医薬品業界とは、人々の命と健康を守る医薬品の研究開発・製造・流通を担っている業界です。医薬品業界についての概要や仕事内容、業界の現状や課題など、就活準備に向けて知っておきたい基礎知識をまとめました。
医薬品業界とは
医薬品業界とは、人々の健康や命を守るために欠かせない医薬品を研究・開発・製造・販売している業界です。医薬品を開発する医薬品メーカーや、医薬品を病院などに卸す医薬品卸会社、新薬の開発・製造・販売をサポートする企業(CRO/CMO/CSO/CDMO)などから成り立っています。
日本の医薬品市場は世界有数の規模を持ち、国内の高齢化に伴って医療需要も拡大しています。新薬開発ではグローバル市場をターゲットとした取り組みが進められており、開発に成功すれば大きな成果が期待できるため、海外企業とのM&Aを通じて競争力を高めようとする日本企業もあります。このような状況から、今後も一定の需要が見込める業界といえますが、国内での医療費抑制の動きや、新薬開発における海外企業との競争激化などについては、注視していく必要があります。
医薬品の分類
医薬品は、医師が処方する「医療用医薬品」と、医師の処方箋なしで購入できる「一般用医薬品」に分けられます。市場の大部分を占めているのは処方箋が必要な「医療用医薬品」で、次の2つのタイプに分けることができます。
■先発医薬品…今までになかった薬効成分を持つ医薬品のこと。「新薬」とも呼ばれる
■ジェネリック医薬品…先発医薬品の特許が切れた後に製造される薬。「後発医薬品」とも呼ばれる
上記の中で業界の大きな収益源となっているのは、新薬である先発医薬品です。特に、全世界で年間10億ドル以上の売り上げを狙える画期的な新薬(ブロックバスター)を開発できれば、企業の業績を大きく伸ばすことができます。新薬開発には長い年月と莫大(ばくだい)な投資が必要となりますが、医薬品メーカーにとって今後も欠かせない収益源といえるでしょう。
医薬品業界の仕組み
医薬品は、医薬品メーカー→医薬品卸会社→医療機関・薬局という流れで市場に流通しています。また、CRO・CMO・CSO・CDMOといった受託企業が、医薬品の研究開発から製造・販売に至る各段階を外部から支えているところが特徴です。それぞれの企業の役割をまとめました。

医薬品メーカー
医薬品メーカーは、医薬品の研究開発から製造・販売までを担う企業です。主に新薬の開発を主軸とする研究開発型メーカーと、特許が切れた薬を安価に提供するジェネリックメーカーの2タイプに分かれます。
代表的な企業としては、以下が挙げられます。
■研究開発型メーカー
- 武田薬品工業株式会社
- アステラス製薬株式会社
- 第一三共株式会社
■ジェネリックメーカー
- 沢井製薬株式会社
- 東和薬品株式会社
- 日医工株式会社
医薬品卸会社
医薬品メーカーから仕入れた医薬品を物流センターで仕分けた上で、病院や薬局に供給します。医薬品は適切な温度や衛生状態の下で管理しなければならないため、物流・在庫管理の専門的なノウハウが求められます。
代表的な企業としては、以下が挙げられます。
- 株式会社メディパルホールディングス
- アルフレッサホールディングス株式会社
- 株式会社スズケン
- 東邦薬品株式会社
薬局・ドラッグストア
薬局は、医師の処方箋に基づいて医薬品を提供し、服薬指導などのサポートも行っている店舗です。ドラッグストアは、処方箋がなくても購入できる一般用医薬品を中心に販売しており、人々の日常的な健康管理を支えています。
代表的な企業としては、以下が挙げられます。
■薬局
- クオール株式会社
- 株式会社アインホールディングス
■ドラッグストア
- 株式会社マツキヨココカラ&カンパニー
- 株式会社ツルハホールディングス
CRO・CMO・CSO・CDMO
医薬品メーカーの外部パートナーとして、新薬の開発・製造・販売を支える受託機関です。
主要な疾患向けの薬開発は、長年さまざまな取り組みがなされてきた経緯があることから、近年は新薬を開発するハードルはますます高まっています。各受託機関は新薬の開発や営業といった専門性を生かして、医薬品メーカーのスピーディーかつ効率的な新薬開発を支えています。
■CRO(医薬品開発業務受託機関):臨床試験や治験データの収集・解析を担う
■CMO(医薬品製造受託機関):医薬品やバイオ製剤の製造を請け負う
■CSO(医薬品販売業務受託機関):医薬品の営業・マーケティング分野をサポートする
■CDMO(医薬品開発製造受託機関):医薬品の開発~製造を受託する
代表的な企業としては、以下が挙げられます。
- EPSホールディングス株式会社
- シミックホールディングス株式会社
医薬品業界の主な職種
医薬品業界の大きなやりがいは、日々の業務を通して、人々の健康をサポートできるところです。業界で働く主な職種の特徴をまとめました。
研究職
医薬品メーカーなどで、新薬の研究を行うポジションです。新たな薬効を持つ成分を探すための「基礎研究」や、薬効のありそうな成分を実際の医薬品として使えるようにする「応用研究」などを担います。
