預金・融資・為替といった銀行業務を通して、地域の金融を支えているのが地方銀行業界です。営業基盤である地域の活性化を目指して、地方創生にも積極的に取り組んでいます。そんな地方銀行業界の特徴や仕事内容、業界の現状やトピックスなど、業界研究に役立つ情報をまとめました。

地方銀行業界とは
地方銀行とは、特定の地域を中心に営業活動を行う銀行のことです。地元企業の成長を支えたり、顧客の企業同士を結び付けて新たな価値を生んだり、地元の個人顧客の資産形成をサポートしたりなど、地域経済の中で大きな役割を果たしています。
また、地方銀行の中には、地元企業の海外展開をサポートするため、東京都心部や海外に支店を設けている銀行もあります。基本的には地域に根差した金融事業を担う業界ですが、地元企業の海外進出支援など、グローバルな業務に携わるチャンスもある業界といえるでしょう。
「第一地銀」と「第二地銀」の違い
地方銀行には、「第一地方銀行」と「第二地方銀行」という2つの種類があります。第一地方銀行は、各都道府県内で特に規模の大きな地方銀行として、地域経済を支える役割を担ってきました。一方、第二地方銀行は、かつて中小企業向けの金融機関だった「相互銀行」が、普通銀行へ転換して生まれたものです。ただし現在は、いずれも普通銀行として同様の業務を行っており、実質的な違いはほとんどありません。
「地方銀行」と「メガバンク」の違い
銀行業界は大きく、全国規模で展開するメガバンクと、地域に根差して事業を行う地方銀行に分けられます。メガバンクが全国や海外の大企業を主要顧客としているのに対し、全国にある98行(2025年時点)の地方銀行は、地域の中小企業や個人を中心に取引を行っている点が特徴です。
メガバンクの代表例としては、以下が挙げられます。
- 株式会社三菱UFJ銀行
- 株式会社三井住友銀行
- 株式会社みずほ銀行
- 株式会社りそな銀行
地域によってはメガバンクと地方銀行が競合する場合もありますが、地方銀行は地域密着型の強みを生かして、メガバンクよりも小口の融資にも積極的に対応する傾向にあります。また、審査基準についても柔軟さを発揮したり、大事な取引先への大口の融資では時に低い金利を提示するといった取り組みで地元企業の事業成長を支えています。
地方銀行の業務内容
地方銀行は銀行の三大業務と言われる「預金」「融資」「為替」業務に加え、地域住民の資産形成のサポートや、地方創生にも取り組んでいます。それぞれの業務の特徴をまとめました。
銀行の三大業務
銀行の三大業務である「預金」「融資」「為替」は、すべての銀行が担っている基本的な業務です。地方銀行は特定の地域に根差した銀行であるため、顧客は地元の中小企業や個人が中心となります。
- 預金業務…個人や企業からお金を預かり、預金額に応じて利子を支払う。
- 融資業務…まとまった資金を必要としている企業や個人にお金を貸し出し、利子を受け取る。
- 為替業務…送金や振り込み、口座振替など、日常生活や企業活動に欠かせない決済サービスを提供する。
地域企業の支援
地元企業に対して、事業成長を支えるさまざまなサポートを提供します。例えば、スタートアップ企業の創業支援や、後継者探しをはじめとする事業承継支援、M&A(※1)のコンサルティング事業などが一例です。
単に「資金を貸す」だけでなく、地元企業が抱える経営課題の解決まで伴走することで、地域経済の活性化に貢献しています。
(※1企業の合併や買収によって、事業の拡大・再編を行うこと)
自治体との連携業務
地方銀行は、自治体と連携して地域の行政運営を支える役割も担っています。例えば、地域振興ファンドの運営や観光促進への関与、災害時の復旧支援などが挙げられます。中には、自治体のメインバンクである「指定金融機関」に選ばれ、地域の税金や公共料金の収納・支払いといった公金管理を担当している銀行もあります。
地方創生プロジェクト支援
自治体や地元企業と連携しながら、地方創生をサポートします。例えば静岡銀行は、製造業が盛んな静岡県の強みを伸ばすため、新進気鋭のスタートアップ企業と地元の有力企業のマッチングをサポートする大規模な商談会を実施。著名人によるトークセッションや基調講演も併せて開催し、地域の産業を担う方々に新たなビジネスチャンスや学びを提供しています。
また、岐阜県の十六銀行は地元の事業者と協力し、古民家の宿泊施設へのリノベーションをサポート。地元の歴史的資源を次世代に伝える観光事業を通して、地域の活性化に貢献しています。
なお、地方創生に取り組んでいる地方銀行は、ほかにも多くあります。自社HPで地方創生についてまとめている企業も多いので、銀行各社のHPをチェックしておくとよいでしょう。
地方銀行の主な職種
地方銀行には、法人・個人営業や窓口業務、エンジニアといったさまざまな職種があります。これらの職種の多くは銀行業界全体で共通するものですが、地方銀行は「地元に詳しい」という強みを生かして、地元企業や住民に寄り添ったサービスを提供しているところが特徴です。
