医療用医薬品」と、処方箋が不要でドラッグストアや薬局などで売られる「一般用医薬品」の2つに大別することができる。
医療用医薬品には、以下がある。
国内医薬品市場のうち、9割程度は医療用医薬品が占めており、そのうちの9割程度が先発医薬品である。
一般用医薬品は、「OTC医薬品」と呼ぶことがある。OTCとは、Over The Counterの略で、薬局などでカウンター越しに薬を購入する形式に由来している。医師の処方箋がなくても買えるOTC医薬品は、大きく「一般用医薬品」と「要指導医薬品」に分類され、さらに一般用医薬品はリスクに応じて第1類、第2類、第3類に区分される。これらの分類・区分によって、販売時の陳列や薬剤師などの専門知識を持つ者のかかわり方、情報提供の方法などが定められている。
2014年からは一般用医薬品のインターネットによる通信販売が解禁され、一般用医薬品の第2・3類は登録販売者による販売が可能(第1類は、薬剤師が購入者の商品への理解を確認するなどの条件を満たすことにより可能)となったが、要指導医薬品は必ず薬剤師が対面で指導を行った上で販売することが定められている。
医薬品業界の新薬開発は、ハイリスク・ハイリターンの構造だと言われる。売上高が1年に1000億円を超えるような医薬品(「ブロックバスター」と呼ばれる)を開発できれば大きな利益が見込めるが、1つの薬を開発するには9~17年という長い期間や、数百億円以上の費用が必要とされるためだ。また、新薬の有効性や安全性を確かめる実験の途中で、期待通りの成果を出せずに開発が中止されるケースもある。医薬品メーカーにとって、売り上げの柱となるような新商品を開発することは簡単ではない。
一方ジェネリック医薬品は、特許期間が終了した後に同じ有効成分を使用して他社が製造・販売することができる。先発医薬品に比べて短い期間と少ない費用での開発が可能になるため、安価に提供でき、医療費削減に寄与すると期待されている。
アメリカのヘルスケア情報サービス会社であるIQVIAによれば、2021年における日本国内の医療用医薬品市場規模は、10兆5990億円で前年比2.2%増となっており、米国、中国に次ぎ、日本は世界3位の市場規模だ。日本国内市場は、高齢化の影響から薬を必要とする人が増え、市場拡大の傾向が続いていた。しかし、近年は医療費が増大していることから、国は薬価改定を通じた薬価の引き下げを進めている。その結果、市場規模の拡大は鈍化している。
薬価とは、医療用医薬品(医師が処方する医薬品)の公定価格のこと。日本においては、公的な保険医療に使用できる医薬品の品目とその価格を国(厚生労働大臣)が定めており、2020年度までは薬価改定が2年に1度行われていた。しかし、2016年にとりまとめられた「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針」において、「市場実勢価格を適時に薬価に反映して国民負担を抑制する観点から、中間年においても全品目を対象に薬価調査を行い、その結果に基づいて、価格乖離(かいり)の大きい品目について薬価改定を行う」旨が定められた。これにより、2021年度からは薬価改定が毎年行われるようになった。
こうした背景の下、今後、医療費の抑制がより推進される方向になるとみられている。
医療費抑制のために、割安なジェネリック医薬品の普及促進が推進されている。政府は2020年度末までのできるだけ早い時期にジェネリック医薬品の数量シェアを80%以上にする方針を掲げてきた。これにより、ジェネリック医薬品の数量シェアは年々増加。2011年9月には39.9%だった使用割合は、2021年9月に79.0%にまで拡大している。2021年6月の閣議決定においては、「後発医薬品の品質及び安定供給の信頼性確保を図りつつ、2023年度末までに全ての都道府県で80%以上」とする新たな目標を定めており、政府はさらなる使用促進に取り組む方針を掲げた。
ただし、近年ジェネリック医薬品で品質トラブルが発生したケースがあったことから、安価に提供するのみならず、品質管理の徹底に向けた取り組みの強化が求められている。
日本の医薬品メーカーの海外進出が進んでおり、海外売上高の割合が全体の8割を超える企業もある。国内主要製薬会社12社の2021年度の海外売上収益比率は、64.2%となっており、大手各社の海外売上比率は高まっている傾向にあると言えるだろう。
近年、欧米の医薬品業界では、規模拡大や企業体力の維持などを目的とした大手医薬品メーカーによる大型買収やM&Aなど大規模再編が相次いだが、現在は落ち着いている状況にある。日本の医薬品メーカーも「選択と集中」を進め、自社の注力分野から外れる事業を他社に譲渡したり、逆に他社の事業部門を譲り受けたり、一部の事業を別会社に移管して経営資源の集中を目指したりして、事業交換や事業合併などに取り組んできた。
医薬品業界における国際的な競争が激化する現在、各社は生き残りに向けて技術力・開発力の強化に取り組む傾向を強めている。バイオテック(※)などの最先端技術を取り入れるために、海外医薬品メーカーとの提携や、世界各国の有望な創薬ベンチャー企業との提携・買収など、さまざまな取り組みを進めている。
