食品業界の企業は、加工食品(菓子、乾燥めん、レトルト・冷凍食品、大豆製品、乳製品など)、清涼飲料水やアルコール類、また調味料や小麦粉などの食品原料などを製造し、小売店などを通じて消費者に販売している。
日本の食品メーカーの多くは、国内外から原料を買い付け、それを加工して食品を作っている。
ここ数年深刻になっているのが、海外からの輸入原料の価格高騰だが、2020年4月以降は、コロナ禍の影響により、さらなる影響が出るケースも生じている。
2013年のアベノミクス以降円安傾向が続いていることに加え、経済成長の続く新興国において、食品の需要が高まったことなどにより、世界的に食品の原料の買い付け競争が生じている。そのため、食品業界では、輸入原料の価格高騰傾向が続いており、さまざまな商品で値上げが実施されている。さらに、2020年以降のコロナ禍により世界各国で外出制限や行動規制などが実施されたことで、労働力が確保できず、原料の加工や流通に影響が出るケースも生じており、以前に比べ原料の入手が難しい状況が生じていることも、価格高騰の一因になっている。
輸入原料の価格が高騰した結果、企業は商品の値上げの検討を迫られているが、値上げによる顧客離れが懸念されるといった事情から、簡単には値上げを実施できず、食品業界の各社は利益を出しにくい状況に悩んでいる。
「食の安全性」を確保することも、重要な課題だ。食品は消費者の口に入るため、異物や危険な材料が紛れ込むと、企業の経営を揺るがす大問題に発展する危険性がある。日本国内の食の安全に対する意識は高まっており、各社は異物の混入を防ぐ仕組みを工場のラインに導入したり、原材料がどこで生産・加工され、どのような経路で流通したか追跡できる「トレーサビリティシステム」を採用したりして、安全性を高める努力をしている。
また、自社で畑を運営するなどして、安全で質の高い原料の確保を目指す企業もある。中には、自社製品の原料として使用するだけでなく、それらの原料を直接消費者に販売するケースも増えている。
このような価格と品質を含めた安定供給は、食品メーカーにとってカギとなる。
農林水産省の「令和3年度 食品産業動態調査」によれば、2019年の「食品製造業 製造品出荷額等」は36兆1599億円で、ほぼ前年並みとなった。しかし、2010年の30兆4280億円と比較すると、この10年間で約119%の水準へと拡大した。
また、総務省の「家計調査年報(家計収支編)2020年(令和2年)」を見ると、二人以上世帯の消費支出は実質5.3%の減少となっており、2年ぶりの減少となっているが、食料支出は実質1.7%の減少にとどまっている。外食・菓子類などが実質減少となった一方、肉類・酒類などが実質増加となっており、エンゲル係数(消費支出に占める食料費の割合)は27.5%で前年から1.8ポイントの上昇となった。
新型コロナウイルス感染症の流行拡大の中でも、食品業界はおおむね堅調であり、成長が続いている。しかし、長期的な視点では人口減少による市場縮小については懸念されている。
そこで、海外進出によって売り上げ拡大を目指す動きが増えている。特にターゲットとなっているのが、経済成長が著しいASEAN市場だ。これらの地域は味の好みが日本人に似ていて、日本製品が比較的受け入れられやすいとされる。すでにインスタントラーメンやしょうゆ、パン、乳酸菌飲料などを手がける企業が、これらの国に進出して市場を獲得している。今後も、海外の生産拠点や販売網を拡大する動きは盛んになるとみられる。
また、外国企業の買収を通じて、素早く現地展開をしようとする日本企業もある。日本の食品メーカーは、高い食品加工技術を持っている。加えて機能性食品を開発する力や、食の安全を守るための技術も高く、世界市場にも十分通用するはずと期待が寄せられる。
一方の国内市場では、上記のように市場の長期的な縮小傾向が懸念されるため、多様化する消費者ニーズをつかんで、新たな需要を掘り起こす取り組みが盛んだ。2015年4月から開始された機能性表示食品(「おなかの調子を整える」「脂肪の吸収を穏やかにする」など、保健に関する特定の目的が期待できる場合、その機能性を表示できる食品)制度を活用した新製品が続々と開発されており、健康に関心の高い消費者へのアピール手段として注目されている。
また、高齢者の単身世帯や共働き世帯の増加に対応し、使い勝手の良い容器を使用した商品や、調理しやすい商品も人気を集めている。
近年は地球環境への配慮の動きがますます高まり、SDGs(Sustainable Development Goals: 持続可能な開発目標)を実現するための企業の取り組みについても注目されている。そのため、食品ロスへの対応を重視する企業が増えてきている。
在庫管理の高度化などを通じて食品の廃棄を減らす試みや、廃棄せずに必要とする組織などに寄付するといった取り組みも進められており、消費者も一体となって取り組みを推進することが期待される。
