一般的に旅行業界とは、旅行者のための移動手段や宿泊施設手配、パッケージ旅行のプラン作成や販売などの事業に携わる者を指す。
法律上、旅行業に従事する「旅行会社」と旅行業者代理業を行う「旅行代理店」の2つに分類される。
旅行会社は業務の範囲により、海外・国内の旅行を企画できる「第1種」、国内旅行のみの企画ができる「第2種」、一定の条件下で国内旅行を企画できる「第3種」、特定区域の国内旅行のみを企画できる「地域限定」に区分される。
旅行会社の仕事内容は多岐にわたる。市場のマーケティングを行い、レジャー施設と協力して、地域の特産物を作るメーカーや地方自治体と連携しながら商品企画を立てる。営業として旅行者や企業向けにツアーの紹介をしたり、顧客のニーズをくみ取って受注型企画旅行を提案したり、時には旅行に同行することもある。
このような幅広い仕事内容を1人で担当することもあるが、会社によっては、「マーケティング」「企画」「営業」「販売」「ツアーコンダクター」などの職種を設定し、職種ごとに専門性を深めながらお互い連携して業務を行うケースもある。
旅行代理店の行う旅行業者代理業とは、旅行会社と代理契約を結び、ツアーなどの旅行商品を代理販売することを指す。
Online Travel Agentの略で、インターネット上だけで取引を行う旅行会社のこと。宿泊施設と旅行者の宿泊仲介や、宿泊と移動手段のセット販売のほか、手配旅行なども扱う。検索や閲覧のしやすさから利用者は伸び、旅行業以外からの新規参入も多い。
旅行会社の収益は、旅行者側からと、移動サービスや宿泊サービスを提供する側からと、両方から上げられる。これらの収益を上げるため、販売する旅行商品には「募集型企画旅行」「受注型企画旅行」「手配旅行」がある。
募集型企画旅行は、エリアやテーマなどを旅行会社が設定し、ホテルや航空会社、鉄道会社などから部屋や座席を仕入れ、パッケージツアーという形にまとめる。旅行者が航空や宿泊などを設定されている選択肢から選んで組み合わせるダイナミックパッケージも、募集型企画旅行に含まれる。これらのパッケージツアーを自社の店舗やインターネットサイト、旅行代理店を通して旅行者に販売する。
受注型企画旅行は、旅行者からの依頼に基づいて旅行計画を作成する。旅行ニーズを持つ個人や法人の要望を聞いた上で、旅行会社が持つノウハウやネットワークを生かして旅行の企画としてとりまとめて販売する。例えば、学校向けに修学旅行を企画して販売するようなケースが該当する。
手配旅行は、旅行者からの依頼に基づいて、宿泊施設や乗車券等を手配するもの。旅行者の指定した宿の予約やチケットの手配などの手続きを行う。
2020年から、新型コロナウイルスの流行の影響を受け、旅行業界を取り巻く環境は急変している。4月に1回目の緊急事態宣言が発出され、外出の自粛が求められたことで旅行者は激減した。
観光庁の「宿泊旅行統計調査」によると、新型コロナウイルスが流行する前の2019年の国内における年間の延べ宿泊者数は5億9592万人泊(「人泊」とは、宿泊人数×宿泊数のこと)。前年に比べて10.8%増えていた(このうち、日本人の延べ宿泊者数は4億8027万人泊で、前年より8.2%増)。
一方、2020年の宿泊数を見ると、延べ宿泊者数(全体)は3億480万人泊で、前年比マイナス48.9%。日本人延べ宿泊者数は2億8677万人泊で前年比マイナス40.3%と大幅に落ち込んでいる。
このような環境の急変を受けて、政府はGo Toトラベル事業などを通じ、国内居住者の旅行需要を喚起し、旅行業界を支える政策を掲げた。しかし、7~8月には第2波とされる新型コロナウイルスの再流行に見舞われるなど需要喚起は期待通りに進まず、Go Toトラベル事業は停止された。
インバウンドへの影響はさらに顕著だ。外国人の延べ宿泊者数を見ると、2019年には1億1566万人泊で、前年より22.7%増と順調な伸びを見せていたが、2020年は1803万人泊。前年より84.4%減少している。
また、日本政府観光局の「月別・年別統計データ(訪日外国人・出国日本人)」では、2019年の訪日外国人数は過去最高の3188.2万人だったが、2020年は411.6万人。前年比マイナス87.1%となった。
