信用金庫業界

信用金庫業界

信用金庫とは

信用金庫とは、地域の事業者や個人が会員となって互いに地域の繁栄を図る、相互扶助を目的とした金融機関のこと。銀行と同様、預金を集めて会員に資金を貸し出す機能を持っている。

ただし、株式会社として利益を追求する銀行とは異なり、信用金庫は会員の出資による非営利法人で、相互扶助の理念の下、会員向けに金融サービスを提供している。会員資格は、特定の地域内の事業者(中小企業、個人事業主)や個人に限られており、1人1票の議決権を持ち、会員の自治に基づいて経営が行われている。貸し出し対象も原則会員に限られている。

また、地域に根差した組織であるため、信用金庫の営業地域は限定されている。

信用金庫の仕組み

預金という形で会員から預かったお金の金利(預金金利)と、会員への資金の貸し出し時に受け取る金利(貸出金利)の差、すなわち「利ざや」から利益を得る、というのが信用金庫の基本的なビジネスモデルだ。

2022年8月時点での全国の信用金庫の数は、254金庫(信金中金 地域・中小企業研究所「信用金庫統計」)となっている。このほか、「信金中央金庫」という中央金融機関があり、全国の信用金庫に対して業務機能補完や信用力向上などを目的とした各種サービスを展開している。

信用金庫の業務

信用金庫の職員が携わる業務は「窓口」「営業」「審査」の大きく3つに分かれる。

  • 窓口…来店した個人・法人に対応する
  • 営業…個人・法人の客先に出向いて資金のニーズなどを聞き出し、ニーズに合ったソリューション(お金を貸し出す仕組みなど)の提案などを行う
  • 審査…融資を行う上で生じるリスクについて評価や審査を行う

営業の中でも法人営業は、過去に他社に行った貸し出しやビジネスマッチングの実例、税理士などの地域の専門家の紹介など、自分たちが持っている情報を提供して経営をサポートしながら資金需要のニーズを掘り起こす、信用金庫が利益を上げる上で大きな役割を果たしている。なお、営業を行う部署に「渉外係」「融資係」などの名称を用いている信用金庫が多い。 

ビジネス領域を広げる取り組み

2016年に導入された「マイナス金利」(※)によって、金融機関が企業や個人に貸し出す際の金利が低下し、利ざやを得にくくなってしまった。信用金庫もほかの金融機関と同様に苦しい状況に追い込まれたため、投資信託や各種保険商品の取り扱いなどにビジネス領域を広げる信用金庫も増えている。

投資信託では、信金中央金庫が複数の投信会社の指定販売会社となり、自らはその取次販売会社となる方式を取っている。これを利用して投信窓販業務に参入している信用金庫は、2022年3月末時点で187金庫となっている。2021年度における投信窓販取り扱い状況は、363 万1086件、4389億円となっており、前年度と比較すると、売件数は45.7%、販売金額は50.9%増加と、大幅に伸びている(信金中金 地域・中小企業研究所「2021年度信用金庫概況」)。

※マイナス金利…金融機関が日本銀行に預けているお金にマイナスの金利をつけるという政策のこと。

取扱商品の拡充

保険商品についても、個人年金保険、終身保険、医療保険、傷害保険、介護保険、火災保険などの個人向けの各種保険から、企業向けの業務災害補償保険や債務返済支援保険まで取り扱う信用金庫もあり、地域の人々や企業の幅広いニーズに応えている。

また、信金中央金庫は、2016年10月に信託兼営の認可を取得し、2017年1月から信用金庫独自のブランドとして、相続や生前贈与をサポートする個人向け信託商品の提供も開始した。地域密着型の強みを生かし、高齢社会のニーズに対応すべく独自の商品開発にも取り組んでいる。

