就活を始めると、今まで知らなかった中小企業に出会うこともあるでしょう。中小企業で働くのってどうなんだろう?と気になる人もいるのでは? 人事として新卒採用を20年担当してきた採用のプロ・曽和利光さんに、中小企業で働くメリット・デメリット、そして選び方について詳しく教えていただきました。
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中小企業基本法では中小企業を図のように、資本金・出資の総額と常時使用する従業員の数で定義しています。
出典:中小企業庁ホームページより
また中小企業関連立法においては、政令により以下を中小企業とする場合があります。
・ゴム製品製造業(一部を除く)は、資本金3億円以下。または、従業員900人以下
・旅館業は、資本金5000万円以下。または、従業員200人以下
・ソフトウェア業・情報処理サービス業は、資本金3億円以下。または、従業員300人以下
資本金や出資の総額、従業員数が上記以外の場合は、大手企業と呼ばれます。大手企業の定義は、法律などで決められた明確なものはありません。
大手企業、中小企業はそれぞれに魅力がありますが、大まかには「大手企業のメリットは中小企業のデメリット、中小企業のメリットは大手企業のデメリット」と捉えることができます。 そこで、中小企業の特徴を3つ紹介し、それぞれのメリット・デメリットについて解説します。
・メリット:若くして責任者を任される可能性が高い
大手企業に比べると人材リソースが少ないので、若くして裁量権を与えられ、責任ある役職に抜てきされるチャンスがあります。若手のうちから仕事の幅を広げたい、多くのことを経験したいと考えている人にはいいかもしれません。
・デメリット:責任の範囲が広い、「予算不足でできない」という場面が多い
一人当たりの守備範囲が広いということは、それだけ責任の範囲も広いということ。例えば、一人の社員が営業とマーケティングの両方を行っている、なんて場合もしばしば。「広範囲において一定以上の知識を持っていなければならない」大変さがあります。 また、人材リソースだけでなく「金銭的リソース」も大手企業に比べれば潤沢とは言えないので、「やりたいことがあるのに予算不足でできない」という壁にぶつかることもあるでしょう。
・メリット:仕事の全体像をつかみやすい
大手企業は、営業なら営業のみ、企画なら企画のみを担当するなど、業務が分業化されていることが多いのに対して、中小企業は人数が少ないため一人の人が多くのことを担当します。 例えば人事の場合、大手企業ならば採用担当、教育担当、労務担当などと分かれていますが、中小企業ならば一人の人が採用も教育も労務も行いますし、それどころか総務や広報まで担当しているケースもたくさんあります。仕事の全体感をつかみ、結果を受け止めながら仕事をするのは、能力開発においてはプラスです。
・デメリット:専門知識や経験を積むのが難しい
例えば、「大手企業の人事部で採用だけを担当している」場合、応募者数も採用数も多いため、1年に何百という面接をこなす必要があります。当然、短期間で面接スキルはぐんと上がるでしょう。 一方で、「中小企業の人事担当としてすべてを見ている」場合、採用だけを切り取ると応募者数も採用数も少ないため、10年たっても面接スキルは後れを取ってしまう可能性があります。
・メリット:配属希望が通りやすい
多くの中小企業では、入社前に大体配属先が見えています。入社したらどの部署に配属になり、誰が上司になるかまで、選考過程で把握できる可能性が高く、「入社したら希望以外の部署に決まってびっくり」なんてリスクはほぼないと言えます。
・デメリット:仕事や上司が合わなくても「逃げ場」がない
たとえ配属先の仕事がどうしても苦手でも、上司とどうしても合わなくても、ほかの部署に移れる可能性は低いでしょう。大手企業であれば、ほかの部署に異動という可能性もありますが、採用時に配属先がほぼ決まっているということは、ほかの部署はすでに人材が充足しているからです。もし希望がかなって異動できたとしても、どこに行こうが「苦手な上司」の顔が見える位置であるはず…。逃げ場のなさを感じることもあるかもしれません。
では、どのように自分に合う中小企業を見つければいいのでしょうか。 日本は中小企業の数が多く、従業員300人以下の中小企業が全体の99パーセントを占めています。一方、大手企業に比べると露出している情報量は少なく、自分に合う一社を探し出すのはなかなか難しいものです。 そこで、私がオススメしたいのは以下のような方法です。
まずはリクナビなどの就職情報サイトで、「自由な社風」「若くして抜てき」「女性が活躍」など、自分が大事にしたいワードで検索してみましょう。その上で、掲載されている写真の雰囲気やキャッチコピーなどを見ながら、目に留まったものをチェックしていきましょう。
