総合商社は、幅広い産業分野で、原料や加工品、サービスなどあらゆる商材を扱って、売りたい相手と買いたい相手を結び付け、取引の仲介をする。また、事業や商材を売り出すために、販売チャネルの開拓や新たな物流ネットワークづくりや金融・保険機能を果たしたり、国際的なプロジェクトを手がけたりする。例えば電力や交通などのインフラ事業やそれに関連する取引を手がけるのも総合商社の仕事だ。
総合商社のほかには、医療・医薬、鉄鋼、食品など特定の分野に絞って取引を手がける「専門商社」がある。
総合商社は知名度が高く、学生からの人気も高い。一方、専門商社の中には、その分野で圧倒的な存在感を発揮しているなど、隠れた優良企業もある。
総合商社の特徴は、情報収集力によるマーケット分析やリスクマネジメント、豊富な資金力によるビジネスサポート、グローバルな物流網や販路の構築などにある。こうした強みを生かして、総合商社の収益の柱となっているのが「トレーディング」と「事業投資」「事業経営」だ。
トレーディングは、原料や商品、サービスなどの商材を扱って手数料を得る商社の伝統的なビジネス。小麦の買い付けから航空機の売買やリース・ファイナンスまで、あらゆるジャンルを扱う。
もう1つの柱として伸びているのが事業投資だ。豊富な情報と資金力、経営ノウハウなどを投入して有望な事業に投資し、配当などの形で利益を得る。例えば、石油やガス探鉱開発事業もその一つだ。海外でのコンビニエンスストア事業など、生活産業分野での事業投資に力を入れているところもある。最近では、再生可能エネルギーの事業においても、総合商社の存在感は増している。
事業投資では、各企業が長い年月をかけて築き上げてきたノウハウや情報網、取引先ネットワークなどを活用して、事業のバリューチェーン(原料の生産・調達から製造、流通、販売までの一連の流れ)を強化することで、より大きな利益を上げようとする取り組みが活発化している。
食品事業を例にとると、以下のような流れが存在している。
総合商社は、各ステップにおいて、実力や実績のある取引先に協力を要請したり、過去の類似事業の経験を活用して効率的に課題解決やコスト削減に取り組んだりできるので、バリューチェーン全体の強化を効果的に進めることが可能だ。
事業投資のみでなく、より地に足を着けて取り組むため、事業面の改善などを手がけ、事業経営そのものに取り組む総合商社も増えている。海外でのコンビニエンスストア事業や病院などの経営、日本国内での水産業における陸上養殖など、さまざまな分野で事業経営に取り組むようになってきている。
商社業界では、近年DX(※)に注力する傾向がある。
新型コロナウイルス感染症が流行したことにも関連し、顧客との取引の電子化対応(いわゆるECサイトの構築・運営)を強化し、アナログからデジタル化を通じて顧客の利便性向上や自社の業務効率化を図る商社も増えている。また、自社の取引をデジタル化することで、各種データを扱いやすくなり、売れ筋商品の情報や顧客動向などを把握・分析することが可能になっている。
また、デジタルデータの収集・蓄積を通じて、マーケティング分析などが可能になり、取引先のビジネスにおける顧客ニーズを伝えたり、商品改良のアイデアを提示したりするなど、顧客への新たな価値提供に取り組むケースも増えてきている。
※DX…デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)の略語。デジタル技術を活用した変革のこと。企業が業務プロセスや、製品・サービス、ビジネスモデルを変革すること。
専門商社は、その名の通り、扱う商材や分野が専門ジャンルに特化している。主に3つのタイプがあり、大手メーカーと関係の深い企業、総合商社と関係の深い企業、そして特定の企業と深い関係はないが、特定の商材に強い企業がある。
専門商社の多くは、トレーディング事業が中心で、その商取引は国内市場に依存する比率が高い。しかし近年はメーカーが自社で原料や製品の調達・売買を手がけるなど、商社を経由せずに直接取引が行われるケースもある。