※バイオテック…バイオロジー(Biology)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語。
近年は、医師の診断・処方箋に基づいて使用されていた医療用医薬品を薬局・薬店などで購入できるOTC医薬品に転用(スイッチ)した医薬品、「スイッチOTC」も増えつつある。例として、解熱・鎮痛剤のイブプロフェン錠、ロキソニン錠などが挙げられる。政府は自分自身の健康のため、軽度な身体の不調には、身近な一般用医薬品を利用する「セルフメディケーション」という考え方を推進しており、医療用医薬品から一般用医薬品への転用は加速傾向にある。
ゲノム(遺伝子情報)を分析し、病気の原因になる遺伝子やその遺伝子が作るタンパク質の情報を予測して、薬の候補を絞り込む「ゲノム創薬」が注目を浴びている。副作用が少ない新薬を開発できたり、開発期間を短くできたりするなどのメリットがあるとされる。
アンメットメディカルニーズ(Unmet Medical Needs)とは、有効な治療法が確立されていない疾患に対する医療ニーズのこと。例えば、がん、関節リウマチなどの免疫疾患、アルツハイマー病といった神経系の難病などが該当する。アンメットメディカルニーズに応えるために、多くの医薬品メーカーが新薬の創出に取り組んでいる。また、特に、患者数が少なく治療法も確立されていない疾患のための薬はオーファンドラッグ(Orphan Drug:希少疾病用医薬品)と呼ばれる。以前は、研究開発に多額の費用が必要となる一方で、患者数が少なく利益を見込みにくいことから、オーファンドラッグに関する取り組みは進みにくい傾向にあったが、近年は研究開発に対する公的な援助が行われるようになったため、オーファンドラッグに関する取り組みが活発化しつつある。
新薬を開発するためには、さまざまな物質の組み合わせを試す必要があるが、膨大な組み合わせ候補の中から効果のあるものを見つけ出すには膨大な時間を要する。以前は有識者による試行が行われていたが、最近ではAIを活用し、有望な組み合わせ候補の絞り込みを行うなどの取り組みが進められるようになってきている。
2020年、政府は新型コロナウイルスの感染症の流行拡大を受け、時限的・特例的な対応として、初診も含め電話やオンラインによる診療・服薬指導などを行うことを可能とした。2022年にはオンラインによる診療・服薬指導の各種ルールが緩和されたことにより、今後、オンラインの活用はいっそう進むものと見込まれる。
MR(Medical Representatives)とは、医薬情報担当者のことを指す。 医療機関を訪問し、自社医薬品の適正使用と普及のために、情報の提供・収集・伝達を迅速かつ適切に行う役割を担う。近年のジェネリック医薬品の普及が促進されている状況に加え、コロナ禍の影響によって対面による医師への情報提供機会が減少している。そうした影響から、医薬品メーカー各社はMR職の人材を削減する傾向となっている。MR認定センターが登録製薬企業184社およびMR業務委託・派遣企業14社・卸企業1社を対象に実施した調査によれば、2021年3月31日時点でMR業務についている者の総数は5万3586名で、前年比3572名減となっている。
CROとは、「モニタリング」(臨床試験が適切な方法で進められているか確認すること)や「データマネジメント」(集められた症例を管理すること)といった業務を医薬品メーカーの委託を受けて行う機関。医薬品メーカーはできるだけ多くの新薬を生み出そうと研究・開発を進めている。限られた人員で開発速度を高めるため、全体設計は社内で行い、実際の治験や治験者、医療機関とのやりとりなどをCROに委託するケースが増えている。
医療用医薬品を薬局や病院に流通させる役割は、医薬品の専門商社(医薬品卸とも呼ばれる)が担当することが多い。
医薬品が使われるのは病院や診療所。また、新薬の効き目を確かめる「治験」を行う際などに、病院・診療所の協力を仰ぐこともある。
CSO(Contract Sales Organization)は、MRの派遣およびMR業務受託を担う企業。CSOに所属するMRは「コントラクトMR」と呼ばれる。派遣された医薬品メーカーのMRと一緒に業務を行う派遣型と、医薬品メーカーからプロジェクトを請け負って自社の監督下で業務を行う請負型に分かれる。
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【監修】吉田賢哉(よしだ・けんや)さん
株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 上席主任研究員/シニアマネジャー
東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。新規事業やマーケティング、組織活性化など企業の成長を幅広く支援。従来の業界の区分が曖昧になり、変化が激しい時代の中で、ビジネスの今と将来を読むために、さまざまな情報の多角的・横断的な分析を実施。
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※1 2024年3月6日時点のリクナビ2024の掲載情報に基づいた各企業直近集計データを元に算出