ホテル業界は利用者に対し、宿泊するための部屋や、ホテル内のレストランや結婚式場での各種サービスを提供している。
ホテルや旅館の客室は、下図のように、自社サイトによる直接販売と、旅行会社・旅行代理店や旅行予約サイトなどを通じた委託販売によって消費者に提供される。近年は、インターネットからの予約が主流になりつつある。また、旅行予約サイトなどでは、ホテルの予約だけでなく、鉄道や飛行機の旅行券も併せて「セット予約」できる場合も多く、消費者の利用は増えている。
ホテルは、広く豪華な客室やレストラン・結婚式場・宴会場などの施設を備えた「シティホテル」、サービスや部屋の設備を最低限に抑えて、低価格で提供される「ビジネスホテル」、観光地などに建てられ、長期間の滞在も楽しめる「リゾートホテル」などに分類される。ただし、これらの区別に明確な基準はなく、ビジネスホテルでも豪華な客室を備えているケースや、シティホテルでも低価格で客室を提供しているケースがある。
ビジネスホテルは宿泊に特化しているため、顧客から受け取る宿泊料が最大の収入源となっている。一方、シティホテルでは、レストランやバーなどの飲食部門、結婚式場・宴会場などの宴会部門から得られる売り上げも収益の大きな柱となっている。そのため、宿泊部門以外にも、飲食部門でレストランなどの企画・運営を担当するスタッフ、宴会部門で結婚式や式典、催事などに携わる営業・企画職といった幅広い仕事がある。
近年、宴会場を備えたシティホテルでは、旅行会社・旅行代理店と連携してMICE(国際会議やシンポジウム、学会、企業によるインセンティブ旅行、展示会や見本市などのビジネスイベント)の誘致・開催に力を入れるケースも増えており、それらの営業・企画を専門に手掛ける仕事もある。
また、リゾートホテルでは、自治体などと連携して地域の魅力を発信するツーリズムや、リハビリテーションに取り組む長期滞在型ツアーなどを展開しているケースもある。
インバウンド(訪日外国人観光客)の需要拡大や、東京オリンピック・パラリンピックに向けた新たなホテルの建設や民泊の推進など、宿泊施設は増大傾向にあった。しかし、2020年に入ると新型コロナウイルスの影響を受けて、旅行者・出張者が激減。観光庁の「宿泊旅行統計調査」によれば、2020年の宿泊数は、「延べ宿泊者数(全体)」が3億480万人泊(「人泊」とは、宿泊人数×宿泊数のこと)となっており、前年比マイナス48.9%と減少。ホテル業界は、大きなダメージを受けている。宿泊需要以外にも、冠婚葬祭や、各種催事・イベントの開催も抑制され、飲食、宴会場の利用の需要も影響を受けている。
新型コロナウイルスの流行により、インバウンド需要は激減している。日本政府観光局の「月別・年別統計データ(訪日外国人・出国日本人)」によれば、2019年の訪日外国人数は過去最高の3188.2万人に上っているが、2020年には411.6万人まで減少し、前年比マイナス87.1%となっている。
また、観光庁「宿泊旅行統計調査」によれば、2019年の外国人の延べ宿泊者数は1億1566万人泊となっており、前年比はプラス22.7%と伸びている状況にあった。しかし、2020年は1803万人泊となり、前年比はマイナス84.4%まで落ち込んでいる。
国内の宿泊者数も、2020年の「日本人延べ宿泊者数」は2億8677万人泊と前年比でマイナス40.3%と新型コロナウイルスの影響を受けている。
そのため、国内居住者の旅行需要や外食需要の喚起を目指し、Go To トラベル事業、Go To Eat事業などの政策を実施。しかし、2020年7~8月ごろに新型コロナウイルス流行の第2波が訪れ、需要喚起は期待通りには進まずに、Go To事業は停止されることとなった。
その後もまん延防止等重点措置の適用や、緊急事態宣言の再発出などにより、ホテル業界の再活性化に向けた動きは、いまだ不透明な状況となっている。また、インバウンド需要についても当面は期待できず、2021年6月時点では旅行・観光需要が回復する傾向は見られない。
