損害保険業界とは、事故や災害といった故意でない損害の補償を提供している業界です。また、リスクマネジメントに役立つセミナーの実施など、事故を起こさないためのノウハウの提供も行っています。そんな損害保険業界の概要や、大手4社の特徴、業界の動向や今後の課題など、業界研究に役立つ情報をまとめました。

損害保険業界とは
損害保険業界とは、事故や災害といった故意でない損害の補償を提供している業界です。
具体的には、以下のような保険を取り扱っています。
損害保険とひと言に言っても、さまざまな種類があります。
代表的な損害保険を一部紹介します。
損害保険の種類
| 自動車 保険 | 自動車の運行によるリスクを補償する保険。 他人を負傷させるなどしたときに補償を行う対人賠償保険をはじめ、 事故の対象が他人の自動車や建物などの場合に適用される対物賠償保険、 運転手や同乗者のケガなどを補償する人身傷害保険、 自身が所有する自動車の損害を補償する車両保険など、さまざまな種類がある。 |
| 火災保険 | 火災をはじめ、風災・雪災・水災などの自然災害や盗難によって、建物や家財に生じた損害を補償する保険。 |
| 地震保険 | 地震や噴火、津波によって、建物や家財が損害を被ったときに保険金が支払われる保険。 火災保険とセットでの契約となる。 |
| 傷害保険 | 日常生活でのケガによって入通院した場合や、死亡した場合に保険金が支払われる保険。 |
| 旅行保険 | 旅行中の盗難被害や賠償事故、高額な医療費などを補償する保険。 |
| ペット 保険 | ペットの病気・ケガの際の治療費を補償する保険。 |
| 賠償責任 保険 | 日常生活や事業活動で他人にケガをさせたり、物をこわしたりなど、 法律上の損害賠償責任を負った際に、その損害を補償する保険。 日常生活を対象とした個人賠償責任保険と、 法人の事業活動を対象とした施設賠償責任保険や請負業者賠償責任保険などがある。 |
| 貨物保険 | 輸送中や保管中に発生する事故によって貨物に生じる損害を補償する保険。 |
| 建設保険 | 建設にかかわる事故や災害時の損害を補償する保険。 |
| サイバー 保険 | サイバー攻撃や情報漏えいなどのセキュリティ事故が発生した際の損害を補償する保険。 |
損害保険のほかにどんな保険がある?
損害保険は「事故や災害などによる損害を補償する保険」であり、損害保険会社だけが扱うことができます。保険にはほかにも「生命保険」や「第3分野保険」といった種類があり、補償(保障)範囲も異なるところが特徴です。それぞれの違いをまとめました。
■生命保険(第1分野保険)
人の病気や死亡に際して保険金が支払われる保険。代表的なものは、定期保険・終身保険・養老保険など。生命保険会社だけが取り扱うことができる。
■損害保険(第2分野保険)
交通事故、火災、地震、盗難などによって生じた損害を補償する保険。
自動車保険や火災保険、地震保険などが該当する。
■医療・介護関連の保険(第3分野保険)
生命保険と損害保険の中間に位置する保険で、病気やケガ、介護などに備える保険。
医療保険、がん保険、介護保険などが代表的。
※2001年に規制が緩和され、生命保険会社に加えて損害保険会社でも扱えるようになった。
損害保険業界の代表的な損害保険会社
日本国内には外資系を含む多くの損害保険会社がありますが、その中でも「東京海上日動火災保険株式会社」「損害保険ジャパン株式会社」「三井住友海上火災保険株式会社」「あいおいニッセイ同和損害保険株式会社」の4社が国内シェアの大半を占めています。それぞれの企業の特徴をまとめました。
東京海上日動火災保険株式会社
1879年に日本で初めて損害保険会社を設立した会社です。長年にわたって培われたブランド力と信頼を背景に、法人・個人を問わず幅広い保険商品を提供しています。
また、アジアや北米、欧州といった世界進出に力を入れているところも特徴の一つ。まだ保険事業の定着が進んでおらず、かつ人口が大幅に増えているアフリカなどへの進出も進めています。
損害保険ジャパン株式会社
SOMPOホールディングス傘下の損害保険会社です。日本初の火災保険会社として創業し、自動車保険や火災保険に強みがあります。近年は医療・介護といったサービスとの連携にも力を入れています。
三井住友海上火災保険株式会社
MS&ADインシュアランスグループの中核企業で、企業向け保険や国際物流分野に強みがあります。グループ企業である「あいおいニッセイ同和損害保険株式会社」との合併が予定されているなど、グループ内の再編も進んでおり、さらなる事業基盤の強化が期待されている企業です。
あいおいニッセイ同和損害保険株式会社
MS&ADインシュアランスグループの一員で、自動車保険分野に強みがあります。特にトヨタグループとの関係が深く、自動車ディーラー経由の販売やテレマティクス保険(車載機器などで収集した運転データを基に、運転特性に見合った保険料を算定する保険)の取り組みで知られています。地域活性化や地方創生にかかわるプロジェクトにも積極的です。
損害保険業界の主な職種
損害保険業界の勤務先には、保険商品の企画・販売を行う「損害保険会社」や、損害保険会社から委託を受けて保険商品を販売する「損害保険代理店」などがあります。損害保険業界の主な職種と仕事内容をまとめました。
