株式会社たねや

社員のために「商いの心得」を説いた『末廣正統苑』という冊子があります。その冒頭には「道」とあります。道というのは売買だけのことではありません。お菓子屋として成り立つには、地域があり、原材料をつくる産地があり、きれいな水があり、それらをつなぐ心がしっかりしていることが最も大事です。原材料が手に入らなかったり、水が悪くなれば、お菓子屋を続けることはできません。商売をさせていただいているのも地域の方々のおかげです。私たちお菓子屋は地域の人々、豊かな自然と共にあるのです。そして本物を知ること。原材料ひとつとっても、なぜ美味しいのか、風味が違うのか？何事も掘り下げ本質を追求することを大切にしています。

お菓子には夢があります。ただ食べて美味しいということだけでなく、そこに物語ができあがっていく。ひとつのケーキがあって、そこにろうそくを立てたらシーンが生まれてきます。会話が出てきて、感動があったり、涙があったり、喜怒哀楽が出てくる。そして暮らしができあがっていく。お菓子屋は世の中にある仕事の中でも、人生の一番大事な瞬間に花を添える仕事です。愛の告白、誕生日、ウェディング、子どもが生まれたとき…人生の色んな場面に出てきます。そのことを忘れず、「みんなのためのお菓子というより、ひとりのためのお菓子をつくる」。その気持ちで、楽しみながら、夢のあるお菓子をつくっています。

会社が成長して大きな木となり、葉が繁り、花が咲き、実がなるためには、それを支える根が大事です。地上の木とは、いいお菓子やきれいに飾った見える部分。根とは、人。お客様と関わる人、作る人、考える人、材料を仕入れる人、農家の方々もいます。根が張っていなければすぐに枯れてしまいますが、しっかりとした地盤さえできれば、木は自然と成長していきます。だから、人を何よりも大切にしています。私たちの歴史は、「たねや」から始まりました。種から芽が出て、バームクーヘン（木の幹）が大きく育って、リーフパイ（葉）へと繋がり、さらにチョコレートやゼリーで「実」をつくっています。偶然にも植物の成長の通りになっているんです。