2021年に入って新型コロナウイルスワクチンが世界的に供給されるようになっており、ワクチン接種証明を保持している人の入国を認めるなどの措置が期待されている。しかし、新型コロナウイルス流行以前のように、多くの外国人が日本を訪れるようになるには、まだ相応に時間がかかると見込まれている。ただ、観光立国の実現に向けて2008年に観光庁を設置して以来、国策として旅行・観光産業を支援してきた背景があるため、世界的な新型コロナウイルスの感染拡大に収束のめどが立てば、再度、振興政策に注力していくことが予想される。
国内においても、ワクチン接種を進めている状況があるが、新型コロナウイルス流行収束の傾向が見えてくれば、現在、停止中のGo To トラベル事業の再開などを期待できるだろう。現在、ホテル業界では、密の回避、換気や消毒の徹底などを実践し、宿泊・飲食の来客を受け入れる体制を整えている。今後もこうしたコロナ対策を図りながら、Go To事業の再開などを中心に、まずは、国内居住者の旅行需要・飲食需要の回復が図られていくものと見込まれる。直近では、ホテルが立地する都道府県に居住する地元の人の旅行・飲食需要を取り込んでいくことがポイントになるだろう。
ワークとバケーションを組み合わせた造語。観光地やリゾート地に滞在し、リモートワークで日々の仕事を行いながら、オフタイムには滞在先でプライベートを楽しみ、リフレッシュを図るという新しいワークスタイルの一つ。働き方改革や、新型コロナウイルスの流行によりテレワークがより推進されていくうち、導入する企業が増えたことを受け、2020年に政府がワーケーションの普及を目指す方針を打ち出している。
新型コロナウイルスの影響を受ける中、ホテル業界では、客室を旅行者・出張者へ貸し出すのみならず、新たな利用方法で客室の利用率を高めようという動きが出てきている。割安な長期滞在プランを用意し、ワーケーション時の滞在先としての需要を狙う動きや、日中にシェアオフィスとして利用してもらう取り組みなどがある。また、緊急事態宣言における飲食店の営業時間規制や酒類提供規制などが実施される中、飲食部門でテイクアウト対応を行ったり、ルームサービスで酒類を楽しむプランを打ち出したりするホテルも登場している。
人件費のコストを削減するために、館内清掃に清掃ロボットを導入するホテルも登場している。また、ビジネスホテルではチェックイン・チェックアウトを行う機械を導入し、フロント対応の無人化を進めている施設もある。
企業などの会議(Meeting)、企業などが行う報奨・研修旅行(Incentive Travel)、国際機関・団体、学会などが行う国際会議 (Convention)、展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)の頭文字を使い、これらのビジネスイベントを総称するものがMICEだ。ホテルにおいては、イベント開催する会場の貸し出しや、参加者への客室提供や飲食需要などの利益を生み出す事業でもある。参加者数が多く、長期間の滞在を行うケースもあるため、周辺地域への経済効果にも期待されている。
自治体や地域などと連携して地域の観光資源の発掘するツーリズムや、長期滞在にてリハビリテーションに取り組むツアーの展開、外国人観光客やアクティブシニア(仕事・趣味などに意欲的で、健康意識が高い傾向にある活発な高齢者)に向けたツアーなど、体験型コンテンツによる観光の魅力発信で、国内外の需要を高めていくことも期待される。
客室を販売する際には、旅行会社や旅行代理店の力を借りる。また、パッケージ旅行の企画時に協力し合うなど、関係は深い。
インターネットの利用が一般的になる中で、自社サイトを強化していく必要性が高まっている。 そこで、使いやすいWebサイトやチェックインサービスのシステムを作るため、IT企業と協働する機会も増えている。
宴会場や豪華なレストランなどを館内に有するホテルにとって、館内のレストランから得られる売り上げは大きな収入源。 また、外部のレストランと協力してイベントを開催することもある。
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【監修】吉田賢哉(よしだ・けんや)さん