そこで、収益の柱をトレーディング以外の分野で模索している企業もある。例えば、医薬品を扱う専門商社が調剤薬局の運営に乗り出したり、燃料を扱う専門商社が家庭向けの電力小売事業に参入したりするなど、より消費者に近い分野に進出する動きが目立ってきている。反対に、メーカーや海外企業と提携するなどして生産工場を保有し、モノづくりに乗り出す動きもある。
総合商社は、さまざまな産業の中で時流をとらえ、事業のライフサイクルを見据えて「事業ポートフォリオ」(自社が手がけている事業の一覧)を見直し、有望な分野に軸足を移しながら成長してきた。
近年に大きな収益を上げてきたのは、資源・エネルギー分野のビジネスだが、好況時には大きな利益を生み出すことが期待される半面、市況により大幅な減益となるケースがあることから、資源・エネルギー分野に依存しすぎない体制構築が課題となってきていた。
そのため、これに加えて食品分野や、金融分野、コンビニエンスストアなどの小売分野など、幅広い分野での事業投資を行うことで、リスクを分散させながら、新たなビジネスチャンスを見つけ出して新規の投資を行っていくことで、さらなる成長を模索している。
国内市場は人口減少によって今後大きな成長は望みにくい。そこで、これまで主に国内で収益を上げていた専門商社の中にも、海外進出によって売り上げ拡大を目指すところが増えている。
総合商社や一部の専門商社は、天然資源・エネルギーや各種原材料などを海外から日本国内に輸入したり、日本の製品を海外向けに輸出したりするなど、日々の業務を通じて海外と深くかかわりを持つケースが少なくない。日本の国内市場は少子高齢化などの背景があるため、長期的に縮小していくことが懸念されていることもあり、商社にとって海外とのかかわりは、今後ますます重要になっていくと見込まれる。
一方で、海外ビジネスには、紛争の発生や、対象国の急激な景気悪化などによる混乱、対日感情の悪化など、さまざまなリスクが存在している。複雑に変化する国際情勢に注意を払いながら、ビジネスを行う国・地域のリスクを見極め、対応していくことが求められる。
他業種の営業職のように自社の製品・サービスを売ることに加えて、企画力や事業をつくる力などが求められる。持ち前の情報網を生かして複数の企業の事業と事業をつなぎ、ネットワークを構築するところからかかわることもある。海外の仕入れ先などに対応することも多い。
どのような事業を立ち上げ、どの企業に投資をしていくか企画・立案し、事業計画を立てる。自社のネットワークを活用しながら、事業に必要なリソースを集めて全体をコーディネートする力も求められる。時には取引先企業の経営方針立案などにも携わるなどして、企業の経営を支援することもある。
営業担当者を助け、電話応対や書類整理などを担当する。商社の場合、外国語での対応が求められるケースも多い。ほかに、原料や製品を輸出入する際、税関を通す業務(通関)に必要な手続きを担当する貿易事務もある。
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【監修】吉田賢哉(よしだ・けんや)さん
株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 上席主任研究員/シニアマネジャー
東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。新規事業やマーケティング、組織活性化など企業の成長を幅広く支援。従来の業界の区分が曖昧になり、変化が激しい時代の中で、ビジネスの今と将来を読むために、さまざまな情報の多角的・横断的な分析を実施。
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※記事制作時の業界状況を基にしています
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総合商社は、企業によって得意分野はあるものの、長年幅広い商品(鉄鋼、繊維、食品など)やサービスを扱ってきた。近年は、資源分野が収益の柱となっている企業が多かったが、鉄鉱石や原油価格の下落があり、2016年の3月期決算では業績を大きく落としたところも少なくなかった。最近の資源価格は回復傾向にあり、総合商社の業績は改善しつつある。
※1 2024年3月6日時点のリクナビ2024の掲載情報に基づいた各企業直近集計データを元に算出