商学部の卒業生が新卒時に就職した業界、配属された部署を紹介し、志望業界・職種の決め方などを解説。専門を生かすかどうか、企業が商学部の学生に期待していること、生かせる強みなど、商学部ならではの就活のポイントを、人事として新卒採用を20年担当してきた採用のプロが社会人の先輩へのアンケート結果と共に解説します。
商学部の先輩たちが就職した業界を、アンケート結果を基に紹介し、新卒ならではの「志望業界の決め方」も併せて解説します。
商学部を卒業した社会人200人に対して、「新卒で就職した企業・団体の業界」をリクナビが独自にアンケート調査したところ、商学部が新卒で最も多く就職したのは1位「メーカー業界」(25.0%)という結果になりました。
次いで2位「サービス業界」(18.5%)、3位「IT・ソフトウェア・情報処理業界」(16.5%)となっています。
メーカー業界やサービス業界が割合としては高いものの、全体を見ると、商学部の卒業生はさまざまな業界で幅広く活躍していることがわかります。
Q 新卒で就職した企業・団体の業界に最も近い業界を教えてください(n=200、単一回答)
就活で志望業界を決める場合は、「できること」「やりたいこと」の2つの側面から考えてみましょう。「商学部だから〇〇業界」などと固定概念にとらわれずに、まずは幅広い業界の中から考えてみることをオススメします。
自分ができることから志望業界を探す場合は、自分の能力・性格・価値観がフィットする業界を探してみると良いでしょう。
例えば、採用ページや募集要項などに書かれている「求める人物像」が自分と似ているか、求められていることを苦なくできそうかなどを考えてみましょう。
ほかにも、ホランドの職業適性タイプ理論(RIASEC)などの職務適性理論を参考にして、「自分の性格に合っている可能性がある仕事」から業界を探してみるのも良いでしょう。
例えばホランドの職業適性タイプ理論は、同じ職業に就いている人々は類似したパーソナリティー特性を示すことが多く、環境とパーソナリティーは相互作用しているという考え方を基に、パーソナリティーと働く環境を以下の図のように6つに分類したもの。自分がどのタイプに当てはまるかを考えることで、自分の特性を生かしやすい職業領域を考えるヒントにもなるでしょう。
参考)ホランドの職業適性タイプ理論について
厚生労働省による配布資料「平成27年度 大学等におけるキャリア教育実践講座 参考資料」より
自分がやりたいことから志望業界を探す場合は、リクナビなどの就職情報サイトで、思いついた単語を入れて検索する「キーワード検索」を活用してみましょう。
例えば、ワインが好きなら「ワイン」とキーワード検索をしてみると、飲料メーカーだけではなく、専門商社やワインを自社で直輸入している小売店や外食産業などさまざまな業界がヒットするでしょう。こういった偶然の発見から、視野を広げてそれぞれの業界について詳しく調べていくことをオススメしています。
商学部の先輩たちが就職後に配属された職種を、アンケート結果を基に紹介し、新卒ならではの「希望職種の決め方」も併せて解説します。
リクナビが「商学部の就職先」調査を200人に対して行った結果、商学部を卒業した人が新卒で配属された職種のうち、最も多かったのは同率1位で「営業系職種」「事務系職種」(28.5%)となりました。次いで 3位が「販売系職種」(16.5%)となっています。
Q 新卒で就職した企業・団体で、入社後に配属された部署に最も近いものを教えてください(n=200、単一回答)
新卒採用の場合は、「商学部だから〇〇職」などと固定概念にとらわれる必要はないでしょう。ただし、入社後にどんなキャリアパスがあるかは確認しておくことが大切です。また、職種別採用に応募する場合も、企業のカルチャーと自分がフィットするかは確認しましょう。
近年は、選考の段階で配属先の職種を決める「職種別採用」も増えてきていますが、新卒採用においては職種を定めず総合職などに応募するケースも多いでしょう。多くの企業では、入社後に適性や成果、希望などによって部署異動するチャンスがあるので、新卒で就職する際には、職種にこだわりすぎなくても良いしょう。
「商学部からマーケティング職」などのように、固定観念で職種を選ぶ必要もありません。
ただし、研究職など一部の専門性が高い職種に対しては、大学院の修士・博士課程修了者しか採用していないケースもあります。企業研究時に、希望するキャリアパスがあるかを確認するようにしましょう。
また、職種別採用の場合でも、新卒採用では企業とのカルチャーフィットを重視する傾向にあります。例えば同じマーケティング職であっても、企業によって「攻めのマーケティングや企画ができる人」「過去の実績に基づいた堅実な企画ができる人」など求める人物像が異なります。