株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 上席主任研究員/シニアマネジャー
東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。新規事業やマーケティング、組織活性化など企業の成長を幅広く支援。従来の業界の区分が曖昧になり、変化が激しい時代の中で、ビジネスの今と将来を読むために、さまざまな情報の多角的・横断的な分析を実施。
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※記事制作時の業界状況を基にしています
志望業界や志望企業を絞り込んだり、志望動機をまとめたりするうえで、業界や業種への理解を深めるために「
業界ナビでは、各業界の仕組みや現状など、業界研究に役立つ情報をわかりやすく解説しています。業界の平均
教育業界には、幼稚園、小学校、中学校、高等学校などの教育機関のほか、就学期の子どもを対象とした学習塾・予備校などの学習支援機関、社会人を対象にした語学・資格スクールやカルチャースクール、企業向けの社員研修を扱う企業など、幅広い企業がある。
高齢者や障がい者など日常生活に何らかの支援を必要としている人に対して、さまざまな形でサービスを提供するのが「福祉・介護」業界だ。広義には児童保育も含まれる。
ここでは、公社とは公益社団法人や公益財団法人など、私的な利益を追求するのではなく、公(おおやけ)、つまり社会のために存在している企業、または団体を指す。かつて中央官庁が担当していた事業のうち、一定の事務・事業を分離し、業務の質の向上や活性化などを狙って設立された独立行政法人も公社の一つと言える。
人材サービス業は、顧客企業のニーズに応じて人材を派遣したり、紹介・斡旋したりする事業だ。ビジネスの変化スピードが高まる中で、「新たな事業部門に適した人材を集めたい」「業務拡大に伴い早急に人員を確保したい」「勤怠管理を丸ごと委託したい」など顧客企業のニーズも多様化し、需要も高まっている。
鉄道会社は、人やモノを運ぶ移動手段としての鉄道を維持・運行している企業だ。また、多くの人々が集まる「駅」を基点とし、不動産、小売業、ホテル、レジャー施設といった事業を運営しているところもある。
目次航空・空港業界とは航空・空港業界の仕組み航空・空港業界にかかわる職種航空・空港業界の現状航空・空
レジャー・アミューズメント・パチンコ業界は、テーマパークや遊園地、動物園や水族館、ゲームセンター、カラオケ、パチンコホールなどの運営を通じて娯楽を提供している。
ホテル業界は利用者に対し、宿泊するための部屋や、ホテル内のレストランや結婚式場での各種サービスを提供している。ホテルや旅館の客室は、下図のように、自社サイトによる直接販売と、旅行会社・旅行代理店や旅行予約サイトなどを通じた委託販売によって消費者に提供される。近年は、インターネットからの予約が主流になりつつある。また、旅行予約サイトなどでは、ホテルの予約だけでなく、鉄道や飛行機の旅行券も併せて「セット予約」できる場合も多く、消費者の利用は増えている。
一般的に旅行業界とは、旅行者のための移動手段や宿泊施設手配、パッケージ旅行のプラン作成や販売などの事業に携わる者を指す。法律上、旅行業に従事する「旅行会社」と旅行業者代理業を行う「旅行代理店」の2つに分類される。
店舗に行って食事をすることを「外食」と呼ぶのに対し、弁当や総菜など、家庭外で調理された食品を持ち帰って自宅で食べることを「中食(なかしょく)」と呼ぶ。フードサービス業界は、レストラン、ファストフード店、喫茶店、居酒屋などの「外食」を手がける企業と、いわゆる「デパ地下」で弁当や総菜などを販売して「中食」に携わる企業とに大きく分かれている。
不動産業界とは、土地や建物などにかかわる業界のこと。商業施設、ビル、マンション、リゾート施設などを開発するデベロッパー(開発業者)、注文住宅や、建売住宅などを手がけるハウスメーカー、物件の売買・賃貸を仲介する不動産仲介業者なども、不動産業の重要な役割を担っている。
※1 2024年3月6日時点のリクナビ2024の掲載情報に基づいた各企業直近集計データを元に算出