文系は、理系に比べて漠然と「就活が難しそう」などのイメージがあるかもしれませんが、実際には双方で大きな差はありません。企業が新卒採用の上で学生に期待している資質や、文系学生が就活の時にアピールできる要素、就活に向けた準備方法などを解説。キャリアコンサルタントとして活躍される、山田英子さんより詳しくお話をうかがいました。
目次
就職みらい研究所『就職プロセス調査』によると、2024年卒の大学生の内定率は、文系で96.1%、理系で98.8%(3月卒業時点)。文系と理系で2.7%のわずかな差はあるものの、比率としての大きな相違はありません。
さらに経団連による『採用と大学改革への期待に関するアンケート結果』では、企業が大学新卒者に期待する知識として、「文系・理系の枠を超えた知識・教養」を最も重視しているとのデータも出ています。つまり学部ごとの専門性よりも、学生生活の中で蓄積した総合力が高く評価されるともいえるでしょう。
このように基本的には、文系と理系で就活の難易度にはさほど違いはありません。ただし文系の場合は、大学における専攻に関連しない業界・職種を志望するケースも多く見られます。
ちなみに専門職以外の職種を選ぶことが多い文系学生の場合、選択肢が幅広く、そもそも志望する仕事の具体的なイメージが湧きづらいかもしれません。そこでまずは、どのような働き方がしたいのか、そもそも世の中にはどういった仕事があるのか、自己理解や職業理解から始めていくのがよいでしょう。
「リクナビ」ではインターンシップ&キャリアを検索したり、就活スケジュールのほか、就活準備に関するノウハウ記事をチェックしたりすることができます。学生時代の過ごし方を考える際、就活に関する情報も確認してみましょう。
基本的に新卒人材には就業経験がないため、今後の伸びしろとなる潜在能力を重視する、ポテンシャル採用を行っているケースが多く見られます。具体的に、新卒時点の潜在能力として評価されやすいのは、次のような4つの要素が挙げられます。学生生活を振り返って、こうした要素を発揮した経験があるか考えてみるとよいでしょう。さらにエントリーシートや面接でアピールする際、具体的なエピソードと併せて伝えることで、企業にあなたの強みとしてより伝わるでしょう。
主体性とは、自らの考えを持って行動に移すことができる能力で、受動的ではなく能動的に動こうとする姿勢を指します。例えば新たなアイデアや意見を積極的に発信したり、自分から何かできそうなことを提案したりなど、主体性が高い行動として評価されやすいでしょう。
業務を遂行する上では、単純な指示待ちではなく、指示以上の完成度を自分から追求しようとする主体性があることで成長率は高まります。こうした主体性の高さから、今後の成長度を見込んで採用するケースも多く見られます。
対人能力は、組織の仲間と相乗して力を発揮するために求められる資質です。どのような仕事も、基本的には何らかの形で、社内外の人とかかわりながら進めることになります。企業という組織全体でより良い成果を上げるためには、一人ひとりが周囲と協力したり、与えられた役割を理解して貢献しようとしたりする姿勢が欠かせません。そのベースとなる資質がチームワーク・リーダーシップ・協調性であり、新卒採用時にも評価されやすいポイントです。
なおそのほかの対人能力として、積極的に人と人との関係性をつくろうとするコミュニケーション力や、他者を尊重する柔軟性などもビジネスに役立つものです。また業務を遂行する中では、お互いの意見や要求を擦り合わせて結論に落とし込むための交渉力・調整力などが求められる場面も多く、就活でアピールできる要素といえます。
自分から現状に対する課題を見つけ出して、その解決に向けて行動しようとする姿勢を指します。
業務を遂行する中で、自己成長を続けるためには、客観的な視点で改善を試みることが重要です。例えば課題設定・解決能力があることで、今の自分に足りないスキルや失敗の原因などを認識し、今後どう行動すべきなのか工夫できます。また高い課題設定・解決能力があれば、社内全体の問題を探り出し、その解消に向けた対策ができる人材としても期待できます。自分の中での気づきだけでなく、周囲の環境に対する課題意識が持てるのも、企業からは高く評価されます。なおかつ周囲を巻き込んで解決に向けた行動ができれば、主体性にも相乗する力としてアピールできるでしょう。課題設定・解決能力は、人材自身の成長や、組織全体のブラッシュアップなどにつながる基礎力となる資質です。
主観や直感ではなく、確かな根拠を基に矛盾なく結論を出せる能力を指します。例えばビジネス上の成果や課題解決に向けて、具体的にどう行動すべきなのか、的確な筋道を立てて考えていくのが論理的思考です。
論理的思考力は、現状と目指すべき姿にたどり着くまでの過程における問題・課題を見つけ出し、それらを言語化して、解決や達成に導く対策を具体的に結論付ける能力につながります。例えば、会議での発言や上司への報告、ビジネス文書の作成などにも、論理的思考が欠かせません。
