鉄道会社は、人やモノを運ぶ移動手段としての鉄道を維持・運行している企業だ。また、多くの人々が集まる「駅」を基点とし、不動産、小売業、ホテル、レジャー施設といった事業を運営しているところもある。
大手私鉄16社の2016年3月期における総売上高は、前年より1.2パーセント増の7兆7673億円。東日本大震災などの影響もあり、ここ10年で最低の売上高となった2012年3月期(7兆960億円)に比べると9.5パーセント増えた。また、東日本旅客鉄道(JR東日本)と東海旅客鉄道(JR東海)が過去最高の売上高と当期純利益を上げるなど、鉄道各社の業績はおおむね好調だ。
その原動力となったのがインバウンド需要(訪日外国人の消費によってもたらされる需要のこと)だ。訪日外国人が増えたことにより、観光需要が都市部から郊外へ波及し、鉄道会社の運営するホテルやレジャー施設、駅ビル内の商業施設はにぎわいを見せている。ただし、2016年以降、訪日外国人の1人あたりの支出額が減少し始めているというデータもあり、今後はやや不透明だ。さらに、これから少子高齢化によって人口減少が進み、通勤・通学で電車を利用する層が減るのではないかと懸念もされている。
そこで各社は、自社路線の利用者を増やそうと努力を重ねている。キーワードは、「沿線価値の向上」。鉄道路線の周辺地域を、住民が安心して長く住み続けたくなる「価値の高い場所」に変えることで、鉄道をはじめとする自社サービスの利用者を確保しようという考えである。例えば、鉄道会社が沿線エリアで保育所を設立したり、高齢者事業に力を入れたりして、子育て世代やシニア世代が住みやすい街づくりを目指すケースもある。
拠点駅の集客力向上も、大きな焦点となっている。例えばJR東日本は、国土交通省と共に整備した「バスタ新宿」を2016年4月に開業。さらに、商業施設や保育所、クリニック、多目的ホールなどが入居した「JR新宿ミライナタワー」をオープンするなどして新宿の利便性を高めている。また、名古屋市では鉄道会社も参加して「名古屋駅周辺エリアにおけるトータルデザイン検討会議」が開催され、駅前広場などの再開発を議論している。このように拠点駅周辺の環境を整備することで、鉄道利用者の増加や、駅ナカの販売施設の売り上げアップなどを図ろうとしている。
鉄道会社は経営母体によって、日本国有鉄道に起源を有する「JRグループ各社」、民間企業によって運営されている「私鉄」、地方公営企業や地方自治体が運営する「公営鉄道」、国や地方自治体と民間が共同運営する「第三セクター鉄道」の4つに分かれる。また、運ぶものが旅客(=人)か貨物(=モノ)かで分けることもできる。貨物列車は、JRグループの「日本貨物鉄道(JR貨物)」が大半を占めるが、私鉄や専用鉄道も少数ではあるものの貨物を扱っている。
鉄道会社にとって、最も大きな収入源は運賃収入である。しかし、それ以外の売り上げも決して小さくない。例えば、JR東日本の場合、2016年に運輸業(鉄道、モノレール、バス、車両製造事業など)から得た収益は、全体の68.2パーセントだった。一方、駅構内の売店や商業施設などの「駅スペース活用事業」は13.9パーセント、駅近くのショッピングセンターや複合型オフィスビルの「ショッピング・オフィス事業」は8.9パーセント、電子マネーやホテル業などの「その他」が9.0パーセントを占めている。今後は人口減少が進むため、運賃収入が飛躍的に伸びることは期待しづらい。鉄道各社は、運賃収入以外の分野に力を入れて収益アップを目指している。
異なる鉄道会社同士が互いの路線で車両を運行する「相互乗り入れ」が拡大。乗り換えをせずに目的地まで行けるため、地域住民に住みやすい環境を提供し、沿線価値の向上につなげられる。また、旅行者を観光地に誘導する効果も高いとされる。
日本の鉄道を、車両などの「ハード」と、正確・安全に運行するためのノウハウといった「ソフト」を一緒に輸出する機会が増えている。加えて近年では、鉄道会社が海外で沿線の開発などを含めた街づくりを行うケースも登場。
駅ナカ、駅チカの商業施設は高収益が見込めるため、鉄道各社は開発に力を入れている。2017年以降は、横浜(神奈川県)、川崎(神奈川県)、さいたま(埼玉県)、千葉(千葉県)、渋谷(東京都)などの各駅で、駅自体の大改装や周辺商業施設・オフィスビルの開発事業が予定されている。
鉄道各社は、以前から新型車両の開発を進めている。近年では、案内ディスプレイの多言語化・大型化を進めた車両、車内で無線LANサービスを提供できる車両、軽量化や新型モーターの採用で省エネを実現した車両、などが導入された。
沿線にある観光資源を地方自治体と共に発掘・開発したり、観光客の誘致などで協働したりするケースが増えそうだ。