信用金庫の概況

2016年の「マイナス金利」導入では、信用金庫だけでなく、銀行や保険会社など多くの金融関連の業界が頭を悩ませた。一方で、2018年には業績改善の兆しも見られた。日本銀行が算出し発表している、金融機関が個人や企業にお金を貸し出す際の金利の平均「貸出約定平均金利」が、前年同時期に比べるとわずかながら上昇に転じた。

2020年以降は新型コロナウイルス感染症の流行によって金融業界も大きな影響を受けたが、政府系金融機関である日本政策金融公庫が実施した「新型コロナウイルス感染症特別貸付(無担保の融資制度で、期間限定で実質無利子の借り入れができる措置)」の需要が高まった。コロナ禍において中小企業の倒産を防止するための融資施策を充実させる必要が生じたため、信用金庫や各種金融機関は、都道府県などによる制度融資を活用し、日本政策金融公庫と同等の内容の貸し付けを実施した。地域密着で地元の中小企業を支えてきた信用金庫は、コロナ禍においても一定の役割を果たした。今後は、融資先への多方面のサポートを通じ、融資先の事業の回復・発展へと導いていくことが期待される。

また、長期的に見た人口減少、地域の活力の減退などの可能性を考え、各信用金庫はさまざまな取り組みを行っている。

例えば、新たな取引先の開拓や既存会員へのさらなる融資につなげるための取り組みとして、事業承継をはじめとした地域内の会員が持続的な経営を行うための支援や、地域内の新産業の創出支援、地方自治体や商工会議所などと連携しての地域活性化支援など、単に「お金を貸す」だけではない、多方面にわたるサポートを地域内の企業に対して行うことに注力している。

信用金庫のHot Topics

信用金庫同士の経営統合

全国の信用金庫の数が年々減少している理由として、経営強化を目的とした信用金庫同士の合併が挙げられる。営業地域の隣接する信用金庫間の合併により、預金量をはじめとした各種資金や店舗網の拡大などで経営基盤を強化し、地域への安定的な資金供給やサービスの質の向上を目指している。

地域の経営者支援

団塊の世代の経営者の引退が相次ぎ、中小企業にとって「事業承継」が大きな課題の一つとなっている。信用金庫にとっても、地域内の企業が事業を継続できなければビジネスチャンスが失われることにつながる。そのため、外部の税理士と連携しての税務相談や、事業承継に関連したコンサルティング、事業譲渡やM&Aのサポート、新たな主要取引先を確保するためのビジネスマッチングなどに力を入れている。

地域の新産業の創出

地域内で新たな産業や起業家を創出するべく、自治体や地域内の大学、地元商工会議所などと連携して地域の活性化に資するビジネスアイデアを募るビジネスコンテストに取り組む動きも少なくない。優良なアイデアは、信用金庫が継続的に支援し、地域経済へ大きな波及が生み出されることを狙っている。

関連業界とのつながり

地方自治体、商工会議所・商工会

地域内の中小企業の新たな事業の柱の創出や経営改革を支援するために、地方自治体や国の出先機関、商工会議所・商工会、税理士会などとの連携を深め、それぞれの組織の得意分野を生かして協働する動きが活発化している。

地方銀行

事業承継をはじめとした地域の経営者支援や、地域の新産業創出などは、地方銀行も信用金庫同様に生き残りをかけて行っており、両者はライバル関係にある。

大学、教育機関

ビジネスコンテストの共催や後援をはじめとした地域活性化のための取り組みで連携を深めている。

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吉田賢哉さんプロフィール写真

【監修】吉田賢哉(よしだ・けんや)さん
株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 上席主任研究員/シニアマネジャー
東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。新規事業やマーケティング、組織活性化など企業の成長を幅広く支援。従来の業界の区分が曖昧になり、変化が激しい時代の中で、ビジネスの今と将来を読むために、さまざまな情報の多角的・横断的な分析を実施。

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記事作成日:2019年3月1日 記事更新日:2022年12月5日

※記事制作時の業界状況を基にしています

※文中の社名・所属等は、取材時または更新時のものです。