では実際にエントリーシート(ES)の作成時などに、学生時代の取り組みや経験をどのようにアピールできるのか、具体的な例をご紹介していきます。次に挙げていく学生時代の経験やアピールできる能力などは、あくまでも一例のため、以下の内容も参考にしつつ、自分なら何をどうアピールできるのか検討してみましょう。
学業やゼミ活動では、例えば苦手な科目やレポートを克服したり、試験で高得点を取るために対策したりなど、自分の中の問題を見いだして工夫する場面も多く出てくるでしょう。こうした経験は、課題設定・解決能力としてアピールできます。
そのほかにもゼミ活動の研究では、自らテーマを決めて結論に向けて調べ上げる主体性や、調査結果に基づいて結論付ける論理的思考なども、強みとして提示できます。またグループワークにおけるチーム行動時のリーダーシップや協調性、現地調査時の取材の申し込みや各種調整に伴う交渉力・調整力なども、対人能力として評価されやすいポイントです。
サークル活動や部活動では、周りの仲間と協力する場面も多く出てきます。そこでチームを運営する上で果たしてきた、自分なりの役割を整理してみると、リーダーシップや協調性などの対人能力につながる強みに気づけるかもしれません。またサークル活動の中で、自分から何か企画して提案した経験などは、主体性を表す経験といえます。ほかにも部活動で、例えばレギュラーを勝ち取るために自主練を工夫した、大会優勝を目指して自ら計画して部員を巻き込んで練習したなどの経験は、課題設定・解決能力としてアピールできます。
アルバイトでも、周りのスタッフとのかかわり方などから、リーダーシップや協調性などの対人能力をアピールできるケースが多く見られます。またアルバイトの業務を担う中で、与えられた役割以上の結果が出せるように工夫したり、集客を図る企画を提案したりなどの経験から、主体性を示すことも可能です。ほかにも例えば売り上げアップに向けて、現状の問題を見つけ出してその対策を実行した経験なども、課題設定・解決能力につながるエピソードとしてアピールできます。
留学の場合はそもそも異国で学ぼうとした姿勢や、海外に渡るための手配や準備をした経験は、主体性につながるものといえます。ただし留学をした事実だけではなく、あくまでその先で何を得たのか、アピールすることが重要です。例えば、慣れない留学先でのトラブルや悩みを解決したエピソードなどは、課題設定・解決能力を表す経験として提示できます。また各国からの留学生との交流の中で、お互いの文化・習慣・価値観を尊重し合って関係性を築いた経験などは、コミュニケーション力や柔軟性といった対人能力として評価されやすいでしょう。
趣味といっても内容はさまざまですが、「SNSが趣味でフォロワーを○名獲得した」「制作活動が趣味で自ら販売した」など、アピールにつながる経験をしているケースも多く見られます。どのような活動によってどういった結果を得たのか、具体的なプロセスを示すことで、趣味から自分の強みをアピールできる場合もあります。
例えばマラソンなら、目標タイムに近づくための課題を探り出し、タイム短縮に向けて解決策を考えた経験は、課題設定・解決能力につながるものといえます。ほかにもハンドメード作品を売った経験があれば、自ら販売計画を立てて売り上げを出すために工夫したことなど、主体性や論理的思考としてアピールできるでしょう。
またSNSでは、自分から投稿したい内容を企画したり、人脈をつくってフォロワーを獲得したりなど、主体性に直結する経験をしている場合も多く見られます。いいね数や拡散数を増やすための道筋を考えたことがあれば、そのプロセスを論理的思考としてアピールすることも可能です。
ただしSNSを通じた経験は、志望する業界や企業によっては、あまり評価につながらない場合も。SNSは比較的まだ新しい文化でもあり、企業によってはそもそも認識が薄かったり、中には悪いイメージを持っていたりすることも珍しくありません。広告・マーケティング・エンタメなどの業界であれば伝わりやすいかもしれませんが、特にあまりSNSとの関連性がない企業に対しては、先方の受け取り方を意識しておくことも重要です。志望する企業の社風や事業内容なども考慮した上で、SNSでの活動が強みになるのか十分に検討しましょう。もし不安なら、大学のキャリアセンターなどに相談して、あらかじめESの内容をチェックしてもらうのもいい方法です。
ではここからは、就活における選考時にしっかりと自己PRができるように、あらかじめ準備しておきたいことや今後に役立ちそうな活動について解説していきます。
大前提として、日ごろの学生生活の中で積んだ幅広い経験こそ、就活で評価される資質や能力につながっていきます。例えば就活時の実践的なスキルでいえば、特に文章力は普段のレポートなどを通じて論理的に伝わるように心がけておくと、ESの作成にも役立つでしょう。また教授との連絡でメールを使っている場合には、その都度ビジネスでも通用するような言い回しなどを心がけておくと、社会に出てからのやりとりで戸惑うことも少なくできます。
さらに基本的な敬語やマナーは、教授やキャリアセンターの担当者など、学内でも世代の異なる人と接する機会を実践の場として、意識的に使うことで身についていきます。同じ年齢層の学生同士ではなく、さまざまな人と話す機会を意識的につくっておくと、就活をはじめとした各場面のコミュニケーションもスムーズにできるようになっていきます。
