海運業界とは、船舶を使って国内外に貨物を運ぶ業界のことです。資源の多くを海外からの輸入に頼っている日本にとって、経済を支える大切なインフラの一つと言えます。海運業界に興味がある就活生に向けて、海運業界の役割や外航海運と内航海運の違い、主なビジネスモデル、今後の動向などをまとめました。
海運業界とは
海運業界は、船舶を使って国内外に貨物を運ぶ業界のことです。島国の日本は食料、エネルギー資源、工業原料といったあらゆる資源を海外からの輸入に頼っているため、海運業界は物流インフラとして欠かせない存在と言えます。
物流業界の中での海運業界の位置付け
物流業界は、陸路輸送を行う陸運業界、空路輸送を行う空運業界、海路輸送を行う海運業界によって成り立っています。
陸運は国内の短中距離輸送に適しており、空運は高速かつ長距離の輸送を得意としているところが特徴です。一方、海運はほかの輸送方法と比べて時間がかかるものの、大量の貨物を一度に運ぶことができます。輸送コストもほかの運搬方法と比べて安いほか、自動車をはじめとする重い物資の大量輸送も可能です。スピードよりも輸送量やコスト効率を重視したいときに、特に重用されやすい輸送方法と言えるでしょう。
外航海運と内航海運の違い
海運は、大きく「外航海運」と「内航海運」の2つに分けられます。
外航海運は、外国と日本間の輸送を担う事業です。日本郵船株式会社、株式会社商船三井、川崎汽船株式会社の大手3社がシェアを占め、幅広い貨物を取り扱っています。
一方、内航海運は日本国内の港同士の輸送を担っています。主に石油製品やセメント、自動車などを海路で運んでおり、陸運の負担軽減や物流効率化にも貢献しているところが特徴です。内航海運は主に中小企業が担っており、1隻の船舶を使ってビジネスを営む「一杯船主」の企業も珍しくありません。
海運業界のビジネスモデル
海運業界は主に「物資の輸送」と「船舶の賃貸や売買」という、2つのビジネスモデルで収益を得ています。それぞれの特徴をまとめました。
物資の輸送
貨物を船舶で輸送することで収益を得るビジネスモデルです。船舶にはあらかじめ航路やスケジュールが決まっている「定期船」と、顧客の要望に応じて航路や運航スケジュールを柔軟に設定する「不定期船」があり、状況に応じて使い分けられています。
また、船舶には以下のような種類があります。
- コンテナ船…日用品、食品、家電、機械部品、衣類などをコンテナ単位で運ぶ
- ばら積み船(ドライバルク船)…鉄鉱石、石炭、穀物などを大量輸送できる
- タンカー…液体の資源を輸送できる。原油や石油製品、液体化学製品などを運ぶ
※液化天然ガスなどを運ぶタンカーはLNG船と呼ばれる - クルーズ船…旅客向けの船。数ヶ月かけて世界各地をクルージングするものから、日帰りで船旅を楽しめるものまで、さまざまなタイプがある
船舶の賃貸や売買
海上輸送には船舶が必要ですが、造船には莫大(ばくだい)なコストと年単位の時間がかかります。よって海運業界の各社は、自社で保有する船舶を貸し出したり、時には売買したりすることで、需要とのバランスを取りながら収益につなげていることが多いです。また、船舶のオーナー(船主)となり、船舶を海運会社に貸し付けることで収益を得ている企業や個人も存在します。輸送以外の大きな収益源と言えるでしょう。
海運業界の主な企業と特徴
海運業界には、海運大手3社と呼ばれる日本郵船株式会社、株式会社商船三井、川崎汽船株式会社を中心として、さまざまな企業が存在しています。海運業界を担う主な企業の特徴をまとめました。
日本郵船株式会社
日本郵船株式会社は、約800隻もの運航船舶を保有する海運会社です。海運に加えて陸・空の輸送網も有しており、あらゆる輸送形態を提供できる総合物流企業として成長を続けています。よりクリーンなエネルギーで運航できる船舶の開発など、地球環境を守るための脱炭素活動にも力を入れているところが特徴です。
株式会社商船三井
株式会社商船三井は、資源やエネルギー輸送に強みを持つ海運会社です。近年は洋上風力発電関連事業や浮体式データセンターの開発などにも取り組んでおり、海運の枠を超えたインフラ事業の展開も進めています。
川崎汽船株式会社
川崎汽船株式会社は、自動車船事業を主力とする海運会社です。世界有数の自動車船隊を運航しており、一般車両に加えてバスやトラックといった大型車両の輸送にも対応しています。
NSユナイテッド海運株式会社
鉄鉱石や石炭などを運ぶ「ばら積み船」を主力とする海運会社です。日本製鉄グループとのつながりが深く、製鉄業や電力業を支える資源輸送を得意としています。
飯野海運株式会社
タンカーやガス輸送船を中心とした海運事業を展開している会社です。海運業は天候や地政学的なリスクがあることから、安定的な収益源の確保に向けて、不動産事業にも注力しています。
栗林商船株式会社
主に北海道と本州間の海上輸送を手がけている内航海運会社です。貨物を積み込んだトレーラーなどがそのまま乗り込めるRORO船の運航を強みとしており、長年にわたり国内の物流を支えています。
海運業界の主な職種と仕事内容