訪日外国人の減少は、外国人旅行者の日本国内での消費活動の縮小にもつながっている。観光庁が出している「訪日外国人消費動向調査」によると、訪日外国人の旅行消費額は、2019年には4兆8135億円であったが、2020年には7446億円(※)。前年比マイナス84.5%となっている。
その後もまん延防止等重点措置の適用や、緊急事態宣言の再発出など新型コロナウイルス収束の目途は立っておらず、国内居住者による国内旅行の活性化に向けた取り組みが上手く進むかは不透明な状況である。また、海外からの旅行者に関しては、当面期待できない状況が続きそうである。
(※)2020年の値は試算値。新型コロナウイルスの影響により、2020年は4~6月期、7~9月期、10~12月期の国・地域別の旅行消費額の調査が中止となったため、2020年1~3月期の全国調査の結果を用いて、2020年の年間値を試算している。
2021年に入り、新型コロナウイルスに対するワクチンが世界的に供給されるようになってきている。インバウンドについては、ワクチン接種証明を保持している人について入国を認めるなどの措置が取られるのではないかとの期待もある。ただ、以前のように多くの外国人が日本を訪れるようになるには、まだ相応に時間がかかると見込まれる。
現在中止されているGo Toトラベル事業は、国内のワクチン接種の広がりに伴うコロナ収束のめどが見えてきた際には、再開の可能性もあるだろう。まずは、国内旅行から旅行業界の需要回復が図られていくこととなりそうだ。
旅行業界では、今後も十分な感染対策が求められる。宿泊施設や交通機関などと連携し、密の回避や、換気・消毒の徹底などを実践し、旅行者を安全に受け入れる体制整備が必要だろう。
ワークとバケーションを組み合わせた造語。観光地やリゾート地に滞在し、リモートワークで業務を進めながら、オフタイムには滞在先でリフレッシュを図る、新しいワークスタイルの一つ。働き方改革や、新型コロナウイルス感染予防の観点から在宅勤務が進んだ背景を受け、2020年に政府がワーケーションの普及を目指す方針を打ち出した。
国内外から旅行客を迎え入れ、観光地での消費を期待することが難しいコロナ時代の今、観光地の名産品などを、ECや通販などで販売することで、少しでも売り上げアップにつなげようという取り組みが進む。また、ECや通販のつながりから、コロナ収束後に旅行で観光地を訪れるといった良い循環が生まれることも期待されている。
MICEとは、企業などの会議(Meeting)、企業などが行う報奨・研修旅行(Incentive Travel)、国際機関・団体、学会などが行う国際会議(Convention)、展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)の頭文字を使った造語で、これらのビジネスイベントの総称。参加者が多いだけでなく、比較的滞在期間が長く、一般的な観光客以上に周辺地域への経済効果を生み出すことが期待されている。
観光庁が日本国内で開催された国際MICEの消費額についての調査を実施したところ、2019年の市場規模は9228.6億円。3年前の2016年(5384.2億円)に比べ171.4%の成長を記録した。コロナ収束後には、落ち込んだインバウンド需要の回復策の一つとして、旅行業界におけるMICEへの注目が高まると見込まれる。
ホテル、ショッピング施設、展示場や会議場などのMICE施設、劇場、カジノなどが集まった複合型の観光施設のこと。大きな経済効果が期待されており、現在関連する法整備などが進められており、いくつかの自治体が誘致に関心を示している。
スマートフォンの情報提供アプリなどを通じ、訪日外国人が日本滞在中にたどったルートや、関心を持った施設などの情報を取得。それらのビッグデータを分析することで、新たな観光資源の発掘や、より良い旅行ルートの提案に生かそうとする試みも始まっている。
外国語の翻訳アプリや観光情報提供サービス、ビッグデータによる顧客分析など、さまざまな分野で、協業の可能性が増加している。
パッケージ旅行を企画するため、航空会社から座席を仕入れる。まとめて仕入れることで、消費者に格安な航空券を提供できる。
国内外のホテルと契約を結び、宿泊用の部屋をパッケージ旅行に組み込む。
国内旅行を企画する際には、鉄道会社とのやりとりが不可欠。 鉄道会社が旅行会社を経営するケースもある。
地方自治体と協力しながら、各地の観光資源を発掘して国内外の旅行者に向けて発信する機会が今後増えそうだ。