ちなみに学業以外なら、例えばアルバイトでは実際に働く経験ができるため、社会に出るための練習にできる一面もあります。アルバイトを通じて社会人と一緒に仕事をしたり、メールや電話でお客さまに対応したり、ビジネスの基本や働く姿勢を学べるケースも多々見られます。
このようにまずは学生生活そのものに全力で励むことで、就活に直結する基礎力を磨くことができます。
特に専門職を志望しないのであれば、就職先の選択肢は無数にあり、学生のうちは明確な働くイメージがしづらいかもしれません。自分の目指すべき方向性がわからないと、そもそも就活に向けて動き出すのが難しく感じてしまうでしょう。
そこで就活がまだ始まる前の段階では、世の中にはどんな仕事があってどういった働き方ができるのか、まずは知ることからスタートするのがオススメです。さまざまな業界や職種を知って視野を広げておき、やりたいことが見つかるきっかけをつくっていくようにしましょう。そして理想とする将来像をかなえるには、どのような就職先を選ぶべきなのか、自分自身に対する理解も少しずつ深めていけるのがベストです。
例えば大学1年生~2年生では、オープン・カンパニーやキャリア教育と呼ばれる、主に職業理解に向けた説明会やセミナーなどのプログラムに参加できます。こうしたプログラムを積極的に活用して、どのような業界や企業があるのかリサーチしてみるのもいい方法です。さらに大学3年生以降は、5日以上の就業体験ができるインターンシップに参加することができます。特に長期の就業体験では、社会で役立つスキルも身につきやすく、就活に役立つ実践力にもつながります。こうした就活にかかわる知識を深められる活動は、早い段階から時間をかけて進めておくと、より良い選択がしやすくなります。
リクナビでは、さまざまな「インターンシップ」「オープン・カンパニー&キャリア教育等」のプログラムをみることができます。気になるプログラムがあるか見てみましょう。
もしやりたい仕事があるなら、実際の業務に役立つような資格や知識を習得しておくことで、自己PRに使える要素にできます。また仕事に直結しない資格や知識であっても、学ぼうとした意欲や習得に向けた過程など、その経験自体を自己PRとして活用することも可能です。何か少しでも興味があって、時間にも余裕がありそうなら、積極的に自分なりの学習を進めてチャレンジしてみるとよいでしょう。
就活を意識し過ぎるのではなく、単純に自分なりにやってみたいことを始めてみるのもいい方法です。新しくチャレンジした経験こそが、結果的に就活で役立つアピール要素になる可能性もあります。
また自分の中で多少でも将来の方向性が決まっているなら、そこを目指すための挑戦をしてみるのもよいでしょう。例えばざっくりとしたイメージであっても、「音楽業界に進みたい」などのビジョンがあったとします。それならば学生のうちに、イベントの音響など音楽業界にかかわるアルバイトをしてみることで、実際の業務で体験したエピソードを自己PRに使うこともできます。特に本格的な就活が始まる前の早い段階では、まだ期間として余裕があるので、自分からさまざまな経験をしてみるのも社会に出るための大切な準備といえます。
就職先の選択肢の幅が広くなりやすい文系学生の場合、まずはどのような仕事がしたいのか、明確なイメージをつくることが重要。そしてより良い選択をするためには、志望する就職先は、自分なりの人生設計から考えていくのがいい方法です。
少し難しく感じるかもしれませんが、例えば学生生活に励む中で面白く感じたりやりがいが得られたりする瞬間を見つけていくことで、「自分はこんなことがやりたいんだ」といった方向性が定まっていきます。こうした日常の気づきを集めていくことで、志望する就職先につながるようなイメージも固まっていくでしょう。
このように志望する就職先を決める段階から、学生生活での経験が大きく影響します。そのため大前提として、思う存分に学生生活を充実させることが、就活に欠かせない準備になります。就活を意識することも大切ではありますが、まだ本格的に始まる前であれば、全力で学生生活に取り組むことを心がけておくことをオススメします。
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【監修】山田英子(やまだ・えいこ)さん
早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒業。 大手ファーストフードサー
ビス企業、人材サービス企業を経て、IT系コンサルティングファームに入
社。採用部門のリーダーとして新卒・中途採用業務全般に加え、就職セミナ
ーでの講演などの広報活動や人事制度設計などに携わる。2005年5月に個人事業
主として独立し、大学生の就活支援、社会人の転職支援などを中心に活
動中。 【保有資格】国家資格キャリアコンサルタント。米国CCE,Inc.認定G
CDF-Japanキャリアカウンセラー
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