「物流業界は何をしている業界?」「具体的な仕事内容は?」など、物流業界の業界研究に役立つ情報を網羅。業界の将来性や物流業界で働く上で求められるスキルなど、学生が疑問に思いやすいポイントもまとめました。
物流業界とは?
物流業界とは、「生産者から消費者の元に商品が届くまで」の流れをサポートする業界です。荷物を目的地まで届ける輸送・配送サービスや、荷物を保管する倉庫の提供サービスなどを通して収益を得ています。
物流業界の主な輸送方法としては、陸運・鉄道運送・空運・海運の4つがあります。それぞれの運送方法や、代表的な企業をまとめました。
陸運
陸運(陸上輸送)とは、陸路を使って荷物を運ぶ輸送方法です。トラックを使うトラック輸送や、郵便・フードデリバリーにも活用されているバイク便などがあります。
中でもトラック輸送は、国内貨物輸送重量の約9割(国土交通省「令和4年度 物流を取り巻く現状について」より)を占めていることからもわかるように、国内の主要な運送方法といえます。
代表的な企業は、以下が挙げられます。
- 日本郵政株式会社
- ヤマトホールディングス株式会社
- SGホールディングス株式会社
鉄道運送
鉄道運送(鉄道貨物輸送)は、貨物列車を利用して荷物を運ぶ方法です。一度に多くの荷物を遠くまで輸送できるところを強みとしており、トラック輸送よりも環境負荷が低い点でも注目されています。
代表的な企業は、以下が挙げられます。
- 日本貨物鉄道株式会社(JR貨物)
空運
空運(航空輸送)とは、航空機を使って荷物を輸送する運送方法です。ほかの輸送手段と比べて輸送速度が速いため、鮮度が求められる商品の運搬にもたけています。
代表的な企業としては、以下が挙げられます。
- 日本航空株式会社
- ANAホールディングス株式会社
海運
海運(海上輸送)とは、船舶を利用して荷物を輸送する方法です。大量輸送や国際貿易に欠かせない物流手段であり、日本のような島国においては物流を支える重要なインフラとなっています。
代表的な企業は、以下が挙げられます。
- 日本郵船株式会社
- 株式会社商船三井
陸・海・空に強い企業もある
多くの物流企業は1つまたは2つの輸送手段に特化していますが、中には他社が有する運送ルートを組み合わせることで、陸・海・空に対応できるようにしている総合物流企業もあります。
代表的な企業は、以下が挙げられます。
- NIPPON EXPRESSホールディングス株式会社
物流業界が担う6つの工程
物流の役目は、「モノを運ぶこと」だけではありません。物流企業は保管・荷役・流通加工・包装(梱包)・輸送(配送)・情報処理という6つの工程を通して、国内外の物流を支えています。なお、すべての工程を担うことができる総合物流企業を除いて、多くの企業は特定の工程に特化していることが多いです。各工程の役割について、簡単にまとめました。
保管
商品や原材料などの荷物を、出荷のタイミングまで保管する工程です。荷物をただ預かるだけでなく、荷物に適した温度・湿度などをキープし、適切な品質を維持します。
荷役
荷役とは、荷物の積み降ろしや倉庫への入出庫、配送先への仕分けなどを行う工程です。昨今は人手不足の解消に向けて、AIやロボットを活用した荷役の自動化も進められています。
流通加工
流通加工とは、物流の過程で荷物に付加価値を加える作業のことです。例えば、ラベル貼りや検品、品質チェックなどが含まれます。
包装(梱包)
荷物を保護するために、段ボールや袋などで包装する工程です。昨今は環境に配慮し、過剰包装を控えたり、プラスチック容器をリサイクルしたりする動きも出てきています。
輸送(配送)
輸送(配送)とは、荷物を生産工場→倉庫→小売店(消費者)まで運ぶ工程です。輸送手段にはトラック、バイク、鉄道、船舶、航空機などがあり、距離やコストに応じて適切な方法が選ばれます。
情報処理
保管・荷役・流通加工・包装(梱包)・輸送(配送)の各状況をデータとして管理する工程です。倉庫内の在庫を管理するシステムや、輸送・配送を管理するシステムなどを活用しながら、物流の効率化を支えています。

物流業界の将来性と今後の課題
国土交通省の「令和5年度 宅配便・メール便取扱実績について」によると、令和5年度の宅配便取り扱い個数は50 億733 万個でした。前年度と比べると0.3%増という緩やかな推移ではありますが、EC市場の拡大に伴い、今後も物流サービスのニーズは高まっていくことが予想されます。
中長期的には、国内の人口が減ることによる業界の縮小が懸念されていますが、そういった事態を見越してグローバル展開を進める企業も増えています。海外での物流拠点の設立や、現地企業との提携といった取り組みも進んでいるため、業界としては成長傾向にあるといえるでしょう。