希望職種を決めて就活する場合も、「この職種で働けるならどこの企業でもいい」と考えるのではなく、企業ごとのカルチャーも確認することが大切です。
商学部の専門性を生かして就職するかどうかを考えるために、「専門性を生かして就職した先輩たちの割合と就職先」「専門性を生かして就職したい人向けの業界・職種」を紹介します。
リクナビが「商学部の就職先」調査を200人に対して行ったところ、新卒で就職した際に商学部の専門性を生かして就職したと考えている人は、全体の約4割(41.0%)でした。
商学部の卒業生の半数以上は、新卒は専門性を生かさずに就職しているようです。
Q. 新卒で就職した際、商学部の専門性を生かして就職したと思いますか(n=200、単一回答)
アンケートの結果でもわかる通り、新卒で就職するときには、商学部の専門性を無理に生かそうとする必要はないでしょう。
新卒採用を行う企業の多くは、大学での経験にかかわらず、入社後に自社で必要な教育を提供して人材を育成しようとしています。さらに現在の就活市場は、企業が求める人材の数に対して、就職希望者の数が少ない状況です。そのため企業も、新卒者に対して専門性や実績などはあまり求めないケースの方が多いでしょう。
アンケートの結果、「新卒で就職した際、商学部の専門性を生かして就職した」と考えている先輩たちの就職先業界は、メーカー業界、サービス業界、インフラ業界、公社・官庁業界 、商社業界、銀行・証券・保険・金融業界、情報(広告・通信・マスコミ)業界、百貨店・専門店・流通・小売業界、IT・ソフトウェア・情報処理業界など多岐にわたっていました。
配属された部署も事務系・営業系・販売系・IT系・技術系・専門系と幅広い回答が得られました。
ここでは、先輩たちが「就職先・配属先に対して、専門性を生かして就職したと考えている理由」をいくつか紹介します。
【地方銀行業界に就職して、稟議(りんぎ)書の作成に従事】
決算書など会社の数字を見る機会が多かったため。
【金融業界に就職して、窓口営業に従事】
金融で欠かせない資格を取っていたため。
【電機メーカーに就職して、生産管理業務に従事】
マネジメントの知識を生かせるから。
【自動車業界に就職して、システム部での業務に従事】
仕事内容と学んだことが似ているから。
【流通業界に就職して、物流に従事】
一般的な経済の流れが理解できていたから。
商学部の専門性を生かして就職したい人は、自分が興味を持って身につけた知識・スキルで活躍できる業界を目指してみましょう。商学部で学んだ内容を生かせる業種・職種であれば、選考の際に評価されやすいのも特徴です。
ここでは人事・採用コンサルティングを行う人材研究所の曽和利光さんに、専門性を生かしやすい業界、職種の例を挙げてもらいました。
ここでは商学部での学生生活を通して得られやすい強みや、商学部の学生に対して企業が期待していることの例を3つ紹介します。
商学部生の強みとしてまず挙げられるのは、ビジネスにかかわる幅広い分野の知識があることでしょう。
商学部はビジネスに関するあらゆる専門知識を身につけられる学部であり、経営学・会計学・経済学などを勉強できます。その中でも「マネジメントや経営戦略」「財務会計や簿記」「ミクロ経済やマクロ経済」などは、金融や保険、ITなどさまざま業界で生かせるでしょう。
商学部で学ぶ、市場調査や商品開発、販売促進、広告などのマーケティング知識は、企業がニーズに合った商品やサービスを顧客に届けるためには必須の知識です。メーカーはもちろんのこと、そのほかの業界でも必要とされるでしょう。
また、WebサイトやSNSの運用でもマーケティングの知識を生かせるため、幅広い職種での活躍が期待できます。
商学部では、学んだことを基に、ビジネスに関連する資格を取得しやすいのも強みと言えるでしょう。
例えば、簿記や資産管理など、商学部での学びをそのまま生かして資格取得に挑戦できるものもあります。日商簿記やファイナンシャル・プランナー(FP)など私生活でも役立つ資格のほか、国家資格の公認会計士、税理士、社会保険労務士など、より就職の幅が広がる資格の取得に挑戦してみるのもオススメです。
また、入社後に生かせる資格の場合は、履歴書の資格欄に書くことで、就活においても大きな強みになるでしょう。
ここでは、商学部ならではの就活のポイントを5つ紹介します。
商学部生が就活をするときは、政府が主導する一般的な就活スケジュールに加えて、企業独自の選考スケジュールもチェックするようにしましょう。
外資系コンサル企業や、外資系金融企業、ベンチャー企業などの中には、独自のスケジュールで採用選考を進める企業もあります。過去の選考・開催時期やエントリーシートの受け付け時期などを調べ、カレンダーにメモをしておくと良いでしょう。
<一般的な就活スケジュール(政府が主導する現行ルール)>
商学部でのビジネス知識に加えて、インターンシップなどで就業体験してみることで、ビジネス感覚を養っておくと、就活ではより評価されやすくなるでしょう。