また、仕事とは関係ないキーワードで検索してみるのも一案。例えば、「キャンプ」「アニメ」「サッカー」など、あなたの気になるキーワードを入れてみてください。それがきっかけで、興味の持てる企業と出会えるかもしれません。
そこから一社一社を掘り下げて見ていく上で、必ず行ってほしいのは、「数字で確認する」こと。例えば「若くして抜てきされる」と書いてあるのに、その会社の平均年齢が45歳だったら、その会社の「若い」の基準と、自身が思っている基準がずれている恐れがあります。「女性が活躍」している職場がいいならば、女性の役職者数や、産休・育休取得率と職場復帰率を押さえておくべき。「女性の活躍を応援」なんて書いてあっても、実際は育休からの復帰者はゼロだった…なんてケースも実在します。
なお、離職率は開示していない企業が多いですが、毎年の採用者数と、従業員数の推移から測ることができます。毎年10人の新卒を採っているはずなのに、従業員数があまり増えていないならば「採用してもほとんどの人が辞めている」と推察できます。
これらの数字は、リクナビの各企業ページや、企業のホームページなどに載っている場合が多いのでチェックしておくこと。載っていない場合は、会社説明会や面接の場で確認するといいでしょう。
中小企業の場合は特に、「言っていることよりもやっていること」を確認することが大切です。
ホームページに載っている「社長が語る企業理念」に共感する学生は多いですが、理念よりも現場の声を聞く方が重要だと私は思います。というのも、社員が少ない中小企業は、掲げている理念よりも現場で浸透している考え方、言葉などから社風が読み取れるからです。
そこで、気になる会社が見つかったら、先輩社員に会ってみて話を聞きましょう。 大手企業の場合、部署がたくさんあって数人に会ってもその会社の社風はなかなかわかりにくいですが、中小企業の場合は数人に会えば、その会社の雰囲気が見えてくることでしょう。すると、自分に合う・合わないの判断もつきやすくなると思います。
リクナビの各企業ページや、企業のホームページなどで確認できなかった「数字」は、会社説明会や面接の場で直接確認しましょう。
女性の活躍が気になるならば、ずばり役職者の数や、育休から復職した社員数を聞いてみても構いません。「自分も出産しても働きたいから」と添えれば、意欲と前向きさが伝わります。該当する社員がいるならば「差し支えなければぜひご本人に話を聞きたい」とお願いするのもいいでしょう。
風通しがよく自由に意見が言える社風か?など、数字からは読み取りづらい「定性面」が気になるならば、会社説明会の雰囲気や社員同士の会話をチェックしてみましょう。若手社員がのびのびと働いているようであればいいのですが、先輩や上司の命令に振り回されてアタフタしていたり、上司に対してガチガチの敬語を使っていたりしたら、あまり自由な社風とは言えないかもしれません。
中小企業の中には、ニッチな分野で高いシェアを誇っている企業、高い技術力を誇る知る人ぞ知る企業、地元密着経営で安定的に業績を伸ばしている企業など、魅力的な企業がたくさんあります。しかしながら、知名度の低さなどから人が集まりにくく、総じて人材難に苦しんでいます。
だからこそ、応募者一人ひとりに対する期待感は相対的に高く、「大勢の中の一人」ではなく、一人ひとりの個性や強みをしっかり見て判断してくれる企業が多いのが特徴。仕事に対する熱意や希望を伝えられるチャンスも大きいと言えます。
前述のように、任される仕事の範囲は広く、ポジションを得やすいのが中小企業のメリット。「専門性」という面を補うため、ある程度は自力で勉強し自分を高め続ける必要性はあるでしょうが、中小企業のデメリットを把握し、それを埋める努力をすれば、きっと社会人として大きく成長できることでしょう。今まで大手企業ばかり見ていた人は、これを機にぜひ中小企業も視野に入れてみてください。思わぬ一社に出会えるかもしれませんよ。
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【監修】曽和利光さん
株式会社人材研究所・代表取締役社長。1995年、京都大学教育学部教育心理学科卒業後、リクルートで人事コンサルタント、採用グループのゼネラルマネージャーなどを経験。その後、ライフネット生命、オープンハウスで人事部門責任者を務める。2011年に人事・採用コンサルティングや教育研修などを手掛ける人材研究所を設立。『「ネットワーク採用」とは何か』(労務行政)、『人事と採用のセオリー 成長企業に共通する組織運営の原理と原則』(ソシム)など著書多数。最新刊に『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)がある。
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