メーカーが製造した商品を仕入れて消費者に届ける事業を総称して流通業界という。流通は主に卸売業と小売業とに分かれ、百貨店や専門店は小売業に当たる。
流通のうち、卸売業はメーカーから商品を仕入れて、複数の小売店に販売する(卸売り販売)。小売業は、卸売業などから仕入れた商品を一般の消費者に直接販売する(小売り販売)。
小売業界には、多岐にわたる商品を店頭に陳列して販売する百貨店やスーパーマーケット、コンビニエンスストアに対し、特定の領域の商品を扱う「専門店」もある。例えば、衣料品を扱うアパレル店、医薬品や化粧品を中心にそろえるドラッグストア、電化製品などを取り扱う家電量販店などが、その代表格だ。
専門店の中には、製品の企画から製造、販売まで一貫して行う製造小売業(SPA)もある。製品の企画から製造、販売までを一貫して行うため、中間コストを減らすことができる。一方で、ほかの小売業以上に在庫のリスクを抱えることが課題になるが、店頭での売れ筋を見ながら、即座に商品企画に反映したり生産数を調整したりすることで課題を乗り越えようと工夫している。
小売業の店舗は、鉄道駅に近く都市の中心部にある「都市型店舗」と、幹線道路沿いやインターチェンジの近くなど鉄道駅からは離れた場所であることが多い「郊外型店舗」とに大別される。
百貨店はほとんどが都市型店舗で、品ぞろえは幅広く、店も大型のものが多い。郊外型店舗のうち、幹線道路沿いにあるものは「ロードサイド店舗」と呼ばれることもある。
専門店は取り扱う商品や業態によって店舗の形態や規模はさまざま。 例えば同じアパレル店でも、駅ビルにテナントとして入居するケースもあれば、駐車場つきのロードサイド店舗を構えることもある。
小売店が商品を企画しメーカーに製造を依頼するものの中には、全量を買い取ることを前提に自社ブランドとして販売するものもある。 それがプライベートブランド(以下、PB)商品だ。
PBはメーカーの商品に比べて価格を抑えた価格訴求型の商品と、生産者や素材にこだわって独自の意味づけをした品質訴求型の2タイプがある。コンビニエンスストアやドラッグストアでは、多くのPBが販売されている。
流通業界の現状について、小売業を中心に紹介する。
一般社団法人日本百貨店協会の「全国百貨店売上高概況」(2019年12月発表)によると、2019年の年間売上高は約5兆7547億円と前年より1.4%減で、市場規模は縮小傾向だ。特に少子高齢化の影響を受け、地方百貨店の苦戦が続いている。
大都市圏では、インバウンド(訪日外国人)の取り込みを続けてきた結果、外国人向けの販売額が、売り上げの中で一定の存在感を持つようになった。また高級路線の小売店として、ハイブランドや高品質品を消費者に訴求・提案する動きもある。一方、専門店をテナントとして招き入れる生き残り策を取る店舗もある。
コンビニエンスストアは、少子高齢化や女性の社会進出、ライフスタイルの変化に対応した調理品やおにぎりなどの中食で売り上げを伸ばしてきたが、成長は横ばいになりつつある。直近ではコーヒーの販売で新たな市場を開拓したが、それに続くようなヒット商品は生まれていない状態だ。
一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会は、2019年のコンビニチェーンの年間売上高は11兆1608億円と前年より1.7%増になったものの、来店客数は前年比をマイナスで推移し、174億5871億万人(前年比0.3%減)となったと発表した。
働き方改革への世間の注目が集まる中、コンビニエンスストアが24時間営業を維持するかどうかについても、関心が高まっている。
スーパーマーケットの主な販売品目は、「食料品」「衣料品」「住関品(日用雑貨品・医薬品・化粧品・家具・家電製品などを含む)」などに大別できる。
日本チェーンストア協会が発表した「チェーンストア販売概況」によると、2019年の同協会会員企業の総販売額は約12兆4325億円と4年連続でマイナス。特に専門店やインターネット販売の影響を受け衣料品の販売が7.1%減となったことが売上高に影響を及ぼしている。