また、「持続可能」をキーワードとする食品供給への取り組みなどにも関心が高まっている。その一例として、水産資源が挙げられる。昨今、世界的な需要拡大に伴い、将来的な枯渇が懸念されている水産資源に対し、生産者(漁業従事者)、流通・加工業者が連携しながら養殖を推進するなどして、安定的に食品供給が続けられるような体制を作っていくことが重要となっている。
コロナ禍の影響により、健康に気を使う人がますます増え、そのニーズに応えようと各社がしのぎを削っている。また、海外向け商品の開発には、これまでの国内市場では経験のない対応も求められている。
近年、健康に気を使う人が増え、体調を整えたりダイエットに効果が認められたりする食品に注目が集まっていたが、コロナ禍の影響でより健康需要が高まっている。これまでは特定の健康効果が期待できる「機能性表示食品」や「特定保健用食品(トクホ)」のジャンルでは、多彩な製品が開発され続けてきた。新型コロナウイルス感染症の流行以降は、免疫力を高めるような商品の開発に注力する企業なども出てきている。
日本食はおいしさに加えて、低カロリー・低脂肪であることも好評で、海外でも日本食ファンは増えている。そのため、日本酒、しょうゆ、みそ、豆腐といった日本特有の食品の輸出は増加している。今後は輸出だけでなく、これらの商品を現地で生産するケースも増えると期待されている。コロナ禍の影響で外国人観光客の入国規制が実施されるなど、インバウンド需要の回復が見込めない状況が続いているため、今後、ますます海外への輸出に注力していくことが予想される。
国内市場の縮小を見越し、各社は、同業他社との合併・業務提携によって生産性を高めようとする動きが見られる。例えば、異なる飲料メーカーが1台の自動販売機を共同利用するなどの取り組みが代表的だ。
食品メーカーが従来の卸や商社、小売店を通さず、インターネット通販(Electronic Commerce:電子商取引を略してECとも呼ばれる)によって消費者に直接販売する市場が拡大している。メーカーとしての役割に加えて、流通まで手がける動きとして注目が集まっている。コロナ禍における外出自粛や行動規制により、巣ごもり需要が拡大しているため、ネットスーパーなどの販路も拡大している傾向にある。
D2C(Direct to Consumer)とは、一般的には自社で企画・開発・ブランディングした商品を、中間事業者や小売事業者を介さずに、オンラインなどを中心に直接消費者に販売するビジネスモデルを指す。これまで食品D2Cのブランドを展開しているのはスタートアップ企業が中心だったが、大手食品メーカーや飲料メーカーなどでも、D2Cブランドの立ち上げや、オンライン専用商品の開発などに向かう動きを見せてきている。
商品流通経路が変化しつつあることや、DX(Digital Transformation:進化したデジタル技術を浸透させることで人々の生活をより良いものへと変革する取り組み)がさらに推進されていく将来を見据え、食品関連の企業も流通改革を迫られている。その一つのアプローチとして、自社ブランド商品を販売まで一貫して行うD2Cモデルへの注目が高まっている。
インターネット通販などで生産者から直接食品を購入する取り組みも増加している。2008年より実施されている「ふるさと納税(自分の選んだ自治体に寄付)を行った場合に、寄付額のうち2000円を超える部分について、所得税と住民税から原則として全額が控除される制度)」では、各自治体が地域の生産者と連携し、寄付に対する返礼品として名産品などを送る取り組みを行っている。
食品メーカーにとって、自社製品を販売するスーパーマーケットは重要なパートナー。ただし、スーパーマーケットやコンビニエンスストアのPB(プライベートブランド)商品は、食品メーカーにとって強力なライバルでもある。
小麦やバター、肉、魚などの原材料は、総合商社に委託して輸入することが少なくない。また、食品会社が海外市場に進出する際に、総合商社に協力を仰ぐケースもある。
国内市場における食品の流通は、「食品卸」と呼ばれる専門商社が担っている。食品卸と同じ企業グループに属し、緊密な関係にある食品メーカーもある。
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【監修】吉田賢哉(よしだ・けんや)さん
株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 上席主任研究員/シニアマネジャー
東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。新規事業やマーケティング、組織活性化など企業の成長を幅広く支援。従来の業界の区分が曖昧になり、変化が激しい時代の中で、ビジネスの今と将来を読むために、さまざまな情報の多角的・横断的な分析を実施。
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※記事制作時の業界状況を基にしています
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※1 2024年3月6日時点のリクナビ2024の掲載情報に基づいた各企業直近集計データを元に算出