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ビジネスパーソン研究FILE

Vol.28 「どんな映画にも伝えたい何かがある」

タフで過酷だと評判の宣伝担当に。限界を乗り越えて頑張る達成感を知り、一人前へと成長

根っからの映画好きが念願通りに映画会社に入社。そして、映画作品の宣伝を手がけることになった。…と聞けば、多くの人が「華やかな世界に入れてうらやましい」と思うだろう。
 しかし、片岡さんは違った。異動が決まったとき、むしろ呆然としてしまったのだという。
「忙しくて大変だという話を先輩から聞いていたし、過酷な仕事もタフにこなす人ばかりだと。“僕なんかに務まるわけがない!”と思いました」
 入社直後の配属先は、事業部事業推進室。映画関連グッズのモバイル通販の運営全般や、グッズ企画のアイディア出しなどを担当し、比較的マイペースで働ける部署であった。
「穏やかな部署から異動しただけに、当初は“あのなかでやっていけるのか”という不安を感じていましたね(笑)。もちろん、“宣伝が良くなければ映画もヒットしない”という意気込みはありましたが、とにかくついていくだけで必死の毎日でしたよ」

映画宣伝の仕事は、大きく分ければ3種類ある。まず、出版社やTV局、ラジオ局、映画ライターなどにコンタクトを取り、媒体で取り上げてもらうための売り込みをする「パブリシティ活動」。宣伝業務の責任者として作品の宣伝方針を決め、ターゲットの設定、ポスターや予告編の作成、出演者による宣伝活動の調整、映画の製作委員会の出資各社や監督、製作プロデューサーなど関係者での取りまとめなどを手がける「宣伝プロデューサー」。そして、宣伝プロデューサーの補佐をし、雑務一切を引き受ける「アシスタントプロデューサー」だ。
「最初のうちはいくつかの作品の手伝いをして雑務を覚えていきましたが、ひとつの壁を越えられたのは異動して半年後のこと。『子ぎつねヘレン』の宣伝を経験してからですね」
 片岡さんにとって、パブリシストとして最初から最後までがっちりと手がける初めての作品。公開前のパブリシティ担当は4人だったが、公開後にはチームは解散し、宣伝プロデューサーと片岡さんのみ。大ヒット御礼のイベントもほぼ1人で現場を仕切ることになったのだ。

「イベント内容は、有名アスリートによる絵本の読み聞かせ会。教えてくれる人や確認作業をしてくれる人がいなくなり、“全部を1人でやらなくちゃいけないのか”と焦りました。そのうえ、10日後位に開催したいと思っていたのですが、事務所から突然電話があり、“アスリートの都合が3日後なら空いているのだが”と。“えーっ!”と大慌て(笑)。会場の手配や調整はもちろん、人手が足りないからマスコミを呼び込む電話もほぼひとりでかけました。尋常じゃない忙しさにもうムリだと思うこともありました」
 何とか乗り越えられたのは一緒に働いていた宣伝プロデューサーの「やればできる」のひと言があったからだという。
「この宣伝プロデューサー自身がムチャクチャに働く人で、僕の何倍も働いているデキル人なんですよ。そんな人に“大丈夫。できるから”と言われれば、やるしかないでしょ! 限界を乗り越えて頑張った結果、イベントは大盛況でマスコミもたくさん集めることができた。やればやれるもんなんだな、という達成感を得られましたね。自分で考えて動けるようになり、自立心が芽生えたのもこの頃です」

 そしてこの1年後、片岡さんは最高の作品に出合い、初めて宣伝プロデューサーとなる。

2009年夏に公開した『HACHI 約束の犬』のイベント企画に向け、同僚の関根さんと秋田犬に関する資料をチェック。

「かつてない最高の一本」に出合い、宣伝プロデューサーを担当。試写会での拍手に感動!

宣伝の仕事にも慣れてきた1年後、片岡さんは「僕のこれまでの映画人生のなかでも最高の一本」と自ら断言するほどの作品に出合う。

「それが『河童のクゥと夏休み』でした。部長から“まだ宣伝プロデューサーがついていない作品があるんだが、片岡、そろそろやってみるか?”と軽いノリで言われて。おびえながら試写を観たら、とんでもなく面白くて、涙が出て、見終わった後も震えが止まらなかった。観る前までは“宣伝プロデューサーなんてやりたくもないし、自分に務まるわけがない”と思っていたけど、観終わった後は、“こんな素晴らしい作品に宣伝プロデューサーがつかないなんて! 僕がやるしかないだろ”と腹を括りましたね」
 しかし、製作委員会の会議では、ベテランの関係者たちに冷たくあしらわれてしまう。
「こんな若造を宣伝プロデューサーだと紹介されても、誰も信用するはずがないですよね。“コイツ大丈夫かよ”という冷たい視線を浴びましたが、僕自身だって“自分で大丈夫かよ”とツッコミを入れたかったですよ(笑)」
 とにかく信用してもらうために、一社一社宣伝プランを説明してまわる日々。毎日仕事で何らかのトラブルを起こす夢を見ては飛び起きるという状況だった。
「経験も自信もないけれど、とにかくすべてのことを考えられるだけ考えて、何をツッコまれても、答えられるようにしようと決意しました」
 先輩たちに相談し、ファミリー向けの過去の作品資料をかき集め、データも集めて研究し、ターゲットの設定も行った。公開日も未定という暗中模索の状態で「夏休みのファミリー向け映画として、大々的に試写を開催してクチコミで広げていく」という方針を打ち出した。
「とにかく、ツッコまれる量がハンパじゃなかった。具体的に“ああして”“こうして”と言われるうえに、それぞれの主張する内容が違うんです。課題を持ち帰っては、会議のキーパーソンとなる人にアドバイスをもらい、次回の会議に臨むようにしました。しだいに“若いけどやる気はあるね”と言われるようになり、信頼を得られたことが伝わってきましたよ。正直、投げ出したくなることもありましたが、“自分以上に河童のクゥを愛せる人間はいない。やらなきゃダメだ”と自分を励ましていましたね」
 作品への深い思い入れがあった片岡さんだけに、試写会を実施するときには、必ず自分も観るようにしていたという。
「皆、笑うところでは笑い、泣けるところでは一緒に涙してくれた。舞台挨拶のない試写会では拍手が出ることなんてまずないのに、毎回必ず、最後に拍手が湧き起こるんです。勇気づけられたし、感動しましたよ」
 公開後、目標としていた興行収入には届かなかったものの、クチコミでじわじわと広めていくことができたという。
「宣伝の仕事では、頭のなかでどれだけ先を読んで流れを組み立てられるかと同時に、現場での臨機応変さが重要です。自分の立てた目標に届かなかったのは残念でしたが、あれは、僕の限界以上の仕事だったと思います。ただ、未だにもっと良いやり方があったのではとよく考えてしまいます」