今後、各社は生き残りを懸けて、グループ会社内での経営統合や、エリア別の事業会社への再編、業界内の他社買収(M&A)や、ライバル企業間での提携などの大胆な打ち手を考える必要性が高まっていくかもしれない。
大手専門店チェーンは、ホームセンター、ドラッグストア、家電量販店、靴専門店やスーツ専門店、カジュアル衣料専門店など多岐にわたる。成長を続けてきたホームセンターやドラッグストアは成長鈍化の懸念が指摘されている。
そんな中で、ホームセンターでは従来の家庭の日曜大工(DIY)向け製品に加え、建設関連のプロが使うような業務用の商品の取り扱いを強化し、売り上げアップを狙う取り組みなどが見られる。一方で、もともと建設関連のプロユーザー向けの作業服などを専門的に扱う店舗の商品が一般消費者からの人気を得て、一般消費者向け事業を強化するといった展開も生まれている。カジュアル衣料専門店では、国内事業が低迷しているものの、海外事業を広げることで収益を拡大しているケースもある。
このように、商品ラインナップの拡充や、顧客層の拡大などの打ち手によって、専門店の各社は生き残りやさらなる成長に向けた取り組みを続けている。
百貨店は従業員の女性比率が高い事業者も多い。このため女性が長く活躍できる職場を目指して、さまざまな仕組みづくりが行われてきた。その結果、女性の平均勤続年数が20年を超えている企業もある。百貨店だけでなく、持続可能な事業モデルを模索し、女性が働き続けられる仕組みづくりに取り組む企業も少なくない。
小売業界では、1980年代に消費者の利便性を高めるための営業時間の延長や定休日の見直しが広がり、コンビニエンスストアの24時間営業や、百貨店の1月2日からの初売り、年中無休営業などが広がった。しかし、人手不足や働き方改革に伴う消費者の生活時間の変化などを受け、小売業でも営業時間の見直しが広がっている。
百貨店や家電量販店にとって強力なライバルとなっているのが、ネットショップだ。経済産業省の調査では、2018年の日本国内のB to C向けのEC(Electronic Commerce、電子商取引)市場規模は、約18兆円と前年より8.96%増と拡大傾向であることがわかった。
各社はさまざまな販売業者の商品を1つのサイトでまとめて販売するオンラインショッピングモールが存在感を強める中で、人気のオンラインショッピングモールに出店したり、自社でネットショップ事業に乗り出して対抗したりしている。また、実店舗にタブレットを配備して、店頭にない商品をネット注文できるようにするなど、店舗とネットを連携・融合させる新たな取り組みも始まっている。
総務省の「通信利用動向調査」によると、2018年のインターネット利用率(個人)は79.8%。端末別に見ると、「スマートフォン」(59.5%)が最も高く、すでに「パソコン」(48.2%)を上回っている。
最近では、スマートフォン利用者に、スマートフォンのブラウザからECサイトを訪れてもらうだけではなく、小売事業者が提供するスマホ用の専用アプリを入れてもらって、アプリ上で商品購入などをしてもらう取り組みが盛んだ。アプリの方が、消費者にさまざまな情報を伝えやすいといったメリットがあるほか、クーポンやポイントシステムなどと連携させることで、アプリの利用率を高め、商品購入を促しやすくなることも期待される。
また、スマートフォンなどによるキャッシュレス決済が進むことで、ECサイトと実店舗の両方の購買履歴データを収集することが可能になり、データの分析や購入予測モデルの構築によって、顧客一人ひとりに合わせたマーケティングを行うことができるようになる。
そのほかにも、スマートフォン向けに割引クーポンを発行して来店を促すなど、インターネット(オンライン)を通じて、消費者をリアルな店舗(オフライン)での購買行動につなげるO2O(Online to Offlineの略)施策を打ち出している。
現在急拡大しているのが、C to C(Consumer to Consumer)と呼ばれる個人間の電子商取引だ。C to C のECの一つであるフリマアプリの市場規模は6392億円(経済産業省「平成30年度 わが国におけるデータ駆動型社会に関わる基盤整備報告書」より)と前年より32.2%増加。フリマアプリが登場した2012年から6年で巨大市場に成長しており、多くの小売業に影響を及ぼしている。
