「あなたのガクチカ(学生時代に力を入れたこと)は?」。就活のエントリーシート(ES)や面接では定番の質問ですが、「どんなテーマがいい?」「どうやって伝える?」など、戸惑う人も多いでしょう。そこで、人事として新卒採用を20年担当してきた採用のプロ、曽和利光さんに、ガクチカを聞く企業の意図とテーマの見つけ方、伝え方について聞きました。併せてテーマ別の例文もご紹介します。
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ガクチカとは「学生時代に力を入れたこと」の略です。就活ではほとんどの企業で聞かれる質問ですから、学生の間でも「ガクチカ」で定着しているでしょう。
ガクチカという質問には、学生が自由意思で何に取り組み、どのくらい頑張れたか?という「自発性」を知ろうとする意図があります。なぜなら現代の社会人には、従来の考え方にとらわれない、新しい価値を生み出す創造性が求められているからです。この時代では、各自のモチベーションの源泉は何か、どんな価値観の下、どんな目的を持って行動するのかが重視されるでしょう。
ガクチカと似ている質問に「自己PR」があります。ガクチカが学生時代の経験についてエピソードを中心に伝えるのに対し、自己PRは自身の「能力」や「強み」を端的に伝えるものです。
ESに自己PRとガクチカの両方が必要な場合、双方のエピソードが書き分けられるのが理想ですが、難しければかぶっても構いません。自己PRでは「自分はこんな人間です」「こんな強みがあります」といったアピールポイントに力点を置き、ガクチカでは「こんなふうに思考しました」「こんな工夫をしました」など、プロセスを詳しく伝えるようにすれば良いでしょう。
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【例文5つ】自己PRの書き方・伝え方と、人事に評価されるポイント
企業がガクチカで知りたいことと、それに対して何を伝えれば良いかを解説しましょう。
企業がガクチカを聞く場合、学生が自発的に行動したことに関して、どのような思考をし、どのような工夫をして、どのくらい情熱を傾けて頑張ったのかを知りたいと考えています。また、ガクチカを通して把握した学生の「人となり」や、行動の特徴について、「自分たちの会社で仕事をしていく上で合っているか」という観点から、入社後に活躍する期待値を判断しています。
ガクチカと聞くと、単純に「一番すごい経験を伝えればいいのだろう」と考える学生もいるかもしれません。しかし説明した通り、企業は学生の性格や特徴が自社に合うかどうかを見たいのであり、求めるものは企業によっても異なります。ガクチカでは、自分が「頑張った」と言えることの中から、その企業が求めている特徴が伝わるエピソードを選ぶことが大切です。
例えば、「高い目標を掲げて最後までやりきる人材」を求める企業に対して、「新しいことに挑戦する好奇心と行動力」を表すエピソードを伝えても、ニーズが一致しません。そういう場合は同じ経験、または別の経験の中から、自身が「粘り強く頑張ったこと」や、「あきらめずに取り組んだこと」について伝えられると、企業は自社の求める人材であるかどうかを判断することができるでしょう。
中にはガクチカが見つからずに困っている人もいると思います。そんなときは、どう考えれば良いのでしょうか。
「ガクチカがない」という学生は、「輝かしい結果がなければいけない」「ほかの人と同じような内容では評価されない」などという先入観があるのではないでしょうか。
人事が重視するのは、エピソードの華やかさではなく、ガクチカのプロセスに「人となりや特徴が表れているかどうか」の一点に尽きます。ですから、結果が出なかったり、失敗に終わったりした経験でもOKですし、特別な経験である必要もありません。そう考えれば、誰にでも「力を入れた」と思えることがいくつか見つかるはずです。
さらに言うと、ガクチカになるテーマは、「自分の好きなもの」だけとは限りません。最初は気が進まなかったことや、義務的なことでも、自分なりに面白さを追求した経験があれば、それは素晴らしいガクチカになります。なぜかというと、就職して誰もが「好きな仕事」に就けるとは限らないため、「地味な仕事でも自身で目標設定して楽しめるスキル」を企業は高く評価するからです。
ここで、学生の本分である学業に目を向けてはいかがでしょうか。例えば多くの人が体験している「楽に単位を取る工夫をした」というエピソードだけでも、その人の特徴がよく表れるものです。また、フィールドワークやプロジェクト形式の授業も増えており、そこで対人能力や運営スキルを磨いた経験があれば、それも良いテーマになります。
ガクチカのテーマの探し方についてお伝えしましょう。
まず学生時代の経験を振り返り、思いを強く持って取り組んできたことを探してみましょう。特に派手な行動や輝かしい結果は必要なく、日常的なものでも十分です。そのエピソードを通じて、自分が人事に知ってほしい人となりや、行動の特徴が明確に伝えられることを意識してみましょう。
採用ページなどを読み込み、企業が学生に対して求めることを把握します。その際、例えば同じ「チャレンジ精神」というワードがあっても、A社は「新しいものに挑戦する」に対して、B社は「ひとつの物を磨き上げる」など、企業によって目指すものが異なるため、各社の事業内容も併せて理解することが大切です。
企業が求めるものを把握したら、自身の経験の中から、それらとの接点や共通項があることを探してみましょう。その上で、「こんなふうに思考した」「こんな工夫をした」などのプロセスが詳しく伝わるように、経験をエピソードにしてみましょう。
自身の性格や特徴が表現されたエピソードがあれば、学業、アルバイト、サークル活動、留学経験、資格取得など、ありとあらゆるものをテーマとすることができます。一方で、ガクチカで取り上げるのにあまりふさわしくないテーマもあります。
