(1)損害保険業界の仕組み
損害保険会社の保険料
損害保険会社は、交通事故や火災などの発生確率と被害額を過去のデータなどから科学的に割り出し、適切な保険料を設定している。 ただし、大規模な事故や災害などが起こった場合、莫大(ばくだい)な保険料の支払いを求められる可能性もある。 そこで損害保険会社は、保険料の一部をほかの保険会社に支払い(=「再保険」をかけると言う)、自社のリスクを軽くしている。
保険代理店の減少
一般社団法人日本損害保険協会によると、損害保険の9割以上は「保険代理店(保険会社と委託契約を結び、保険会社の代理人として保険契約を結ぶ)」を窓口としたものだ。 しかし、2005年度末に26万6753店あった「保険代理店」は、2015年度末には20万2148店に減少している。
直接販売・保険ショップの拡大
一方、インターネットなどを活用して保険会社が顧客と直接契約を交わす「ダイレクト販売(直接販売)」の比率は増加。 また、複数の損害保険会社の商品を取り扱い、店頭で説明・販売を行う「保険ショップ」も徐々に勢力を伸ばしている。
BtoB分野の保険
なお、損害保険の対象は個人顧客だけではなく、企業(法人)向けの領域(BtoB)も大きい。 例えば、社屋や工場向けの火災保険、運送会社やタクシー会社向けの自動車保険、従業員の労働災害に備えた保険、海外で事業を展開する際のリスクに備えた保険などが、企業向けに提供されている。
(2)損害保険業界の概況
保険は、人の生存や死亡に関して保険金を支払う「第1分野の保険」(年金保険や死亡保険などが該当)、交通事故、火災、地震、盗難などで生じた損害を保障する「第2分野の保険」(自動車保険や火災保険などが該当)、第1分野と第2分野の中間的な存在である「第3分野の保険」(医療保険、介護保険、がん保険など)に分かれる。 このうち、損害保険会社が手がけるのは第2分野の保険だ。 また、規制緩和により2001年からは、第3分野の保険も扱えるようになった。
大規模な業界再編
この業界では、2010年に大規模な業界再編が行われた。 現在は、3つの大手企業グループ(いわゆる「3メガ」。 東京海上ホールディングス、MS&ADホールディングス、損保ジャパン日本興亜ホールディングス)が業界をリードする形になっている。
正味保険料収入の伸び
一般社団法人日本損害保険協会によると、2015年度における同協会加入26社の正味保険料収入(損害保険会社が保険契約者から受け取った保険料から、保険契約者に払い戻した解約返戻金、積立型保険の貯蓄部分の保険料を引き、さらに他社とやりとりした再保険料を足し引きした額のこと)は8兆3597億円で、前年度8兆831億円より3.4パーセント増えている。 このうち、自動車保険は3兆9987億円で、全体の半分近くを占めている。次に大きいのは1兆3375億円の火災保険で、2015年度は前年度(1兆2397億円)より7.9パーセントも伸びた。
今後の展望
直近の損害保険市場は拡大しているが、若者の自動車離れなどによって、業界の収益の柱である自動車保険のニーズが縮小することも懸念されている。 一方、近い将来、自動運転が実現するなど運転環境が変化することで、新たな自動車保険が生まれると期待する声もある。 また、第3分野の保険を強化して増収を目指す動きも盛んだ。
(3)損害保険業界のトピックス
介護分野への進出
損害保険会社が企業買収などを通じ、介護サービス事業に乗り出すケースが見られる。 その背景には高齢化が進んで介護業界が有望であることや、顧客に対して、自社で扱っている介護保険を紹介できるなどの相乗効果が望めることなどがある。
新たな自動車保険の開発・提供
自動車に搭載したセンサーによって運転者のデータを読み取り、急発進・急ブレーキの少ない運転者の自動車保険料を割り引くなどの仕組みを導入した新型商品の開発が進んでいる。
地震保険、ペット保険の拡大
一般社団法人日本損害保険協会によると、協会加入26社の2015年度における地震保険の正味保険料収入は1266億円。 前年度(1131億円)より11.9パーセント伸びた。 また、ペット保険は362億円で、前年度(297億円)より21.9パーセント伸びている。
異業種からの保険サービス参入
大手携帯電話キャリアが、損害保険サービスの分野に参入。 スマートフォンやパソコンなどを使って申し込みや保険金の請求ができるという手軽さが売りで、注目を集めている。 既存の損害保険会社にとって新たな競合と言えそうだ。
(4)ほかの業界とのつながり
自動車
自動車保険は、損害保険会社にとって大きな収益の柱だ。 今後、たとえば衝突被害軽減ブレーキなどの安全装置が普及して事故率が下がれば、自動車保険にも大きな影響が出ると予想されている。
IT(情報システム系)
インターネットを使ったダイレクト販売を伸ばすためには、IT領域の強化が重要。 また、自動車に搭載されたセンサーを活用した新型自動車保険などでもIT系企業と協力する機会が増えている。
介護・福祉
介護サービスに乗り出す損害保険会社が登場。 顧客である高齢者に介護保険などを提案するなど、相乗効果が期待されている。
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【監修】吉田賢哉(よしだ・けんや)さん
株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 上席主任研究員/シニアマネジャー
東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。新規事業やマーケティング、組織活性化など企業の成長を幅広く支援。従来の業界の区分が曖昧になり、変化が激しい時代の中で、ビジネスの今と将来を読むために、さまざまな情報の多角的・横断的な分析を実施。
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