現在はパブリシティ(広報)活動を中心に手がけている片岡さんだが、『河童のクゥと夏休み』で宣伝プロデューサーを手がけたからこそ、全体が見えるようになったという。
「つくり手や製作委員会のメンバー(出資者)など、様々なポジションの人が何を求めているかを考え、当てずっぽうでない提案ができるようになりました。映画というものは、いろんな人の思いといろんな人の力でできあがっています。どんな作品にも、伝えたい何かが必ずある。それを汲んだうえで、お客さまに観たいと思っていただけるよう、作品の魅力を届けるのが宣伝の仕事なんです。好きじゃなければ、こんな仕事ワリに合いませんよ(笑)。映画が好きだからこそできるんですよね」

出版社の編集担当者に向け、今年の映画ラインナップの説明。作品の試写を観覧してもらい、感想を聞くことも。

片岡さんのキャリアステップ

STEP1
2004年 事業部・事業推進室時代(入社1年目)
新規事業を手がける部署にて、映画グッズの携帯通販部門を担当。モバイルで発注を受けるため、キャンセル連絡やクレーム対応なども行った。人気キャラクターの限定グッズ販売時には販売開始直後に売り切れ、「数が少ないぞ! 売る気があるのか!」とのお叱りも。コアなファンの熱狂さに驚いたが、同時に「映画業界を支えてくれているのはこういう人たちなのだ」と実感。
STEP2
2005年 事業部・事業推進室時代(入社2年目)
映画関連グッズのモバイル限定商品を企画する。映画『SHINOBI』で主人公が身につけていた首飾りのレプリカを作ることを提案し、100個限定で販売することに。美術担当からくわしい話を聞き、材料の仕入れから製作打ち合わせまで手がけ、ソックリなものが完成! おまけに一週間で完売御礼となり、アイディアを発信する面白さを体感。
STEP3
2006年 映画宣伝部・パブリシティ室時代(入社3年目)
映画宣伝部に異動。試写会の当日、「会場にフィルムが届いていない」との連絡が! 慌ててフィルムを担いでタクシーに乗り込み、ギリギリのタイミングでなんとか届けることができた。以来、確認連絡事項に慎重になった。いくつかの作品のパブリシティ(広報)活動とアシスタントプロデューサーを兼務しなくてはならないときもあり、時間のやりくりに四苦八苦した。
STEP4
2009年 映画宣伝部・パブリシティ室時代(入社6年目)
大物俳優の取材立ち会いやイベントを担当することが増えた。俳優に気持ち良く働いて貰うために、無駄の無い動線や移動手段を用意し、好みの飲み物や、部屋の温度にも注意を払う、神経を使う仕事だと痛感。しかし、『釣りバカ日誌20 ファイナル』の撮影現場では、西田敏行さんや三國連太郎さんらと共に、22年の釣りバカの歴史を締めくくるクランクアップ(撮影終了)に立ち会うことができ、「この仕事をしていてよかった」と感無量。『HACHI 約束の犬』では、リチャード・ギアの来日取材に立ち会い、インタビュー中の彼の背後でストップウォッチを握りしめて制限時間10分をカウントするという、地味ながら緊張を強いられる仕事も経験。

一日のスケジュール

9:50
出社。メールチェック後、一日のToDo事項を整理。
10:30
取材やイベントのスケジュール調整。出版社に掲載用の作品画像を送信。
12:30
同僚と一緒に築地の新鮮な魚を出す食堂でランチタイムを楽しむ。
13:15
マスコミ各社に電話し、宣伝営業活動のためのアポ取りを。
14:00
出版社、TV局、ラジオ局をめぐり、映画作品の売り込み。
18:00
帰社。チーム内で各映画作品の宣伝の進捗状況を共有。
20:30
会議資料の作成、宣伝資料の発送などの作業の後、退社。

片岡さんのプライベート

自宅に友人を招いてホームパーティー。出版関係者やTV関係者など、仕事で出会った人々がいい友人となり、長く続いているという。
昔から散歩が好きで、住まいの沿線である中央線沿いの公園をぶらぶら散歩することが楽しみ。デジカメで気になった風景を撮影している。
年間100本は映画を観ていたほどの映画好き。子どもが生まれて育児を手伝うようになった現在はDVDで作品を楽しんでいる。
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取材・文/上野真理子 撮影/早坂卓也 デザイン/ラナデザインアソシエイツ

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