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【監修】吉田賢哉(よしだ・けんや)さん
株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 上席主任研究員/シニアマネジャー
東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。新規事業やマーケティング、組織活性化など企業の成長を幅広く支援。従来の業界の区分が曖昧になり、変化が激しい時代の中で、ビジネスの今と将来を読むために、さまざまな情報の多角的・横断的な分析を実施。
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※記事制作時の業界状況を基にしています
志望業界や志望企業を絞り込んだり、志望動機をまとめたりするうえで、業界や業種への理解を深めるために「
業界ナビでは、各業界の仕組みや現状など、業界研究に役立つ情報をわかりやすく解説しています。業界の平均
教育業界には、幼稚園、小学校、中学校、高等学校などの教育機関のほか、就学期の子どもを対象とした学習塾・予備校などの学習支援機関、社会人を対象にした語学・資格スクールやカルチャースクール、企業向けの社員研修を扱う企業など、幅広い企業がある。
高齢者や障がい者など日常生活に何らかの支援を必要としている人に対して、さまざまな形でサービスを提供するのが「福祉・介護」業界だ。広義には児童保育も含まれる。
ここでは、公社とは公益社団法人や公益財団法人など、私的な利益を追求するのではなく、公(おおやけ)、つまり社会のために存在している企業、または団体を指す。かつて中央官庁が担当していた事業のうち、一定の事務・事業を分離し、業務の質の向上や活性化などを狙って設立された独立行政法人も公社の一つと言える。
人材サービス業は、顧客企業のニーズに応じて人材を派遣したり、紹介・斡旋したりする事業だ。ビジネスの変化スピードが高まる中で、「新たな事業部門に適した人材を集めたい」「業務拡大に伴い早急に人員を確保したい」「勤怠管理を丸ごと委託したい」など顧客企業のニーズも多様化し、需要も高まっている。
鉄道会社は、人やモノを運ぶ移動手段としての鉄道を維持・運行している企業だ。また、多くの人々が集まる「駅」を基点とし、不動産、小売業、ホテル、レジャー施設といった事業を運営しているところもある。
目次航空・空港業界とは航空・空港業界の仕組み航空・空港業界にかかわる職種航空・空港業界の現状航空・空
レジャー・アミューズメント・パチンコ業界は、テーマパークや遊園地、動物園や水族館、ゲームセンター、カラオケ、パチンコホールなどの運営を通じて娯楽を提供している。
ホテル業界は利用者に対し、宿泊するための部屋や、ホテル内のレストランや結婚式場での各種サービスを提供している。ホテルや旅館の客室は、下図のように、自社サイトによる直接販売と、旅行会社・旅行代理店や旅行予約サイトなどを通じた委託販売によって消費者に提供される。近年は、インターネットからの予約が主流になりつつある。また、旅行予約サイトなどでは、ホテルの予約だけでなく、鉄道や飛行機の旅行券も併せて「セット予約」できる場合も多く、消費者の利用は増えている。
一般的に旅行業界とは、旅行者のための移動手段や宿泊施設手配、パッケージ旅行のプラン作成や販売などの事業に携わる者を指す。法律上、旅行業に従事する「旅行会社」と旅行業者代理業を行う「旅行代理店」の2つに分類される。
店舗に行って食事をすることを「外食」と呼ぶのに対し、弁当や総菜など、家庭外で調理された食品を持ち帰って自宅で食べることを「中食(なかしょく)」と呼ぶ。フードサービス業界は、レストラン、ファストフード店、喫茶店、居酒屋などの「外食」を手がける企業と、いわゆる「デパ地下」で弁当や総菜などを販売して「中食」に携わる企業とに大きく分かれている。
不動産業界とは、土地や建物などにかかわる業界のこと。商業施設、ビル、マンション、リゾート施設などを開発するデベロッパー(開発業者)、注文住宅や、建売住宅などを手がけるハウスメーカー、物件の売買・賃貸を仲介する不動産仲介業者なども、不動産業の重要な役割を担っている。
※1 2024年3月6日時点のリクナビ2024の掲載情報に基づいた各企業直近集計データを元に算出