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特集003|これだからモノづくりはやめられない。

人類の宿題、交通事故ゼロ。自動車会社の原罪に、僕は一生、向きあい続けるよ。 富士重工業株式会社 スバル技術本部 電子商品設計部 主査 関口守

INTRODUCTION
2010年、TOKIOの山口達也がハンドルを握るCMが話題になった。「すげえぞ、これ!」彼にそう言わせたのは、ブレーキを踏むことなく障害物の直前でピタッと停止する先進の安全運転支援システム<EyeSight(ver.2)>だった。その開発の歴史は関口が入社したころに、さかのぼる。研究所に配属された関口は、当時<ステレオカメラ>と呼ばれたそのシステムの開発に伴走しながら、クルマとクルマ、道路とクルマの情報交換など、より広い安全運転支援へと乗り出す。

早すぎた挑戦。ステレオカメラ。
倒れ、潜り、そいつは<EyeSight>に。

あのテレビCMは異質だったと思う。車種ではなく、機能だけを見せるCM。ドライバーがブレーキから足を離したままでも、障害物の前でピタッとクルマを停めてみせる<EyeSight(ver.2)>だった。こいつを搭載したレガシィは2010年5月の発売後、目標搭載台数の4倍を超える売れ行きでスタートを切った。まさに「機能」が生み出したヒットだった。しかし、そこに至る技術屋の道は険しいイバラの道だった。僕の入社した2年後の1989年、こいつの開発は始まった。<EyeSight>なんてハイカラな名前などあるはずもなく、ステレオカメラ<ステカメ>と呼ばれていた時代だった。発火点は僕のいるスバル研究所。「人間は視覚情報をもとに運転しているのだから、運転支援システムも人間と同じ情報を得なきゃいかん」という哲学からだった。しかし、CPUの処理能力もブレーキやステアリングなど周辺デバイスも、まだその理想からはほど遠かった。不況の荒波の中「もう無理だろ。中止だ!中止!」という声に、時には潜り、時には闘い、エンジニアからエンジニアへバトンをつなぎながら<EyeSight>は生まれた。いま思う。うちの連中は、しぶとい。

「ステカメ頼む」と渡された助っ人のタスキ。
僕はそれを次の意志ある者へ渡す。

1994年頃だろうか。開発途上の<ステカメ>を商品化するという話が急浮上した。「すまんが関口、助っ人頼む。商品開発チームに入ってくれ」当時、研究所にいた僕は、そう突然告げられた。技術研究としての開発ではなく、商品化・量産化を前提とした開発。<ステカメ>自体の性能を追い求める研究所の開発陣と、「クルマとして成立させ、世に出さなければ」と考える僕たち商品開発陣に衝突は絶えなかった。「ふざけんな!商品化に制約があるのは当たり前だろ!制約の中で性能を出すのが開発者の仕事だ!」何度も本気でケンカした。モノになるかどうか、できるかどうかではなく、しなければと思った。それだけ僕は、「目」という人間が行動を起こすための外界認識手段に最も近いこのシステムのポテンシャルを信じ、その研究を続けてきた仲間の力を信じていた。しかし、僕は<ステカメ>が商品として日の目を見る前に研究所に戻ることになった。後ろ髪を引かれる思いだったが、<ステカメ>開発陣の力を信じて。数年後、僕は研究所の中で新しいプロジェクトに取り組んでいた。それは、<ステカメ>を軸にした次世代の自律型運転支援システムの開発と、さらにその先にあるインフラ協調システムの開発をめざすプロジェクトだった。

会社を超え、官民を超え
事故ゼロの理想に前進するのだ。

僕たちの前には、社内のお偉方やメディア関係者が、ずらりと並んでいた。『いや~さすがに緊張するな・・・』2003年夏、僕らはその時点での先端技術を結集し理想に近い自律自動運転の研究車両をつくり上げ、その自動運転っぷりをテストコースでプレゼンしたのだ。その名は<IVX>Intelligent Vehicle Xという。IVXは<ステカメ>とミリ波レーダーで障害物を認識し、高精度のGPSにより経路誘導を行う。つまり全部入り。念のためドライバーは乗るが、運転には介入しない。ステアリング、アクセル、ブレーキのすべてを自動化する。「頼むぜ。事故るなよ・・・」祈る中、IVXは見事に仕事をやり遂げた。だが、それはテストコースという外乱のない理想的な世界でのこと。『道は長いな』ホッとしつつ僕はそう思った。2009年2月、東京お台場。そこには自動車メーカー各社の実験車両が並んでいた。あらゆるクルマが走る実際の交通環境で「ライバルだから」などと鎖国していては、本当の安全なんて生まれない。業界全体として理想に近づけていくための実証実験だった。さらにそこへ交差点に設置された装置が発信する情報が参加する。1台のクルマが周囲のクルマや道路と会話しながら状況を把握し、事故になりそうな事態を予測してドライバーに知らせるのだ。その上で各車は独自の事故防止支援システムによって、目前に迫ったピンチを回避する。自律とインフラ協調。きっとこれで理想には近づく。理想。それは事故ゼロだ。

世の中を幸せにすることにこそ
技術屋の本当の喜びはある。

自分でステアリングを握りながら、僕はときどき思う。「俺が事故を起こしたらどうなるだろう?」きっと家族は泣き、悪友たちも寂しがるだろう。不幸は本人だけじゃなく、その先にいるたくさんの人にも及ぶ。だから僕は事故から人を守りたい。幸せを守りたい。それは志なんてもんじゃなく、自動車会社が自動車をつくる限り、背負うべき原罪だ。テクノロジーで解決すべき責務だ。<EyeSight>のように、一歩でも進んで商品として世の中に出していくことなんだ。開発は開発のためにあっちゃならん。そんな喜びは一瞬で終わる。なんのためか?を考え続けよう。それは世の中を変えるか?を考え続けよう。人のためになってこそ、技術屋の本当の喜びはある。「マジか!」とか「無理だ!」とか毎日のように飛び交うけれど、その本当の喜びを味わうと挫折すら楽しくなるもんだ。タフにいこうや。タフに。

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