日本国外に住む人向けに販売する専用サイトの開発も盛んだ。 国を超えて商売をする「越境EC」は、今後の大きな成長分野。 経済産業省の報告書によると、2018年の中国向け越境EC市場は前年比18.2%増の1兆5345億円、米国向け越境EC市場は前年比15.6%増の8238億円だった。今後もEC市場開拓のためのさまざまな取り組みがされていくだろう。
観光庁の調査では、2019年のインバウンド(訪日外国人)の数は約3188万人(速報値)。1人当たりが日本に滞在中に支払った宿泊費や飲食費、買い物代などを合わせた旅行支出は平均で15.8万円。費目別に見たところ、「買物代」が旅行支出全体の34.6%(5.3万円)を占め、最も多かった。とりわけ中国国籍の旅行者の買物代は10.9 万円と特に高かった。
また日本政府観光局(JNTO)によると、2018年の土産物の購入場所は、「コンビニエンスストア」(71.1%)、「空港の免税店」(59.2%)、「ドラッグストア」(57.8%)、「百貨店・デパート」(55.8%)、「スーパーマーケット」(48.7%)の順で高く、さまざまな小売店で、インバウンド向けのビジネスを考える必要が高まっている。例えば、スタッフの語学力強化など、対応を進めていく必要があるだろう。
ただし、2020年に入って新型コロナウイルスの流行により、インバウンドの減少傾向が見られるなどの事態が生じており、今後もインバウンド市場に大きな影響を与えるようなニュースなどに注意を払っていく必要がありそうだ。
来店客のニーズを聞き取り、ふさわしい商品を提案・販売する仕事。
店舗のリーダーとして、店舗運営や人材の管理・育成などを担当。また、受発注管理やイベントの統括などを行う場合もある。
卸売業者やメーカーから、消費者のニーズや自社の売り場コンセプトに合った商品を見つけ出し、できるだけ安く仕入れる仕事。
百貨店やスーパーが、自ら商品を企画するケース(PB商品など)が増加。新しい自社企画商品を生み出せる人材は貴重だ。
商品の物流や在庫を管理する役割。店舗とインターネットの両方で販売する企業の場合、在庫管理は複雑になる。また、通販の場合は商品の届く速さも重要になる。そういった点からも、物流管理は、今後ますます重要になる。
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【監修】吉田賢哉(よしだ・けんや)さん
株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 上席主任研究員/シニアマネジャー
東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。新規事業やマーケティング、組織活性化など企業の成長を幅広く支援。従来の業界の区分が曖昧になり、変化が激しい時代の中で、ビジネスの今と将来を読むために、さまざまな情報の多角的・横断的な分析を実施。
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※記事制作時の業界状況を基にしています
志望業界や志望企業を絞り込んだり、志望動機をまとめたりするうえで、業界や業種への理解を深めるために「
業界ナビでは、各業界の仕組みや現状など、業界研究に役立つ情報をわかりやすく解説しています。業界の平均
目次(1)ファッション・服飾雑貨・繊維業界の概況(2)ファッション・服飾雑貨・繊維業界の仕組み(3)
医薬品は、大別すると、医師の処方箋が必要な「医療用医薬品」と、処方箋が不要な「一般用医薬品」の2つに分けられる。一般用医薬品は大衆薬、市販薬、OTC医薬品(Over The Counter:オーバー・ザ・カウンターの略で、カウンター越しに薬を販売することからついた名称)などとも呼ばれる。さらに一般用医薬品は、含有する成分などによって要指導医薬品、第1類・第2類・第3類の4つに分かれ、要指導医薬品と第1類医薬品の販売には、薬剤師からの情報提供や指導が義務付けられている。
生活協同組合
18.2
メガネ・コンタクト・医療機器
