総合商社業界

(1)総合商社業界の概況

総合商社は、企業によって得意分野はあるものの、長年幅広い商品(鉄鋼、繊維、食品など)やサービスを扱ってきた。近年は、資源分野が収益の柱となっている企業が多かったが、鉄鉱石や原油価格の下落があり、2016年の3月期決算では業績を大きく落としたところも少なくなかった。最近の資源価格は回復傾向にあり、総合商社の業績は改善しつつある。

(2)総合商社業界の仕組み

総合商社のコア事業は2つある。1つは伝統的な総合商社の貿易業務「トレーディング」だ。原料や加工品、サービスなどあらゆる分野で、売りたい相手と買いたい相手を結び付け、取引を仲介する。「ミネラルウォーターから通信衛星まで」といわれるほど、その取り扱い範囲は幅広い。

しかし、これまでトレーディングに重点を置いていた総合商社は1990年代後半に転換期を迎える。IT化によって企業が世界各国、あらゆる企業と自由につながることが容易になったため、仲介手数料が発生する総合商社を通さずに、国内外で直接取引を行うケースが増え、「いずれ総合商社は不要になるのではないか」との危機感が高まった。そこで、総合商社は自らの役割を再考し、新たな事業スタイルを模索していった。その流れの中で、もう1つのコア事業、「事業投資」の重要度が高まっていったのだ。

事業投資とは、仲介だけにとどまらず、これまで培ってきた豊富な情報や人脈、資金力、経営ノウハウなどを投入して有望な事業に投資し、配当などの形で利益を得るビジネスモデルだ。 各企業が長い年月をかけて築き上げてきた経験を生かして、事業のバリューチェーン(原料の生産・調達から製造、流通、販売までの一連の流れ)を強化することで、より大きな利益を上げようとする取り組みが活発化している。総合商社は非常に幅広いネットワークを持っていることから、世界規模で良い商品や実力のある企業を結びつけることができるのだ。

事業投資の代表的なものは、石油や資源エネルギーだ。2015年度は資源価格の下落で総合商社は軒並み減収減益、特に資源ビジネス分野に強い企業ほど、この影響は大きかった。そこで、非資源分野を強化しようという動きが出ている。例えば、自社グループのコンビニエンスストアを海外で展開したり、クリーンエネルギーに力を入れたりする動きも活発だ。なお、2016年度には再び資源価格が安定してきているため、資源ビジネスへの重点的な投資を継続させる企業もあり、各社の戦略は、それぞれに分かれそうだ。

(3)総合商社業界のHot Topics

鉄鉱石や原油・ガスなどの資源分野は、事業投資が収益の柱であることは変わりないが、強みを生かしながら投資先を見直す「集中と選択」が図られている。

脱・資源

資源ビジネスへの依存度が高いと、資源価格が下落した場合のリスクは大きい。そこでリスクを分散すべく、資源分野への投資にはブレーキをかけたり、非資源分野への投資を強化したりする総合商社もある。また、世界の人口増加による食糧事情に対応するため食品事業を強化したり、自社内に情報通信系のグループ会社を作り、モノだけでなくサービスも提供したりするなど、脱資源の事業投資にシフトチェンジが図られている。

メガソーラーの建設・運営

「メガソーラー」とは、出力1メガワット(1000キロワット)以上の大規模な太陽光発電のこと。脱資源の事業投資先として、最近注目を集めている。地球温暖化対策をまとめた「パリ協定」の発効で、クリーンエネルギーへの移行は世界的に加速するとみられている。そこで、総合商社の持つ機器調達力や事業運営ノウハウを生かして、国内外でメガソーラーを建設・運営し、収益基盤としていく動きもある。

(4)関連業界とのつながり

コンビニエンスストア

コンビニエンスストアは、総合商社にとって直接・間接的な取引先であるだけでなく、自社のグループ会社として組み込まれている場合もあり、両者の関係は密接だ。ヒット商品の開発や原料・食材の調達、海外進出など、総合商社は幅広く関与している。

鉄鋼

鉄鋼は、建材や家電、自動車などさまざまな産業で必要とされる。総合商社はそうした企業への仲介だけでなく、物流などのさまざまな機能を組み合わせて事業を展開。グループ内に鉄鋼だけを扱う専門商社があるケースもある。

 

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吉田賢哉さんプロフィール写真

【監修】吉田賢哉(よしだ・けんや)さん
株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 上席主任研究員/シニアマネジャー
東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。新規事業やマーケティング、組織活性化など企業の成長を幅広く支援。従来の業界の区分が曖昧になり、変化が激しい時代の中で、ビジネスの今と将来を読むために、さまざまな情報の多角的・横断的な分析を実施。

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記事作成日:2017年5月12日

※記事制作時の業界状況を基にしています

※文中の社名・所属等は、取材時または更新時のものです。