駅ビルに自社傘下の百貨店や、さまざまな小売店を入居させることで、近隣の百貨店と競合関係になるケースもある。一方、鉄道会社と百貨店が合弁会社を作って協力するケースもある。
鉄道車両の製造、運行システムの構築などで、重工メーカーとは密接な関係にある。海外に鉄道システムを輸出する際にも協力する。
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【監修】吉田賢哉(よしだ・けんや)さん
株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 上席主任研究員/シニアマネジャー
東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。新規事業やマーケティング、組織活性化など企業の成長を幅広く支援。従来の業界の区分が曖昧になり、変化が激しい時代の中で、ビジネスの今と将来を読むために、さまざまな情報の多角的・横断的な分析を実施。
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※記事制作時の業界状況を基にしています
志望業界や志望企業を絞り込んだり、志望動機をまとめたりするうえで、業界や業種への理解を深めるために「
業界ナビでは、各業界の仕組みや現状など、業界研究に役立つ情報をわかりやすく解説しています。業界の平均
教育業界には、幼稚園、小学校、中学校、高等学校などの教育機関のほか、就学期の子どもを対象とした学習塾・予備校などの学習支援機関、社会人を対象にした語学・資格スクールやカルチャースクール、企業向けの社員研修を扱う企業など、幅広い企業がある。
高齢者や障がい者など日常生活に何らかの支援を必要としている人に対して、さまざまな形でサービスを提供するのが「福祉・介護」業界だ。広義には児童保育も含まれる。
ここでは、公社とは公益社団法人や公益財団法人など、私的な利益を追求するのではなく、公(おおやけ)、つまり社会のために存在している企業、または団体を指す。かつて中央官庁が担当していた事業のうち、一定の事務・事業を分離し、業務の質の向上や活性化などを狙って設立された独立行政法人も公社の一つと言える。
人材サービス業は、顧客企業のニーズに応じて人材を派遣したり、紹介・斡旋したりする事業だ。ビジネスの変化スピードが高まる中で、「新たな事業部門に適した人材を集めたい」「業務拡大に伴い早急に人員を確保したい」「勤怠管理を丸ごと委託したい」など顧客企業のニーズも多様化し、需要も高まっている。
鉄道会社は、人やモノを運ぶ移動手段としての鉄道を維持・運行している企業だ。また、多くの人々が集まる「駅」を基点とし、不動産、小売業、ホテル、レジャー施設といった事業を運営しているところもある。
目次航空・空港業界とは航空・空港業界の仕組み航空・空港業界にかかわる職種航空・空港業界の現状航空・空
レジャー・アミューズメント・パチンコ業界は、テーマパークや遊園地、動物園や水族館、ゲームセンター、カラオケ、パチンコホールなどの運営を通じて娯楽を提供している。
ホテル業界は利用者に対し、宿泊するための部屋や、ホテル内のレストランや結婚式場での各種サービスを提供している。ホテルや旅館の客室は、下図のように、自社サイトによる直接販売と、旅行会社・旅行代理店や旅行予約サイトなどを通じた委託販売によって消費者に提供される。近年は、インターネットからの予約が主流になりつつある。また、旅行予約サイトなどでは、ホテルの予約だけでなく、鉄道や飛行機の旅行券も併せて「セット予約」できる場合も多く、消費者の利用は増えている。
一般的に旅行業界とは、旅行者のための移動手段や宿泊施設手配、パッケージ旅行のプラン作成や販売などの事業に携わる者を指す。法律上、旅行業に従事する「旅行会社」と旅行業者代理業を行う「旅行代理店」の2つに分類される。
店舗に行って食事をすることを「外食」と呼ぶのに対し、弁当や総菜など、家庭外で調理された食品を持ち帰って自宅で食べることを「中食(なかしょく)」と呼ぶ。フードサービス業界は、レストラン、ファストフード店、喫茶店、居酒屋などの「外食」を手がける企業と、いわゆる「デパ地下」で弁当や総菜などを販売して「中食」に携わる企業とに大きく分かれている。
不動産業界とは、土地や建物などにかかわる業界のこと。商業施設、ビル、マンション、リゾート施設などを開発するデベロッパー(開発業者)、注文住宅や、建売住宅などを手がけるハウスメーカー、物件の売買・賃貸を仲介する不動産仲介業者なども、不動産業の重要な役割を担っている。
※1 2024年3月6日時点のリクナビ2024の掲載情報に基づいた各企業直近集計データを元に算出