営業
お客さまのリスクやニーズを把握し、最適な保険商品を提案する仕事です。クライアント先となる企業に営業を行う「法人営業」や、委託先である損害保険代理店に営業を行う「代理店営業」、個人のお客さまに自動車保険や火災保険などを提案する「個人営業」などがあります。
いずれの立場でも、お客さまの安心を支える提案力と信頼関係の構築が求められます。
損害サービス
保険金の支払いに関する業務を担う職種です。事故や災害が発生した際のサポートや、契約内容に基づいて保険金の支払い可否を判断する役目を担います。また、事故や災害の実例を数多く知っていることを生かして他部署と連携し、新しい保険商品の開発や、お客さまへのより良い保険提案にかかわることもあります。
商品開発
社会や顧客のニーズの変化に合わせて、新しい保険商品を企画・設計する仕事です。社内で保有するさまざまなデータを分析して、お客さまのニーズや事故の傾向を把握しながら、世の中のライフスタイルの変化もくみ取って、将来を見据えた商品を生み出すことが求められます。
バックオフィス
会社全体を支える事務・企画・人事・経理などの職種です。契約手続きや書類の管理といった日常業務に加え、システムの導入や業務効率化などの企画にも携わります。
損害保険業界の現状と今後の課題
損害保険業界は、思わぬ事故や災害といった「万が一」を支える業界として、安定的な成長を続けてきました。近年は、オンライン契約サービスの導入や、ライフスタイルの多様化に合わせた新しい保険商品の開発など、時代の変化に応じた取り組みも進んでいます。しかし、全体として安定した需要がある一方で、業界には次のような課題も見られます。
少子高齢化による市場の縮小
少子高齢化により、国内の契約件数の伸びが鈍化しています。新規契約の獲得が難しくなる中で、各社は海外事業の拡大や、ペット保険・サイバー保険といった新分野保険の提供を通して、収益の拡大を目指しています。
業界の体制の見直し
契約者情報の流出や、一部の企業による保険金の不正請求といった不祥事が続いたことを受けて、業界全体で信頼回復に向けた取り組みが進められています。法律や業界のルールをきちんと守り、監査機関も設けて透明性を高めるなど、顧客により安心感を与える体制づくりが求められているといえるでしょう。
自然災害の増加
気候変動の影響により、台風や豪雨などの自然災害が増加しています。大規模災害が発生すると、損害保険が支払うべき保険金が増えてしまい、財務を圧迫しかねない点が課題です。保険料水準の見直しなど、リスクを分散するための取り組みが急がれています。
損害保険業界の注目トピックス
最後に、損害保険業界に興味がある学生が知っておきたいトピックスを紹介します。
自動車保険依存からの脱却
損害保険の中で特に大きな収益を上げていた自動車保険ですが、昨今は自動車の保有台数が減っていることもあり、自動車保険のニーズの低下が懸念されています。このような情勢を受けて、損害保険業界は「事故が起きてからの対応」だけでなく、事故を未然に防ぐリスクマネジメントサービスも積極的に展開するようになりました。こうした取り組みによって契約者が安全運転を意識しやすくなり、結果的に事故や保険金の支払いを減らすことにもつながっています。
インシュアテックが注目を集める
インシュアテックとは、保険(Insurance)とテクノロジー(Technology)を掛け合わせた造語です。「テクノロジーを活用して保険サービスをより便利にする取り組み」のことで、以下のような保険商品が一例として挙げられます。
■テレマティクス保険…自動車保険の一種。運転者の運転の特徴をスマートフォンアプリや車載機器のデータから分析し、リスクに応じた保険料が算定される。
■P2P保険…P2Pとは「Peer to Peer(ピア・トゥ・ピア)」の略で、対等なモノや人同士がつながることを意味する言葉。P2P保険はインターネット上で少人数のグループをつくり、メンバー同士でお金を出し合って助け合う保険を指す。同じ趣味や職業の仲間同士がグループをつくり、特定のリスクに備えるといった形で利用されている。
まとめ
損害保険業界の概要や、業界の動向についてご紹介しました。
損害保険は「万が一の事故や災害に備える」ものですが、サイバー攻撃や気候変動など、人々を取り巻くリスクは時代とともに変化しています。習慣的にニュースなどをチェックすることで、損害保険業界の役割や世の中のニーズを、より具体的に把握しやすくなるでしょう。
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東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。新規事業やマーケティング、組織活性化など企業の成長を幅広く支援。従来の業界の区分が曖昧になり、変化が激しい時代の中で、ビジネスの今と将来を読むために、さまざまな情報の多角的・横断的な分析を実施。
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