また、金融業界の業務には専門知識が求められることから、入社後は証券外務員や銀行業務検定、FP(ファイナンシャル・プランナー)といった資格の取得を求められることも多いです。いずれのポジションにおいても、継続的な勉強が欠かせない業界であることは念頭に置いておくとよいでしょう。
地方銀行の主な職種と、それぞれの役割を紹介します。
窓口スタッフ:店舗での接客と取引サポート
来店顧客への口座開設、入出金、各種手続きの案内などを担当します。銀行の顔として、お客さまとの接点も多いポジションです。
個人向けお客さまアドバイザー:資産形成や相続などの相談対応
資産形成や相続手続きのアドバイスなど、顧客の「お金の悩み」に寄り添うポジションです。金融商品の成約にフォーカスするのではなく、長期的に信頼関係を深めていくことが重視されます。
個人営業:住宅ローンや資産運用の提案
個人のお客さまに対して、住宅ローンや教育資金、保険、投資信託などの金融商品を提案します。資産形成に役立つ商品の提案を通して、マイホームの購入や老後の安心感など、お客さまの望むライフプランを支えることができるポジションです。
法人営業:地元企業への融資・取引支援
地域の中小企業に融資提案を行い、企業の経営を支えます。地元企業と信頼関係を築きながら、資金繰りや事業計画の相談など、財務面をサポートする役割です。
法人向けコンサルタント:地域課題の解決支援
融資にとどまらず、事業承継やM&A、創業支援、販路・人材のマッチングなどを通じて、地元企業の経営課題を幅広くサポートします。資金面だけでなく、経営改善や事業成長の戦略立案まで踏み込み、企業と長く伴走していくポジションです。
エンジニア:デジタルサービスの企画・運用
スマホアプリやオンラインサービスの企画・運用、業務効率化システムの開発を担当します。FinTech(※2)やDX(※3)の推進役を担っています。
(※2金融とテクノロジーを融合させ、より便利で効率的なサービスを生み出す仕組み)
(※3デジタルトランスフォーメーションの略)
地方銀行業界の現状と今後の課題
地方銀行は、地域密着型の金融機関として地域経済を継続的に支えている業界です。2024年3月に日本銀行がマイナス金利政策を解除したことで、貸出金利と預金金利の差(利ざや)が改善し、収益が回復傾向にある地方銀行も見られます。
一方で、大きな課題として挙げられるのが、貸し出し需要の低下です。国内の人口そのものが減っていることや、地方の過疎化により、地域を基盤とする地方銀行の需要の低下が懸念されています。
このような現状を受けて、各地方銀行では地方創生プロジェクトや企業支援ファンド、新しい住民の誘致といった、地域を盛り上げる取り組みを積極的に進めています。並行して、ネットバンキングの対応や実店舗の削減、ITによる業務効率化など、経営コストの最適化に力を入れる銀行も珍しくありません。
今後も「地域の活性化」と「経営体制の最適化」に力を入れつつ、地方銀行ならではの得意領域をつくっていく姿勢が求められるでしょう。
地方銀行業界の注目トピックス
最後に、地方銀行業界に興味がある学生が知っておきたいトピックスを紹介します。
経営統合・再編の動き
少子高齢化や人口減少により、地方銀行は地域経済の停滞や、融資先の減少に直面しています。こうした中で、経営基盤を強化するために、地方銀行同士の統合・再編の動きが続いています。
また、経営コスト削減や業務効率化に向けて、金融システムの共同利用や共同運営といった取り組みも進行中です。例えば、複数の地方銀行が共通のIT基盤を使うことで、金融システムへの投資コストを抑える動きも広がっています。
金融×デジタル化の取り組み
地方銀行に限らず、多くの業界において人手不足が課題となっています。このような状況を受けて、少人数でも効率的に業務を行うためのDXを進める銀行も増加中です。具体的には、オンライン口座開設やキャッシュレス決済、AIを活用した融資審査の導入などが挙げられます。
また、地方銀行では取引先企業との情報共有を紙ベースで行っていることも珍しくありません。電子化による業務効率化に向けて、電子申請やデータ共有の仕組みを整える銀行も増えています。
これらのデジタル化は、単なる業務効率化にとどまらず、地域企業や住民とのつながりを強化する取り組みとしても注目されています。
まとめ
地方銀行業界は、地域経済を支える重要な役割を担いながら、地銀再編やデジタル化などの大きな転換期を迎えています。今後は、経営効率化やDXの推進を通じて、より持続的な成長を目指す動きが進んでいくでしょう。
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東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。新規事業やマーケティング、組織活性化など企業の成長を幅広く支援。従来の業界の区分が曖昧になり、変化が激しい時代の中で、ビジネスの今と将来を読むために、さまざまな情報の多角的・横断的な分析を実施。
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