海運業界は、実際に船舶へ乗り込んで航海を担う「海上職」と、陸上から船舶の運航管理や物流の調整などを行う「陸上職」が連携することで成り立っています。それぞれの主な職種と仕事内容をまとめました。
海上職の仕事内容
■航海士
航海と荷役(荷の積み込みや荷降ろし)を担うポジションです。航海では最適な航路を決めた上で、天候や状況に応じて針路を調整します。貨物の安全な積み込みや、保守・管理を監督することも大切な役目と言えます。船旅は長期になることが多いため、数カ月単位で乗船と休暇を繰り返す働き方が一般的です。なお、勤務に当たっては海技士国家試験に合格する必要があります。
■機関士
航行に必要な機関設備の運転・点検・保守を担当するポジションです。船内ポンプや発電機といった、船内生活に欠かせない設備の管理も行います。航海士と同じく、海技士国家試験への合格が必要です。
陸上職の仕事内容
■営業
荷主企業に対して、貨物の種類や量、納期に応じて最適な輸送方法を提案するポジションです。運賃交渉や長期契約の調整なども担います。
■運航管理
寄港地や積載量などを踏まえて、船舶の運航計画を立てます。天候や港の混雑状況といった外部要因にも左右されるため、状況に応じた調整が必要です。
■船舶調達
顧客の依頼に合わせて、必要な船舶を手配するポジションです。市場の需要に応じて、臨機応変に船隊を増強または縮小する役目も担います。
海運業界の現状と課題
海外の海運企業の多くは特定の貨物に特化していますが、日本の大手3社はコンテナ、自動車、資源、エネルギーなど幅広い貨物を扱うことができる点が特徴です。さまざまな輸送ニーズに対応できる総合力は、日本の海運業界の強みと言えるでしょう。洋上風力発電の建設・保守のサポートといった新規事業にも着手しており、引き続き成長が期待できる業界と言えます。
一方で、海運業界は景気や国際情勢の影響を受けやすい業界でもあります。世界経済が停滞すると輸送量が減少しやすく、運賃の下落によって業績が大きく変動することも珍しくありません。また、海外の海運会社との競争も激しいことから、日本商船隊(日本の外航海運企業が運航する外航商船群のこと)の輸送シェアを向上させる取り組みも欠かせません。海運業界が直面している大きな課題としては、以下が挙げられます。
海上就職率の維持・向上に向けた取り組み
少子高齢化により、特に内航海運では船員の高齢化が進んでいましたが、近年は若年層の船員人口の割合が増えています。ただし、生産年齢人口の減少は海運業界でも引き続きの課題となっています。国土交通省が船員を養成するための学校の運営や練習船の設置を行うなど、次世代人材の確保に向けた海上就職率の維持・向上に向けた取り組みは続いています。
脱炭素に向けた対応
国際海運は2023年、脱炭素社会の実現に向けて、「2050年ごろまでにGHG(温室効果ガス)排出ゼロ」という目標を掲げました。日本政府も世界共通の目標に合意しており、「2030年までにGHG排出を20~30%削減」といった目安も設定しています。国内の海運企業各社もカーボンニュートラル化に向けて次世代燃料への対応や、省エネ性能の高い船への投資などを行っています。
海運業界の知っておきたいトピックス
最後に、就活生が知っておきたい海運業界のトピックスをまとめました。
DXによる運航・物流の高度化
海運業界は国内市場の中でも、先んじてDX化に取り組んできた業界です。エンジン音のモニタリングによって機器の故障を早めに検知できるようにしたり、世界の天気や海流をリアルタイムで分析して燃料効率の良い航路を算出したりなど、業務効率化に向けてIT技術の導入が進められてきました。昨今は自動運航船の開発を通して、船員の拘束時間や負担を緩和する取り組みも進められています。
クルーズ船ビジネスを強化する動き
訪日旅行客の増加や、国内のクルーズ需要の高まりを受けて、クルーズ船ビジネスを強化する動きが見られます。例えば2024年12月には商船三井のグループ会社(商船三井クルーズ株式会社)が「三井オーシャンフジ」を、2025年7月には日本郵船のグループ会社(郵船クルーズ株式会社)が「飛鳥Ⅲ」を就航させました。加えて2028年には、アミューズメントパークの運営を手がける株式会社オリエンタルランドもクルーズ事業に参入する見込みです。市場のさらなる成長が期待されています。
まとめ
海運業界の特徴や主な職種、業界の動向などについてご紹介しました。海運各社はそれぞれ得意とする貨物や分野が異なるため、業界研究や企業研究を通して理解を深めておくことが大切です。海運業界に関するインターンシップやオープン・カンパニーなどのキャリア形成支援プログラムに興味がある方は、下記ページもぜひチェックしてみてください。
東京工業大学(現:東京科学大学)大学院社会理工学研究科修士課程修了。新規事業やマーケティング、組織活性化など企業の成長を幅広く支援。従来の業界の区分が曖昧になり、変化が激しい時代の中で、ビジネスの今と将来を読むために、さまざまな情報の多角的・横断的な分析を実施。
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