15.2
百貨店・デパート・複合商業施設
14.2
スーパー・ストア
13.6
ホームセンター
13.6
自動車・輸送機器
12.5
コンビニエンスストア
12.1
家電・事務機器・カメラ
11.3
音楽・書籍・インテリア
11.1
その他百貨店・専門店・流通・小売
11.1
スポーツ用品
10.5
ファッション・服飾雑貨・繊維
10.3
ドラッグストア・医薬品・化粧品・調剤薬局
9.0
家電・事務機器・カメラ
34.1
スポーツ用品
35.8
ファッション・服飾雑貨・繊維
36.3
ドラッグストア・医薬品・化粧品・調剤薬局
36.7
その他百貨店・専門店・流通・小売
37.0
自動車・輸送機器
37.4
音楽・書籍・インテリア
37.8
コンビニエンスストア
38.7
メガネ・コンタクト・医療機器
39.2
百貨店・デパート・複合商業施設
40.1
スーパー・ストア
40.2
ホームセンター
40.2
生活協同組合
43.3
メガネ・コンタクト・医療機器
100.0
音楽・書籍・インテリア
100.0
コンビニエンスストア
100.0
ドラッグストア・医薬品・化粧品・調剤薬局
98.3
百貨店・デパート・複合商業施設
98.0
スーパー・ストア
97.9
自動車・輸送機器
97.9
その他百貨店・専門店・流通・小売
97.1
生活協同組合
96.6
ファッション・服飾雑貨・繊維
94.9
ホームセンター
94.1
家電・事務機器・カメラ
93.5
スポーツ用品
91.7
メガネ・コンタクト・医療機器
46.9
生活協同組合
46.9
ドラッグストア・医薬品・化粧品・調剤薬局
45.8
その他百貨店・専門店・流通・小売
42.2
ファッション・服飾雑貨・繊維
36.7
家電・事務機器・カメラ
34.6
スーパー・ストア
33.4
音楽・書籍・インテリア
33.0
コンビニエンスストア
28.4
ホームセンター
28.4
百貨店・デパート・複合商業施設
26.1
自動車・輸送機器
25.3
スポーツ用品
17.4
メガネ・コンタクト・医療機器
7.4
百貨店・デパート・複合商業施設
9.8
ドラッグストア・医薬品・化粧品・調剤薬局
10.3
ファッション・服飾雑貨・繊維
10.7
音楽・書籍・インテリア
11.3
その他百貨店・専門店・流通・小売
12.7
ホームセンター
13.4
家電・事務機器・カメラ
13.6
生活協同組合
15.7
自動車・輸送機器
16.2
スーパー・ストア
18.9
コンビニエンスストア
20.2
スポーツ用品
20.5
百貨店・デパート・複合商業施設
10.8
ドラッグストア・医薬品・化粧品・調剤薬局
9.9
生活協同組合
9.9
家電・事務機器・カメラ
9.6
メガネ・コンタクト・医療機器
9.3
ファッション・服飾雑貨・繊維
9.2
ホームセンター
9.2
その他百貨店・専門店・流通・小売
9.1
スポーツ用品
9.1
コンビニエンスストア
9.0
スーパー・ストア
8.6
自動車・輸送機器
8.5
音楽・書籍・インテリア
8.1
ファッション・服飾雑貨・繊維
27.7
音楽・書籍・インテリア
23.2
家電・事務機器・カメラ
20.0
その他百貨店・専門店・流通・小売
19.2
ドラッグストア・医薬品・化粧品・調剤薬局
17.8
メガネ・コンタクト・医療機器
15.5
コンビニエンスストア
13.3
生活協同組合
9.7
自動車・輸送機器
9.0
スーパー・ストア
8.8
百貨店・デパート・複合商業施設
4.4
ホームセンター
3.9
スポーツ用品
3.4
ファッション・服飾雑貨・繊維
37.7
音楽・書籍・インテリア
37.2
その他百貨店・専門店・流通・小売
30.2
ドラッグストア・医薬品・化粧品・調剤薬局
28.1
メガネ・コンタクト・医療機器
21.7
百貨店・デパート・複合商業施設
21.1
家電・事務機器・カメラ
20.7
コンビニエンスストア
17.7
スポーツ用品
10.3
生活協同組合
9.7
スーパー・ストア
9.0
自動車・輸送機器
6.9
ホームセンター
4.4
※1 2024年3月6日時点のリクナビ2024の掲載情報に基づいた各企業直近集計データを元に算出