化粧品メーカーは、「化粧品」の開発、製造、販売などを手掛ける企業である。ここに含まれる「化粧品」の種類は実にさまざま。化粧水や洗顔料などの肌のコンディションを整える「スキンケア化粧品」、ファンデーションや口紅などの「メイクアップ化粧品」、シャンプーやリンスなどの「ヘアケア化粧品」、ボディークリームなどの体をケアする「ボディーケア化粧品」や香水などの「フレグランス化粧品」などがある。また、これ以外にも紙おむつや入浴剤、歯磨き剤なども化粧品メーカーが手掛けている場合が多い。そして、これらすべての総称として「トイレタリー用品」と一般的に呼ばれている。
一般的に、化粧品メーカーの多くは、商品を百貨店やドラッグストアなどに販売することで利益を得ている。近年ではアジアなどの海外で商品を展開するケースも増えている。
大手化粧品メーカーは、材料の研究・開発から新しい商品の企画、工場での製造、ブランドイメージの確立、販路の開拓といったすべての工程を手掛けることが多い。それに対し、中小の化粧品メーカーは、化粧品のブランディングに専念する企業や、研究から製造までの工程を担当する企業など、自社の強い分野(工程)に特化している企業も多く、お互いに協力しながら製品づくりを進めている。なお近年では、製造を請け負っていた企業が企画力を磨き、化粧品のブランディングを担当する企業に対して「このような成分を使って、こういった効果をアピールしよう」と提案するケースも出てきた。
販売業態の変化も押さえておきたい。かつての化粧品は、訪問・店舗販売が主流だった。ところが、最近はインターネット上で欲しい化粧品の「口コミ」情報を調べ、そのままインターネットから購入する消費者が増えている。また、インターネット販売やカタログ販売を中心とした、新規の化粧品メーカーも増えている。コロナ禍の中、対面販売が難しい状況もあるため、既存の化粧品メーカーもインターネット販売に力を入れ始めている。今後、実店舗とインターネットの双方で消費者にアプローチすることが、売り上げ拡大のポイントになるだろう。
経済産業省の「生産動態統計」によると、2018年の化粧品の国内出荷額は約1兆6940億円、2019年には約1兆7610億円へと成長していたが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けた2020年に約1兆4780億円へと急落した。要因としては、コロナ禍による入国制限のために海外からの観光客流入がストップし、実質上のインバウンド需要がなくなったことや、国内でも外出機会が減り、化粧をする機会も減少したことなどが挙げられる。
経済産業省の経済解析室の発表によると、2019年の訪日外国人数は3188万人で、その消費額は4兆8000億円にも及んでいた。しかし、2020年は、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う入国制限などにより、2月から大幅に減少し、3月には前年同月比93%減、4月以降は外国人の訪日はほぼゼロの状態が続いている。
これにより、インバウンド需要は縮小しているが、その一方で輸出は拡大を続けている。財務省貿易統計の化粧品の輸出金額によると、2018年は5260億円、2019年は5757億円で微増しているが、2020年は6549億円まで拡大している。各社はコロナ禍以前から海外展開に積極的に取り組んできた。大手化粧品メーカーの中には、海外の化粧品メーカーの買収や、現地法人の開設などによって、海外の売上比率を高めようとするところもある。特に、中国などのアジア諸国で、売り上げ増加を目指す企業は少なくない。
インバウンド需要が見込めない現在、各社は海外現地における販売活動をさらに拡大しようとしており、特にEC(Electronic Commerce:インターネット通販)の活用に注力する傾向が見られる。また、2020年7月より中国の海南島では離島免税の施策(海南島を訪れる中国人観光客は、海南島で免税品を購入できる取り組み)が施行されたことをビジネスチャンスと捉えた動きも存在する。中国・海南省商務庁は同省にある離島免税店の2021年の年間売上高は前年比84%増、約1兆830億円と発表(2022年1月時点)している。コロナ禍で海外への観光旅行ができない中、多くの中国人が海南島を観光で訪れ、現地で免税品を購入するようになってきているため、日本の化粧品メーカー大手各社も続々と海南島に出店している。今後は従来からの店舗販売や、EC販売に加え、こうした新しい販路の活用も含め、輸出を拡大していくことが期待される。
一方、国内市場は、コロナ禍における外出自粛や企業によるテレワーク導入推進などの影響を受け、化粧品需要が低下している。コロナ禍以前から、各社は人口減少や節約志向による国内需要の減少を懸念し、高齢化社会を見据えたエイジングケア化粧品に注力するなど、新たな顧客層の掘り起こしに力を入れてきた。また、男性用化粧品という新たな市場も開拓している。
化粧品業界では、ほかの業界からの新規参入が珍しくない。最も多いのは、医薬品や化学メーカーなどが、自社で開発した化学成分を化粧品に応用し、新商品を生み出すケースだ。またここ数年では、大手スーパーマーケットなどの流通業から参入する企業もあった。今後も新規参入企業が登場し、競争が激化する可能性は十分に考えられる。
インターネット上の通販サイトを通じて、海外の消費者に商品を提供することを「越境EC」と呼ぶ。旅行中に日本の化粧品に興味を持った外国人が、帰国後にECサイトで購入する動きが活発化している。
コロナ禍においては、自社ECサイトやインスタグラムなどのSNSを使った「ライブコマース」が注目を集めている。美容部員やインフルエンサーなどが化粧品や美容法を紹介するライブ映像を配信し、消費者がリアルタイムで美容部員とコミュニケーションしながら商品を購入できる仕組みだ。また、国内だけでなく、中国におけるライブコマース市場にも大きな期待が寄せられている。KPMGとアリババ集団傘下のアリ研究院が発表したレポート「1兆元市場に向かうライブコマース」によれば、2021年の中国のライブコマース市場は前年比90%増の1兆9950億元(約33兆9150億円、1元=約17円)に達する見込みだ。
化粧品メーカーの中にはエステサロンなどと提携し、自社商品をサロンで提供してファンを増やし、売り上げアップにつなげようとするところもある。
以前の化粧品業界では対面販売や訪問販売が主体の企業が多かったが、現在は、インターネット販売にも力を入れる化粧品メーカーが増えている。そこでIT企業と協働し、自社サイトの充実を図る取り組みも盛ん。
百貨店内の化粧品売り場は、有力な販売チャネルとして重要な役割を果たしている。特に、高価格帯の商品は百貨店で販売される比率が高い。
化粧品の売れ行きには、ブランドイメージが大きく左右する。そのため、広告や宣伝の重要性が高い業界だと言える。
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【監修】吉田賢哉(よしだ・けんや)さん
株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 上席主任研究員/シニアマネジャー
東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。新規事業やマーケティング、組織活性化など企業の成長を幅広く支援。従来の業界の区分が曖昧になり、変化が激しい時代の中で、ビジネスの今と将来を読むために、さまざまな情報の多角的・横断的な分析を実施。
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※記事制作時の業界状況を基にしています
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※1 2024年3月6日時点のリクナビ2024の掲載情報に基づいた各企業直近集計データを元に算出