開発職
研究職が確立した新薬の臨床試験を進めるポジションです。人を対象とした臨床試験(治験)を設計して安全性を確かめたり、仮説通りの効能を得られるかどうかをチェックしたりします。
生産・品質管理職
製薬工場で、生産ラインの管理や品質の確認を担当します。医薬品はわずかな条件の違いでも品質に影響が出るため、生産ラインを安定させる管理能力や、薬機法をはじめとした関連規制への理解が求められます。
MR(医薬情報担当者)
病院などの医療機関を訪問し、自社の医薬品を医療現場で適切に使ってもらえるように情報提供を行うポジションです。現場で医薬品の効果をヒアリングし、医薬品メーカーに持ち帰る役目も担っています。
管理薬剤師
薬局や医薬品関連施設において、医薬品の管理全般に責任を持つ薬剤師です。医薬品の品質管理のほか、現場の薬剤師の指導や、医薬品使用者へのアドバイスも担います。
医薬品業界の現状と今後の課題
日本の医薬品市場は世界有数の規模があり、今後も一定の需要が見込まれる市場です。ただし、高齢化が進む中で、医療費の抑制や薬価見直しの動きが強まっており、長期的には人口減少などによって国内の市場規模はゆるやかに縮む可能性があります。そのため、各医薬品メーカーは国内だけでなく、海外市場への参入を目指す動きを強めています。
一方で、医薬品の海外展開にはいくつかの壁があります。まず、国ごとに薬の規制制度が異なるため、各国であらためて承認を得る必要があります。日本人を対象に行った治験結果がそのまま海外に当てはまるとは限らないため、薬効や安全性について、都度確認し直すことも大切です。今後、海外展開をより強化していくに当たって、海外市場に対応できる組織づくりも求められていくでしょう。
ほかには、次のような課題が挙げられます。
課題1:早急なDX化
医薬品業界では、新薬の研究開発やマーケティング、臨床データの活用など、さまざまな場面でデジタル技術を活用しています。一方で、今後もグローバル市場で競争力を高めていくにはさらなるDX化の推進も欠かせないため、各社では業務プロセスの見直しや、デジタル分野に強い人材の育成を進めています。
課題2:研究開発の高リスク構造
新薬開発には10年単位の時間と巨額の投資が必要ですが、成功率は決して高くありません。現代ではすでにさまざまな治療薬が出回っており、新薬が求められる領域の疾患は難病とされるものが多いため、薬の開発リスクはさらに高まる傾向にあります。
このような状況を受けて、医薬品業界では「AIを使って創薬を効率化しよう」という動きが活発になっています。大学やスタートアップ企業などと連携して新薬開発を行う“オープンイノベーション”という取り組みも広まっており、今後も研究開発の効率化が進められていくことが予想されます。
課題3:医療費抑制政策と供給体制
医薬品の販売価格は、政府が定める「薬価」を基準に決められています。薬価は国の方針で定期的に見直されるため、薬価改定の内容によっては収益が大きく変動するリスクがあります。
また、近年は一部のジェネリック医薬品で、供給不足が課題となる場面もあります。こうした背景から、医薬品を安全かつ安定的に届けるための体制づくりが、業界全体であらためて重視されています。
医薬品業界の最新トピックス
最後に、医薬品業界に興味がある学生が知っておきたいテーマを2つご紹介します。
バイオ医薬品の成長
バイオ医薬品とは、遺伝子組み換え技術や細胞培養技術などを応用し、細胞や微生物といった生物の力を用いて作られる医薬品のことです。従来の化学合成医薬品では治療が難しかった疾患にも効果が期待されており、世界的に市場が拡大しています。日本企業も研究開発を強化していることから、今後はバイオ技術に詳しい人材や、生産に必要な設備の充実が業界の成長に大きくかかわっていくとみられています。
医療DXの推進
昨今の医薬品メーカーは医薬品の提供にとどまらず、服薬管理アプリや遠隔診療サービスといった、デジタルヘルス領域にも事業を広げています。今後は製薬に加えて、医療全体を支える「ソリューション企業」へと役割が広がっていくことが期待されています。
まとめ
医薬品業界の概要や仕事内容、業界の現状や課題など、就活準備に向けて知っておきたい基礎知識をご紹介しました。近年の医薬品業界は新薬開発だけでなく、デジタルヘルスなどの新しい領域にも挑戦しています。日ごろから各医薬品メーカーのニュースなどをチェックすることで、より業界への理解を深めやすくなるでしょう。
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東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。新規事業やマーケティング、組織活性化など企業の成長を幅広く支援。従来の業界の区分が曖昧になり、変化が激しい時代の中で、ビジネスの今と将来を読むために、さまざまな情報の多角的・横断的な分析を実施。
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