就業体験ができるインターンシップ等のキャリア形成支援プログラムに参加したり、ベンチャー企業で営業としてアルバイトをして結果を出したり、メンバーを引っ張ってマネジメントの経験を積んだりしておくのがオススメです。
商学部では、ゼミなどでデータを集めて統計学を生かした研究をしたり、会計の授業で簿記や財務諸表を読み解いたりなど、数字やデータに接する機会は多いでしょう。
こうした経験を基に、数字やデータに対する強さを磨いておくと、就活でアピールできるのはもちろんのこと、社会人になった後にも仕事で活躍しやすくなるでしょう。
営業系職種を希望する場合は、在学中に販売や接客などに携わるアルバイトを経験してみると良い経験になるでしょう。例えば、セールスの力が必要なアルバイトなどで、顧客獲得のためのアイデアを出して実績を残した経験などは、就活においても商学部らしいエピソードになるはずです。
就活における必須事項ではありませんが、商学部生が取得しやすい資格には、実際のビジネスで活用できるものがたくさんあります。ほかの学部生や、商学部生の中での差別化のためにも、時間があればビジネス系の資格を取得してみるのも良いでしょう。
特に、中小企業診断士や、公認会計士など、数年単位での勉強が必要になるくらいの難関資格は、企業へのアピール材料の一つになります。
ただし、資格がないと就活で不利になるというわけではありません。多くの企業は、新卒就活では「性格・能力・価値観」を重視しているため、ビジネス系の資格を持っていなくても問題はありません。
商学部の就職についてよくある疑問にお答えします。
企業の組織戦略や事業戦略など、「ビジネス」にまつわることを学んでいる商学部のニーズは高く、企業が学生に対してスカウトを行うターゲティング型採用では、経済学部と共に商学部の学生を採用したいと考える企業も多いようです。
就活における初期段階で、企業からの働きかけがあるという意味で、「商学部は就活では比較的有利」と言えるでしょう。
商学部の就活に役立つ資格としては、以下の12個が挙げられるでしょう。
商学部の資格といえば「日商簿記検定試験」と考える企業も少なくありません。特に2級以上は就活の選考でも評価されやすいため、時間に余裕があれば取得をしておくのも良いでしょう。また、金融業界を志望する人は「証券外務員」や「証券アナリスト認定資格」を取得しておくと選考で有利になるかもしれません。
商社やメーカー、運送会社など物流かかわる業界を目指す場合は、「通関士」もオススメです。
公務員試験と民間企業への就活は、併願可能です。応募種別にもよりますが、公務員試験の合格発表はおおむね5月〜8月です。試験に合格するかどうかわからない状況下で、民間企業への就活を進める学生も少なくありません。
なお、応募者が公務員試験と併願していると判明した場合、企業の採用担当者は「試験に受かったら内定辞退して公務員になるだろうな」と考えることが多いでしょう。近年は、予定していた人数を採用できない企業も少なくないため、辞退しそうな学生に対して人事が内定を出すことをためらうケースも考えられます。
就活の選考で不利になる可能性もあるので、公務員試験と併願していることを、企業にわざわざ言う必要はないでしょう。公務員試験を受けているか、受かった場合にはどうするのかを問われた場合は、ほんの少しでも迷いがあるのならば「決めかねています」というような回答にとどめておくと良いでしょう。
「リクナビ」ではインターンシップ&キャリアを検索したり、就活スケジュールのほか、就活準備に関するノウハウ記事をチェックしたりすることができます。学生時代の過ごし方を考える際、就活に関する情報も確認してみましょう。
【調査概要】
調査期間:2024年9月18日~9月24日
調査サンプル:商学部を卒業した社会人200人
調査協力:株式会社クロス・マーケティング
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【監修】曽和利光さん
株式会社人材研究所・代表取締役社長。1995年、京都大学教育学部教育心理学科卒業後、リクルートで人事コンサルタント、採用グループのゼネラルマネージャーなどを経験。その後、ライフネット生命、オープンハウスで人事部門責任者を務める。2011年に人事・採用コンサルティングや教育研修などを手掛ける人材研究所を設立。『「ネットワーク採用」とは何か』(労務行政)、『人事と採用のセオリー 成長企業に共通する組織運営の原理と原則』(ソシム)など著書多数。最新刊に『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)がある。
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