ひとつは、あまりに「個人的な趣味性」が強すぎるもの。例えば、カメラのメーカーで写真について語るなど、企業の事業に関連のあるものなら良いかもしれません。しかし、まったく関係のない「推し活」などについて熱心に語っても、その企業の仕事で生かせる経験につなげるのは難しいでしょう。
もうひとつ、オススメできないのは、「新たな発見をする」「人に学ぶ」など、極端に抽象化したガクチカです。自分の内面と向き合うのは人として大切なことですが、社会人に求められるのは「思索」ではなく「行動」です。就活の場では「自分が何を思ってきたか」よりも「どんな行動をしたのか」に焦点を当てたエピソードを伝えるようにしましょう。
ガクチカを書くときは、最初に「私が力を入れたことは○○です」と概要を書き、次に具体的なエピソードを書き、「今後に生かせる何を得たか」で締めると読み手に伝わりやすくなります。
エピソードを書くときは、「問題・対策・結果」だけでなく、「環境・思考・苦労」についても盛り込むことが大切です。例えば同じ飲食店のアルバイトでも、席数が「10席」と「200席」では舞台背景が大きく違います。さらに「何を考えてこの行動を取ったか」「そのとき苦労したことは何か」もあれば、より共感できるエピソードになります。読み手にイメージが浮かぶように、「どんな状況で何を考え行動したか」を具体化するよう意識してください。
テーマ別にガクチカの例文を5つご紹介しましょう。
私が力を入れたことは、大学の単位を効率よく取得することです。大学時代は学業だけでなく、ボランティアや志望業界のアルバイトにも時間を使いたかったからです。履修登録の際はシラバスを確認し、同じ学部の先輩から情報を収集。極力空きコマを作らず、1、2年生で上限いっぱいの単位が取得できるよう綿密な計画を立てました。心がけたのは、提出課題を空きコマで片づけるなど、日々の勉強は大学内で完結させることです。難易度の高い単位もありましたが、全授業で履修友達をつくり、共に勉強することで乗り切りました。その結果、3年生以降はゼミのみに集中できました。計画性と、それを実行に移す工夫で、大学生活の時間を何倍も充実させることができたと思います。
私が力を入れたのは、自宅の近所にあるコンビニエンスストアのアルバイトです。最初は品出し、棚卸し、調理や宅配の受け取りなど覚えることが多く、要領が悪くてお客さまに叱られることがたびたびありました。でも半年ほどたつと、常連さんとの会話も増え、好みの商品を覚えて、「売れ筋は何か」「どの商品がいつ売れるのか」を観察するのが面白くなりました。売り上げが伸び悩んでいた時期、店長に「住宅街なので、シニアや主婦層向けの商材をもっと充実させてはどうか」と提案したことが実行されて、実際に売り上げが伸びたときは、大きなやりがいを感じました。日々の仕事の中に自分なりの着眼点を持つことで、結果につながることを知りました。
家族の食事作りに力を入れました。大学にお弁当を持っていくのを機に自立のつもりで、家族4人の朝食と夕食作りを3年続けています。学業と両立するには、いかに効率よく彩りとバランスの良いメニューをそろえるかが課題です。そのため料理ノートに毎週の献立を作成し、食料品の買い物とホームフリージング、常備菜作りを週2回にまとめています。またメインには、保温調理器に「おまかせ」できる料理を活用しています。学業が忙しい時期は大変でしたが、新メニューを披露した時の家族の楽しげな顔に励まされ、時にはインスタント食品を活用しながら続けてきました。今はレシピを見ずに作れるものが100品を超え、「継続は力なり」を実感しています。
私は、趣味のカメラに没頭しました。もともと友達の写真を撮るのが好きでしたが、「もっといろいろな表現がしたい」と一眼レフを購入してからは、身近な自然や風景の撮影をすることに夢中になりました。一眼レフは操作が難しく、最初はピントが合わないなどの失敗続きでしたが、「毎日撮る」「多くシャッターを切り、撮った写真を見直す」を繰り返すうち、次第にイメージ通りの写真が撮れるようになりました。その後SNSに写真用のアカウントを立ち上げたところ、8000人のフォロワーを獲得。「いつか日本で一緒に写真を撮ろう」と約束する海外のカメラ仲間もできました。コロナ禍でも好きなことを継続すれば、世界が広がる可能性を感じた経験でした。
英語劇のサークルで、新入生の勧誘に力を入れました。当時2年生が数名しかいなかったため、翌年以降の運営を考えて多くの仲間を迎えたかったからです。ところが準備を始めた矢先、新型コロナウイルスの影響で対面の勧誘が禁止に。そこでSNSでの勧誘に切り替えて、練習や合宿、舞台の様子を発信しました。そこでは私たちの魅力を伝えるだけではなく、授業のことや友達づくりについてなど、新入生からの質問や相談に応じ、コロナ禍での入学の不安を解消することに力を注ぎました。その結果、12名もの新入生が入部してくれることになりました。この経験から、他者に働きかけるときはまず相手の思いを受け止めることが大切だと学びました。
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【監修】曽和利光さん
株式会社人材研究所・代表取締役社長。1995年、京都大学教育学部教育心理学科卒業後、リクルートで人事コンサルタント、採用グループのゼネラルマネージャーなどを経験。その後、ライフネット生命、オープンハウスで人事部門責任者を務める。2011年に人事・採用コンサルティングや教育研修などを手掛ける人材研究所を設立。『「ネットワーク採用」とは何か』(労務行政)、『人事と採用のセオリー 成長企業に共通する組織運営の原理と原則』(ソシム)など著書多数。最新刊に『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)がある。
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