そんな物流業界の今後の課題としては、下記の2点が挙げられます。
「物流の2024年問題」への対応が不可欠
近年の物流業界において大きな課題となっていたのが、トラックドライバーの労働環境の過酷さです。特に長時間労働が常態化していたことを受けて、2024年4月には複数の労働関連法が改正され、トラックドライバーの時間外労働の上限が年間960時間に制限されました。
この改正によってトラックドライバーの労働環境は改善に向かっていますが、ドライバー一人当たりが担うことができる配送量の上限も減ったことから、人手不足がさらに深刻化しています。「物流の2024年問題」として取り上げられたこの課題は2025年以降も解消されていないため、多くの企業が輸送方法の見直しなどを通して対策を急いでいます。
物流の効率化やDX化が急がれている
ドライバー不足や輸送燃料の高騰への対策として、物流の効率化・DX化(ITを使った業務の効率化)も進められています。具体的には車の自動運転やドローン宅配など、ドライバーのいない運送方法が注目されています。そのほか、トラック以外の輸送方法に転換することでドライバー不足や環境負荷を減らそうとする「モーダルシフト」への期待値も高いです。今後も環境に配慮しながら、業務をより効率化しようとする動きが顕著になるでしょう。
物流業界の仕事内容
物流業界には保管・荷役・流通加工・包装(梱包)・輸送(配送)・情報処理という6つの工程があり、さまざまな仕事がかかわり合いながら成り立っています。スムーズな物流の実現を支えている、代表的な仕事内容をまとめました。
営業
物流業界の営業は、企業の貨物輸送や保管に関するニーズをヒアリングし、最適な物流サービスを提案する仕事です。物流コストの削減や適切な運送方法の提案など、顧客の課題を解決するような提案を行うことも役目の一つといえます。
管理(運行管理・物流管理)
お客さまから預かった荷物がスムーズに保管・輸送されるようサポートします。荷物の仕分けや荷役、梱包などを行いながら配送完了までサポートする「運行管理」と、物流システムを使って荷物の配送ルートやスケジュールを管理する「物流管理」という2つの役割が代表的です。
運送・輸送
トラックドライバーや航空・海運・鉄道貨物担当といった、荷物の運送そのものにかかわります。荷物を消費者に届けるだけでなく、生産者側から集荷する役目も担います。
システム開発
倉庫管理・配送管理・在庫管理など、物資の運送や保管をサポートするためのシステムを開発します。システムの運用が始まった後の監視や、障害が発生したときのサポートも行っており、物流システムの効率的な運用を支えています。
物流業界で生かせる資質・スキル
最後に、物流業界で生かしやすい資質やスキルをまとめました。
- チームワーク…物流の現場では複数名で連携することも多いため
- コミュニケーション力…社内はもちろん、社外とやりとりすることも多いため
- 語学力…グローバル化が進む中で、外国語対応が求められることもあるため
- 柔軟な対応力…自然災害や交通事情などの外的要因を受けやすいため
- デジタルリテラシー…今後、業界のDX化が進むことが予想されるため
- 責任感…お客さまの荷物を預かるという責任があるため
物流業界は周りと協力するスキルや、外的なトラブルにも落ち着いて対応する柔軟性などを求められる業界です。現場で活躍する場合は、フォークリフト運転技能者、自動車免許、危険物取扱者などの資格も役立つでしょう。
なおひと口に物流業界といっても、企業によって得意としている運送方法や工程は大きく異なります。物流業界に興味がある場合は事前にインターンシップやオープン・カンパニーに参加するなどして、志望企業で生かしやすいスキルを把握しておくことも大切です。
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【監修】吉田賢哉(よしだ・けんや)さん
株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 上席主任研究員/シニアマネジャー
東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。新規事業やマーケティング、組織活性化など企業の成長を幅広く支援。従来の業界の区分が曖昧になり、変化が激しい時代の中で、ビジネスの今と将来を読むために、さまざまな情報の多角的・横断的な分析を実施。
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